舞踏会と恋心
ブクマ登録ありがとうございました。
階段から降りてきたのは鮮やかなドレスに身を包んだ少女たちだった。
普段は冒険者や騎士なんて仕事をやっているせいで、全くと言っていいほど化粧をしていない彼女たちだが今日は違う。
三人とも口にはグロスを塗り、薄くではあるようだが顔にもメイクがされており、髪形もかなりこっている。
いつもはリボンで軽く結ってあるだけのユフィも、どうセットしているのかはわからないが、軽くパーマがかけているのか毛先はカールを巻いて、より美しさがまして見える。
ノクトも普段は髪留めなどせずにいる髪を少しだけ編み込み後でバレッタで留めており、普段見る幼さを残しながらも大人の女性のような雰囲気をかもち出していた。
リーフは元々二人よりもさらに短いベリーショートヘアーだったが、最近になって伸ばしてきた髪を髪留めで留めているだけだが、普段の姿からは見れない女性らしさが見れた。
さらに極め付けなのが三人が着ているドレスだろう、ユフィは清楚な白いドレスを、ノクトはフリルの付いた水色のドレスを、リーフはライトグリーンのドレスを見に纏っていた。
「どうかなスレイくん?」
「お兄さん見てください、似合っていますか?」
「スレイ殿……なれぬ姿ですが、どうでしょうか?」
いつもの笑顔を浮かべるユフィと、物怖じげなくスレイに訊ねるノクト、恥ずかしそうにほほを染めながらた訊ねてくるリーフ、美女三人にこう訊ねられて似合ってないなど答えられるはずもない
正直にいってとてつもなく似合っているので嘘ではない。
「三人とも、とても似合ってますよ」
当たり障りのない感想を口にしておけば問題はない。
そうスレイが思っての言葉だったが三人はムゥ~っとした顔をしてスレイのことを見ていた。
その顔を見て、どうしたんだろう?そう思っているとユフィが下からスレイの顔を覗き込むようにしてきた。
「えぇ~それだけじゃわかんないよ~」
「お兄さん!もっと詳しくお願いします!!」
「ちゃ、ちゃんと答えてください!」
「えぇ~!?」
まさかのちゃんとした感想を言えと訴えられるとは思わなかったスレイは、ハッとして後ろを振り向くとそこには誰もいなかった。
さっきまでいたはずのアルフォンソとロア、そしてユフィたちと一緒に降りてきたはずのルルの姿がどこにもなかった。
三人はいずこに?そう思っているとブレッドがスレイに耳打ちした。
「旦那様方はお着きになられた馬車にお乗りになりました」
「じゃ、じゃあ、ボクらも行きましょうか」
スレイが全力で後ろに振り向くと、ブレッドが開けてくれた扉から転移魔法で一瞬にして馬車の前にまで──未だに制御が怪しいためちょっとずれたが、転移して御者に開けてもらったドアから馬車のなかに入った。
スレイが逃げ出したことに不満があったユフィたちだが、馬車の中ならば逃げられることもないので、じっくりと感想を聞き出そう、そう三人で話し合ったのだった。
ちなみに、先に馬車に乗り込んだスレイは、なぜだか悪寒がしたのは、きっと気のせいではないだろう。
⚔⚔⚔
結局スレイは馬車の中でユフィたちから根掘り葉掘り、どう思ったかを聞き出される結果と相成りました。
そのため馬車の中でいたたまれない気持ちで、ゲートを使って一足先に行こうかとも思ったがユフィとノクトにディスペルされた上、横に座っていたリーフに手を握られ拘束されたスレイは、早く目的地へと着いてくれ、切実な思いでそう思いようやく目的地にやって来た。
「おやおや、少しやつれてないかい?」
「少しだけ疲れましたってか、何故にリーフさんボクたちの馬車に乗せたんですか?」
「若者同士のほうが言いかもそれないと思ってね」
楽しそうに笑っているアルフォンソの顔を怨めしそうな目で見たスレイは、大きく肩を落としながらアルフォンソと同じく楽しそうに笑っているルルのことを見る。
ちゃんと二人と話し合おう、そう決めていたスレイだったが、予定を少し早めた方がいいのかもしれない。
そう思いながら、早く中に入ろうと急かしてくるノクトと、その横で笑っているとユフィとリーフの姿を見ながら、そうそう体験出来ないこの時を楽しもう、そう頭の中を切り替えたのだった。
⚔⚔⚔
「……なんて考えてたボクがバカだったよ」
げんなりとした顔でそう呟きながらスレイは、ウェイターからもらったワインを呑んでいた。
どうしてこんな顔をしているかと言うと、会場入りした瞬間にどうにかスレイを自分の家に取り込もうと策略する貴族が、色仕掛けのためにか自分の娘を引き連れてやってきた。
何とか上手いことをいって切り抜けて来たのだが、正直にいってかなり面倒だった。
これなら死霊山の魔物と朝から晩まで戦い続けていた方が楽だ、そう思うほど面倒だった。
「まぁまぁ、スレイくんこのお料理美味しいよ」
「お兄さん!こっちのも美味しいです!」
「このワインも最高ですよ」
嬉しそうに今まで食べていた料理を勧めてくるユフィとノクト、リーフに至っては呑んでいたワインのグラスを勧めてくる。
「みなさん、少しはボクのことを気遣ってくれてもいいんじゃないですかねぇ?」
そう訊ねるとユフィたちは顔を見合わせてから答えた。
「いや、だって私たち関係ないもんね~」
「ですよね?貴族の方々に囲まれてるのお兄さんですもんね」
「可愛そうだとは思いますが……自分にはどうにも出来ませんので、すみません」
「聞いたボクがバカでした、ってかユフィは彼氏が他の女に盗られそうって自覚はないのか?」
ついそんなことを聞いてみると、ユフィはキョトンとしながら答える。
「だって、スレイくんあんなの引っ掛からないでしょ?」
「まぁ、欲望が駄々もれだから、あんなのに引っ掛かる奴なんて訳はないね」
スレイがそういって笑っていると、なにかを見つけたリーフがスレイのことを呼んだ。
「スレイ殿、あれを」
「ん?………あんの、バカどもが!」
怒りを露にしたスレイが少しだけ離れることを告げてから、ずかずかと先程まで見ていた方に歩いていく。
ちなみにそこには複数の女性に言い寄られてだらしなく頬を緩ませまくっているロッドとロビンを含め、いつかののぞき魔五人衆の姿と言い寄っている娘の父親だろう数人の男性の姿があった。
そこにいる面々は一様にニコニコと笑顔を浮かべているものの、腹の中ではいったい何を考えているのか全くわからない、と言うよりも分かりたくはない。
「おいお前ら、ちょっとこっちこい」
スレイが声をかけると、楽しそうな会話をやめて男子どもが振り向き様に威嚇してきたが、スレイの顔を見て威嚇を解くといつになくフレンドリーな感じで話しかけてきた。
「ってアルファスタじゃねぇか!なんだうらやましいのか?」
「先生もこっち来て一緒に呑みましょうよ」
「楽しいですよ!」
「一人飲みなんて寂しいですよ~」
「先生まぁ一杯どうぞ」
五人から先生と呼ばれ、娘の父親の目の色が一瞬にして変わったのをスレイは見逃さなかった。
まだ話しかけられはしないがそれも時間の問題だろうと思いながら、イルナからグラスを渡されたスレイは少しそれを呑んでみる。
ジュースかと思ったがどうやら中身はワインのようだ。
この国では十四歳から飲酒が許されているので彼らが飲酒をするのは問題はないのが、少し呑んでみてわかったのだがこのワインかなり度数が高い。
飲み慣れていない彼らにこんな物を飲まして、いったい何をしようとしたのか、スレイが五人に群がっていた少女たちとその父親たちを軽く睨んだが、一応は未遂なのでなにもしない。
「皆さま、申し訳ないのですがこの子達は慣れないお酒によってしまったみたいです、おら、行くぞ」
酔っぱらいの五人に殺気による強制酔い醒ましを受けて、顔を真っ青にした五人が直立不動になった。
このままユフィたちの元に連れていって、五人で説教をしようそう思ったスレイに、生徒に向けて色仕掛けを仕掛けていた娘の代わりに親が話しかけてきた。
「おぉ!あなたがスレイ・アルファスタ殿ですか」
「落ちこぼれと揶揄されていたFクラスの生徒を優勝に導いたという」
「実は、あちらに私の娘がいるのですかどうですかな、ご一緒に一杯でも」
「それでしたら私めの娘はスレイ殿と年も近く」
「いいや、私の娘も」
わらわらと集まってきた貴族連中を見て、スレイは先程のことを思い出して、何とか顔には出さないようにこらえながら心の中で、今日何度目かわからないげんなりとした気持ちになっていた。
「すみませんが、向こうに連れを残していまして、それにこの子たちも心配ですのでどうかお引き取りを」
というには建前で心の中では、さっさと帰りてぇ~、そう思っていながらなんとか解放してもらう手だてを考えていた。
「スレイくん、まだかかるの?」
その声にスレイはまさに天の助けだと思い、その声のした方に振り替えるとそこにはスレイが遅いことに様子を見に来たユフィとノクト、そしてリーフの三人だった。
まさかの美女、美少女の登場に貴族たちの目の色が変わった。
「これはお美しいお嬢様方ですな」
「どうでしょう、あちらにいる我が息子と少しお話でも」
等と先程のスレイにやったようなことを始めたが、ユフィたちは笑顔でお断りの言葉を告げた。
「すみませんが、私たちには心に決めた相手がいますので、ご遠慮させていただきます」
そう言うとユフィがスレイの右腕に、ノクトがその左腕に抱きつき、回りに目を気にしながらもスレイの服の端をつかんでいるのはリーフ。
両手に華どころの騒ぎではなく、こうなってしまえばもうなにも言えなくなってしまった。
ユフィたちがスレイの手を引いて、一緒に生徒たちを連れていった。
「あ、あの……ユフィさん?それにノクトさん?あの……当たってるんですが?」
今のスレイの両腕には女の子のなんとも言えない柔らかいものが二つ、押し当てられていた。
右腕には今までも何度か押し当てられたことのある柔らかい物が、右手にはまだ成長途中とわかる小降りだがたしかな柔らかさが伝わってくる。
これ以上はさすがに不味い、そう思ったスレイの唯一の救いはリーフが抱きついていないことだろう、前に後ろの五人のせいで温泉を覗いてしまった時に見たリーフの体つきは、ユフィのものよりも大きかったそんな物が押し当てられた暁には、さすがにいろいろと不味いことになっただろう。
一人でそうなっとくしているスレイにリーフがこっそりと耳打ちした。
「スレイ殿、やはりここは私も抱きついた方が」
「リーフさん、それはボクが危険なのでやめてください」
繊細なお年頃なのでこれ以上の刺激は勘弁してほしい、もっと言うなれば先程から周りの視線と生徒の視線がとても痛いのこれ以上はやめてほしい。
⚔⚔⚔
会場の外、と言ってもオープンテラスに会場にいた生徒たちを集めたスレイは、生徒たちに先程あったことを説明しておいた。
「と言うわけで、変なやからに捕まらないようにこれからは男女ペアで動いてくれ」
「せっかくの舞踏会ですが、仕方ありませんね」
「そうっすね、変な男に捕まって親泣かすよりも断然いいっす!」
シャルムとルイーズが納得したように頷きながら、シャルムがツルギの手を取りルイーズがユースの手を取ると、自然な流れで二人の腕に自分の腕を絡ませた。
「しゃ、シャルム、な、何を!?」
「……言われた通りペアを組んだだけよ」
「ルイーズさん、な、何で僕の手を!?」
「前からいいなぁ~って思ってたんすよ、ちょっと気弱そうなんでウチから押せば落ちるかなって」
行きなりのことに顔を真っ赤に染めるツルギとユース、それに負けないくらい頬を染めるシャルムと、平然とした様子だが少しだけ恥ずかしそうなルイーズ、早々に決まった四人が会場に戻って行った。
そんな、なんとも初々しい四人に女子たちは黄色い声をあげ、男子からは殺意が向けられていると、今度はメイリンが動いた。
「ソンフォン、行きますわよ」
「あっ、ちょっ、引っ張らないでよメイリン!」
あの二人は元々幼馴染みらしいので特に問題はない、それを皮切りに女子たちが一斉に今まで気になっていた男子にアプローチをかけ始めた。
クラス内で恋愛ってあるんだな、そう思いながら見ていたスレイたちだった。
ちなみに、決まったペアを上げるとイルナとビーナ、エミールとパトリシア、デイルとローザと、ここまでは良かったのだが、ここに来て問題が出てきてしまった。
それは……
「先生、俺たちいったいどうすれば?」
「何とかしてください……」
「知らん、自分達で何とかしろ」
困り果てた顔をしているのはベルリとマックスで、そんな彼らの両腕にはお互いに火花を散らし合いながら牽制しあう女子が二人だった。
ベルリの両腕にはルミアとユンが、マックスの両腕にはミサとナターシャがおり、なんとも言えない空気が流れていた。
まぁ、複数の女性と付き合っても許される世界なので問題はないが、今あるとすればそれは女子に選ばれずにあぶれてしまったこの二人だろう。
「お前ら大丈夫か?」
「うるせぇ」
「先生、俺たち呑みながらここで泣いてますからほっといてください」
ガチ泣きで酒をあおっているロッドとロビン。
はたからみたら可愛そうな二人だが、実際は死霊山の修業中に何度も女子たちの裸を拝もうと最後までいろいろとやり過ぎて、最終的にはスレイから貸し与えた黒鎖で女子たちに縛り上げられるまでに至った二人なので自業自得だから仕方がないと諦めておこう。
負った傷は深いらしいので、飲みすぎたらいけないので解毒魔法を付与したアラクネを置いてその場を離れた。
お前ら、強く生きるんだぞ?




