真実を話すとき
ブクマ登録ありがとうございました。
取り囲んで来た騎士たちの姿を見ながらスレイたちは陛下の顔を見る。
相手は逆賊とは言え一応はこの国の騎士。本来なら切り捨てても問題はないがもしも陛下から捕縛を命令されれば、スレイたちは否応なく捕縛をすることになるだろう。
取り囲んでいる期したたちを見ながら剣の柄を握りしめたスレイとリーフ、そしてアルフォンソとルルに数人の生徒も剣を握っている。
「クソッ!完全に囲まれてるじゃねぇかッ!」
「集中しろロッドッ!」
彼らの持っている剣は先程の会場内で捕まえた騎士たちが持っていた物で、さすが人数分はなかったので武器を持っていない生徒には、スレイに予備のナイフを渡している。
そしてユフィとノクトを始め、魔法を使える生徒の中で空間収納に杖を入れていた生徒たちが一斉に杖を構えて警戒だけはしている。
ユフィの指示で非殺傷用の魔法の使用を伝えてあるので、巻添えで関係のない人間を殺すことはないのだが、陛下はスレイたちに剣を下ろすことを命令した。
「人質がいる。全員手を出すなよ」
それを聞いて騎士たちの背後に視線を向けてみると、そこには捕縛された舞踏会の参加者たちに剣を向けている騎士の姿を見つけた。
なんともまぁ、卑怯なことをする奴らだ、そう思いながらスレイたちは柄を握っていた手を放し、ユフィたちも杖に込めていた魔力を解くと杖をしたに下げる。
「賢明な判断ですね王。貴様らも手に持っている武器を捨てて投降しなさい。さすれば酷いことはしないよ」
こういう場合のこの台詞は絶対に信用ならない。
そう思ったスレイたちだったが国王陛下からの命令なので従うしかないだろう。ベルトから鞘やごと剣を抜いたスレイと抜身のまま剣をもっていたリーフたちは、騎士たちの前に剣を投げ捨てるとユフィたちも杖を捨てた。
スレイたちが丸腰になったのを確認した騎士の一人が下卑た笑みを浮かべる。
「へへへッ、妙な真似はするなよ?」
服装は騎士のに言っていることややっていることは完全に盗賊だと思っていると、元老院のじいさんが騎士たちに指示を与えた。
「お前たち、陛下をご丁重にお連れしなさい」
「はっ!」
命令された一人の騎士がヴィルヘルムの手に手枷をかけると、そのまま罪人などを乗せるための護送用の馬車の荷台に入れそのまま城の方へと連れていった。
その場に残されたスレイたち、これからどうなるのか、ある意味すぐに理解できる。
「後の者たちは好きにしなさい」
それだけを言い残すと元老院のじいさん連中は、自分たち用とわかる豪華な馬車に乗り込んでいった。
「まっ、待ってくれ!わしらも連れて行ってくれ!」
「そうよ、死にたくないわッ!」
おいていかれそうになった貴族たちの中に元老院へ助命願う者もいたのが、すぐに後か立ち上がった貴族が元老院のじいさんに耳打ちすると、手に持っていたい杖で貴族の一人を殴り飛ばした。
「ぐあっ、なっなにを!?」
「冒険者ごときに取り入ろうとした愚か者めが!さわるでないわ!!」
まるでゴミでも見るような蔑んだ目を倒れた貴族に向ける。
どうやら冒険者を取り込もうとした貴族、そしてその冒険者に育てられた生徒に媚を売ろうとした貴族は、どうあってもここで殺すつもりなのだろう。
「おい。取り押さえておきなさい」
「ハッ」
指示を受けた騎士たちが縋りよってきた貴族たちを押さえつける。
そのまま馬車に乗って去っていった元老院のじいさんたちが、その場を去ると騎士たちは残された貴族とスレイたちを見て、顔を卑しく歪めている。
「さぁって、俺たちは俺たちで楽しませてもらおうか」
「俺あの胸のでかい娘な」
「俺はあっちだな」
「まだガキだが楽しめそうだな」
毎度のことだが、こういうやからはどうしてすぐに女の体を狙ってくるのか、分かりやすくて大変よろしい。
殺しても全く罪悪感が持てない、正真正銘のクズだからだ。
スレイがアルフォンソのことを見ると、大きくため息をはいているのが見えた。つまり何しても問題ないのだろう。
「みなさ~ん、とりあえずこっち見ろやクズ」
騎士たちに向かってスレイが笑顔でそう告げると、騎士たちがメンチを切り始めたがそんなもの知ったものか、と言った笑顔で親指を立ててから、そのまま首をかっ斬るジェスチャーをしてそのまま下に向けた。
つまりは死ねと言うことだったが、こっちの人間に通じるのか?っと、疑問に思ったスレイだったが、どうやら普通に通じたらしく騎士たちが殺気を放ってくる。
「こいつを殺せ」
隊長らしき人の命令を聞いて騎士たちが剣を抜き始めた。
………かと思うとバタバタと騎士たちが地面に倒れていき、最後に残ったどのは他の騎士に命令を出した隊長らしき人だったが、それの首もとになにかが昇っていった。
「なっ、なんだこいつは!?」
隊長らしき人の首もとに登っていったのは、髑髏の形をした真っ黒な蛇だった。
「あ、それ、ボクのゴーレムで黒蛇っていって、そいつの歯にはとっても強力な毒が塗ってありまして、さっき倒れた人たちはもうこいつに噛みつかれてますよ」
「なっ、なにを!?」
もちろん嘘だ。
確かに黒蛇の口の牙には毒は仕込んであるが、毒は毒でもただの麻痺毒なので噛まれても半日は痺れがとれずに起き上がれなくなるだけ。
噛まれても死ぬことはないのだが、そんなこと相手が知るわけがないのでこのまま嘘をついておこう。
「みんな、今のうちに人質救出」
「おっ、おう!」
騎士たちが倒れている内にスレイが生徒たちに指示を出し、人質となっている貴族たちを助ける。
その間にスレイたちは捨てた剣を拾い上げ抜いておく。
「さぁ、噛まれるのが嫌ならあなたたちの目的を話してくださいね」
とりあえず黒蛇で縛ろうか、そう思っていると倒れていた騎士たちが起き上がった。
それを見てスレイは少し驚愕した。
「えっ、なんで!?」
驚いているスレイをよそに兵士たちはなにかに取りつかれたように呟いている。
「「「「「「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」」」」」」
呪詛を振り撒くようにそういい続ける騎士たち、さすがに怖いスレイだけでなくユフィとノクトも同じことを考えていたのか、揃って顔を引きつらしている。
さすがに麻痺毒が効かないのなら、もういっそ騎士たちの手足の骨を折って強制的にでも動きを止めるか、そう考えたスレイがユフィたちに確認をとろうとしたとき、上空から何かが降りてくるとスレイたちの前で眩い光を放ち出した。
「これは、いったい?」
「な、なんだ!?」
「あらあら、これって」
リーフとリュージュ夫妻、そして生徒や助けた人たちがが突然の発光現象に驚いているなか、スレイとユフィ、そしてノクトの三人だけはこの光に見覚えがあった。
『消え去れ』
光の中から現れた女性アストライアが手を横に凪ぐと、騎士たちの身体の中から赤黒いオーラが現れたそれに、今度は手を掲げるとそれを吸いとった。
『やはりこれは使徒の力ですね』
そう小さく呟くアストライアの元にスレイたちが駆け寄る。
「アストライアさま、やはりこの騒動は使徒のせいなんですね」
『えぇ。先程、私が彼らに取り付いていた使徒の力を消し去りました。多分ですがスレイのゴーレムの毒が効かなかったのもこれのせいでしょう』
「使徒の力が取り付いていた……ですか」
「でも、前の使徒はそんなことしてませんでしたよね?」
『この使徒は多分ですが感情を糧とする使徒でしょう。力の使徒と違い本体の戦闘能力は低いですが、人に取り付き操り、その者を使徒の眷族にする、嫌な相手です』
ユフィが使徒について聞こうとしたとき、今まで状況に付いてこれずに唖然としていたリーフが質問を投げ掛けてきた。
「そ、その、えっと、皆さん」
「どうしたんですかリーフお姉さん?」
「いや、どうしたもこうしたも、なんですか、そのお方!幽霊ですか!?透けてますよ!?」
捲し立てるようなリーフの言葉を聞いて、スレイたちはリーフたちはアストライアの存在を知らないことを思いだした。
「まずい、どうしよ」
「うぅ、どうしましょうか」
「そうしよっかな~?」
どう説明していいものかわからなかったが、変に話をそらしたり説明をぼかしたりすると後が面倒になると思った。
それにどのみち使徒と戦うことになるなら知っておいてもらわなければいけないことなので、ここにいるみんなになら説明してもいいか、そう結論付けた。
「えっと……誤解を解いておくと、この方は幽霊ではなく、女神アストライア、この世界の神の一柱です」
簡潔にまずはそれだけを告げたスレイは、今知っている事実だけを説明して、分かってはいたが全員がそれを納得してくれる訳はなく、主に貴族連中からは否定的な声も上がっていた。
「そんなこと、わしらには関係がない!」
「そもそも女神だかなんだか知らんが、人様の事情を我らに押し付けるな!」
そういい放つと、開放された貴族たちはどこかへと行ってしまった。
本来なら止めるべきなのかもしれないが、今はそんな余裕があるわけではない。去るというのなら追うつもりのないスレイたちはそのまま話を続ける。
「まぁ、そうだよな───それで、他の皆さんはどうですか?」
残ったのは一部の貴族と生徒たち、そしてリュージュ家の皆さんであった。
正直な話、全員が居なくなるかもしれない、そうスレイは思っていた。
「事情はわかったけど、君たちが戦う理由、それはなんだい?」
アルフォンソはスレイたちのことを見ながらそう訊ねる。
その問いに対してスレイは、アストライアに答えたものと同じ、人として当たり前の言葉を告げた。
「気に入らないからですよ。ボクの故郷にはまだ小さい妹もいますし、やりたいことが一杯ありますし、未来を諦めるなんてしたくないんですよ」
「そうだよね~、やりたいことまだやってないし、まだスレイくんのお嫁さんにしてもらってないもんね~」
「お、お姉さん!?ズルいです!」
「ユフィ殿!?なにいってるんですか!」
ノクトとリーフが一斉に吠えた。三人とも少しは状況を考えようよ、そうスレイが思ったが言いたい言葉を飲み込んでから、一度咳払いをして話を続ける。
どうも生徒たちから、特にロッドとロビンから殺意の目を向けられたので、無視しておくことにしよう。
───あの二人はいい出会いがあること願っておこう。
「まぁ、だから、とりあえずその神様ぶん殴って土下座でもさせる、それがボクの戦う理由ですかね」
スレイがそう言うと、アルフォンソは大きなため息を一つはいた。
「ユフィくん、それにノクトくん。君たちもスレイくんと同じ思いなのかい?」
今度はユフィとノクトに意識確認をする。
「はい。私もスレイくんと同じ想いですよ?だって、ムカつきますもん」
「わたしもです!なんですか、世界を破壊って、いい加減にしてくださいっての!」
「まぁ、後は……旦那のことを支えるのがいい妻の役目ですから」
「むむむっ、ユフィお姉さんズルいです……その言い方わたしも言いたいのに」
「ノクトちゃん、大丈夫だよ。ねっ、スレイくん?」
「あのね、今非常事態だからその話は全部終わってからにしてください」
ユフィたちの話を強制的に終わらせたスレイ、これ以上はロッドとロビンの殺意を向けられるのは勘弁だ。
どれだけ軽い殺意でも、長時間さらされるのは居心地が悪い。とりあえずあの二人には、全部終わってからにでもお仕置きとしてゴム弾をお見舞いしておくことにしよう。
「話はわかった……私としてはまだ少し信じられないところがあるが、信じるとしよう。君たちがいっていることを」
アルフォンソが答えるとルルと、一緒にロアも同意するようにうなずいた。
「私は始めからあなたたちのことを信じてるわ」
「ぼくも!ぼくもお兄ちゃんとお姉ちゃんたちのこと信じてる!」
ルルとロアの言葉を聞くと、それに続くように今度は生徒たちも同じことを言い出し、この場に残っていた貴族たちもスレイたち冒険者への批判もなく、合ったとしても同じ貴族に見捨てられそれでいてスレイたちに助けられた、その思いからか手を貸す、そう言ってくれている貴族もいる。
「スレイ殿、ユフィ殿、ノクト殿」
最後に残ったのはリーフだった。
名前を呼ばれたスレイたちは、リーフの顔をじっと見つめている。
「自分はこの二ヶ月、私はあなた方とずっと一緒でした……なのでわかります。あなたたちは信用できる」
大きく息を吸ったリーフは、三人の顔を順に見てから続きの言葉を口にした。
「私も、あなたたちと共に戦いましょう」
「よろしく頼みますリーフさん」
「リーフでけっこうです。今さらですが、敬語も要りません」
「わかったよリーフ、みんなボクたちに力を貸してください。使徒を倒すために」
スレイが頭を下げると、リーフを始めリュージュ家や生徒たち貴族たちが同調するように声をあげた。