舞踏会にはドレスを
ようやく百話目です!
これからもどうかよろしくお願い致します。
対抗戦を終えた次の日、宿で惰眠をむさぼっていたスレイたちの元にとある手紙が届けられた。
それに付け加えると、それが届けられた際に冒険者が泊まるような宿にはとても似つかわしくない豪華な馬車に加え、馬車から降りてきた役人もかなり重役らしくえらく浮いていた。
「「「舞踏会の招待状?」」」
スレイ、ユフィ、ノクトの三人が一斉に手紙、と言うよりも招待状を届けにやって来た役人に問いかけた。
「左様でございます。本来、対抗戦の優勝者には城でおこなわれる舞踏会への参加資格が与えられるのです」
別に優勝したのはスレイたちではなくベルリたち生徒なのだが、そう訊ねてみるとその勝利する切っ掛けとなったのはまさしくスレイたちの指導の賜物だ。
そしてこれは王からも是非にと言われているらしく、こうして書状を持ってきたらしい。
「ちなみその……拒否権なんてのは?」
「ありませんな」
「ですよね~」
普通に考えてこういう上からの招待は断ると失礼に当たる。
ならば参加するしかないか、そうスレイが思っている横で、少女二人が舞踏会と聞いてワクワクしているのを見てしまい、いよいよ参加は決定か、そう観念したのだがこれだけは確認しておかなければならないことがあった
「ちなみにこれっていつおこなわれるんですか?」
「今夜でございます」
自信満々のその言葉を聞いてスレイは一瞬、この役人ぶっ飛ばしてやろうかと切実に、そしてかなり真面目にそう思った。
⚔⚔⚔
結局、舞踏会には参加しなければいけないのだがユフィとノクトは舞踏会に着ていくドレスがなかった。
そのことを招待状を持ってきた役人に伝えたところ、参加の意思を確認するとすぐにスレイたちを馬車に押し込むと、そのまま貴族御用達の洋服店に連れてこられていた。
オーダーメイドから既製品まで様々な洋服が飾られているその店で、一番庶民らしいと言えるノクトが飾られているドレスを見て驚愕していた。
「いっ、一着金貨七十枚!?お、お高い……」
案の定と言えば案の定だが、貴族御用達の店と聞いた時点で大体こんなものだろう。
そう頭の中で思っていたスレイとユフィだったが、さすがにドレス一着にこの値段は高すぎると思ってしまった。
「私も、お金少ししか持ってきてないよ」
「ボクはまぁ、昨日のあれがあったからそれなりに」
隣でそんな言葉を洩らすユフィだが、一応スレイの財布の中には白金貨が二枚ほど入っているので問題はないかもしれないが、ドレス一枚でこんなにするものかと思ってしまった。
少し困惑しているスレイたちに向かって、役人の男はこう言ってくれた。
「代金は全てこちらで負担いたしますのでお好きなものをお選びください」
「それは助かります……ところで、生徒たちもその舞踏会に行くんですか?」
「はい。そうです、それと騎士団のリュージュも一緒に参加することになっています」
そうなんだ、スレイは何となく聞いて見たことだったが、それもそうかと思いながらお金の心配がなくなり、楽しそうにけれども少しビクビクしながらドレスを選ぶユフィとノクトのことを眺めていた。
「ところでアルファスタ様はスーツはお選びにならないのですか?」
「固っ苦しい服は苦手で……ボクだけ参加しないっていうのは」
「なりません、これは我が国の仕来たりですので」
「わかりました……はぁ」
めんどうだ、そう思いながら紳士服がおいてある場所に行こうとしたとき、聞き覚えのある声がスレイの名前を呼んだ。
「スレイ殿ではありませんか?」
「あらあら、本当ね」
名前を呼ばれたスレイが振り向くと、そこには見慣れてしまった緑の髪の女性リーフとその父アルフォンソと母のルルが並んで立っていた。
「リーフさんにルルさん、それにアルフォンソさんも、奇遇ですねこんな場所で」
「それはこっちの台詞だよ、もしやと思うが今夜の舞踏会のスーツ選びかい?」
「それもありますが、メインはあの二人ですね」
スレイが視線を向けると、未だに熱心にドレスを見ているユフィとノクトの姿を見る。
「あらあら、ユフィちゃんにノクトちゃん一緒にドレスを選びましょ」
「あれ、ルルさんどうして!?」
「リーフお姉さんもいます!」
声を掛けられてようやくリュージュ家の存在に気がついた二人は、ルルのテンションの高さに少しビックリしているようだった。
「リーフちゃ~ん早くこっちいらっしゃい」
「お母様少し落ち着いてください。あ、スレイ殿、失礼します」
頭を下げてルルの方に行ったリーフを見送ったスレイは、アルフォンソの方に視線を向ける。
「みなさんも舞踏会へ参加を?」
「あぁ、騎士伯とはいえ一応は貴族だからね。毎年ドレスの新調にお金がかかってしまうよ」
「貴族も大変なんですね」
「まぁ、そうなんだけど……ところで、スレイくん、君も今夜の舞踏会に参加するんだよね?」
「はい。ボクはそう言うの苦手なんですけど、あの役人から拒否権を否定されまして」
スレイが側に控えている役人のことを軽く睨み付けると、涼しい顔で笑っているのを見て、一瞬マジでぶっ飛ばしてやろうか、そう思っているとアルフォンソからも小さな笑い声が聞こえてきた。
「慣れるしかないかな。さてスレイくん、我々もスーツを選びに行こうか」
「すみません、出来ればどんなものがいいのか助言をお願いします」
「はっはっは、任せなさい」
アルフォンソの助言に従いながらスーツを選んだ。ちなみにユフィたちの選んだドレスは、夜の舞踏会までお披露目はお預けとなった。
⚔⚔⚔
その日の夜、舞踏会に参加するために相応しい格好と言うことで、昼間に買ったスーツに着替えたスレイは鏡を見ながら眉を潜めていた。
「我がことながら黒一色……ユフィからなにか言われるかな?」
鏡に写るスレイの姿はスーツの上下とシャツを含めて全て黒、さすがにネクタイまで黒いと告別式かなにかになってしまうので、さすがにネクタイは灰色だ。
そんなことを気にしながらスーツの上にコートを羽織ると、壁に立て掛けておいた剣を掴み慣れた手つきでベルトに下げ部屋を出た。
「スレイくん……その格好はちょっと」
後ろから聞こえてきたそんな声に振り替えると、そこには不思議そうな顔をしたユフィが立っていた。
ちなみにこれからリュージュ家に行き、預けてあるドレスに着替えるそうだ。
「似合ってないのはわかるけど、その言い方は失礼じゃないかな?」
「いや、あのね、スーツは似合ってるんだけど……腰の剣はちょっと」
ユフィはスレイの腰に下げられた剣を見ながらそう言う、ちなみにスレイ自身もこの格好に剣を下げるのはどうかと思っているが、これからリュージュ家に行くとなると少し違ってくる。
「多分、リュージュ家に行くとカルトスさんが斬りかってくるから、念のために持っていくだけ」
「それならいいんだけど……」
「どうかした?」
「いや、なんかお葬式みたいだなぁ~って」
言われると思っていたスレイは、なにも言い返さずにユフィのことを見ていると、スレイがなにも言い返さないことを良いことに、ユフィがさらになにかを思い付いたように話し出した。
「黒じゃなくて白にしたら良かったかも~、いつもと反対の色だから」
「その場合はお葬式じゃなくて結婚式の花婿か、ってツッコミを入れられてたと思う」
スレイの指摘を聞いたユフィが納得したように、それもそうだね、と言いながら笑っていると、ユフィの立っている横にある扉が開き、それに気づいたユフィが後ろに下がると部屋の中からノクトが出てきた。
「うわっ!?お兄さん、お葬式でも行くんですか?」
「ノクトさん、それさっきやった、ついでに言っておくとこの剣のことについての説明と、スーツの色を白にしたら、ってのもユフィがもうやったから」
先にそれだけ言っておくと、ノクトが上から下まで黒で揃えているスレイのことをじっくりと見ながら、ユフィお姉さんみたいになにか言った方がいいのかな?、なんて考えているノクトをよそにスレイが話し出した。
「……少し早いけどリュージュ家の屋敷行きますか」
宿から出てすぐにゲートを開いたスレイは、そのままリュージュ家の前に転移するとノッカーを鳴らすと、すぐに執事ブレッドが扉を開けてくれた。
「いらっしゃいませ皆さま」
「こんばんわブレッドさん」
「今日はよろしくお願いします」
「ご迷惑おかけします」
普通に挨拶をしたスレイと、頭を下げてお願いするユフィとノクトを屋敷の中に招き入れると、すぐに真上から今まで隠していたと思われる殺気の籠った視線を感じた。
またか、そう思いつつ身体に闘気を纏ったスレイは、腰から黒い剣を抜き放つと同時に真上から落ちてきたカルトスと、その手に握られた剣をしっかりと黒い剣の刀身で受け止めた。
「こんばんわカルトスさん、毎度思うんですがボクがこの屋敷に来る度に斬りかかるの、やめていただけませんか?」
「かわいい孫娘を籠絡した小僧を出迎えるのに、これ以上の出迎えあるまいて」
「人聞きの悪い、そんなことしてませんよ?」
未だに火花を散らしあっている二振りの剣、いつもなら数激は相手して終わるのだがスーツを着ている手前、あまり動きたくはないので、空間収納から黒鎖を取り出してカルトスの動きを封じよう、そう思っていると後ろからさらに殺気が放たれた。
スレイとカルトスが揃って振り向くと、弾丸のように飛んできた黒い影がカルトスの前に立つとその腹部に強烈なボディーブローを入れた。
「うわっ」
「ありゃりゃ」
「えぇええぇぇ!?」
すぐ近くで見ていたスレイはさることながら、数歩後で見ていたユフィとノクトまでも、一瞬目を疑うことになってしまった。
腹部に拳を受け顔を真っ青になっているカルトスに拳をみまった人物から優しい口調で語りかけられる。
「あなた?今日はなにもしないって、約束、しませんでしたっけ?」
優しそうな顔でさらに優しい口調で語りかける老婆はトリシアだった。
トリシアはリーフの祖母で今まさに締め上げられているカルトスの妻なのが、約束を破ってこうして襲撃をしてきたカルトスにキレて、端から聞いているスレイたちですらそら恐ろしい恐怖を与えてくるほどだった。
ついでに言えば先程トリシアが放った殺気で、屋敷の中にいたはずのリュージュ家の皆さんが玄関ホールに集合していた。
「父上……いい加減にしてください」
「お義母様ももうその辺にしてあげましょう」
「そうですね。ですがお仕置きとしてあなたには今晩は夕食を抜きにします。ブレッド、夕食を一人分少なくしておきなさい」
「かしこまりました大奥様」
トリシアに頭を下げたブレッドは、側に控えていたメイドを呼び寄せると気を失ったカルトスを部屋まで運ぶように言い、それと一緒にカルトスが気を失った瞬間にスレイが受け止めたカルトスの剣を持っていくようにも言いつけていた。
剣を受け取ったメイドと入れ替わるようにリーフがスレイたちのもとにやって来る。
「すみません、うちのおじいさまがご迷惑をおかけしました」
「大丈夫ですよ~被害は大体スレイくんが受けてますから」
「お兄さん、丈夫ですもん、何があっても大丈夫ですよ」
「ユフィ?ノクト?さすがに剣で心臓刺されたり、首斬られたら死ぬからな?」
腰に下げられた剣をベルトごと外し空間収納にしまっていたスレイが冷ややかな目で、笑顔でリーフと話しているユフィとノクトに向けていると、ルルが後ろからリーフのことを抱き締めた。
「リーフちゃん、ユフィちゃん、それにノクトちゃんも早くお着替えしましょ?そうでないと時間がなくなってしまうからね」
ルルが手を叩くと、どこからともなく現れた数人にメイドたちがユフィたち三人を連れ去った。
その場に残されることになったスレイは、残っていたメイドの案内で客間へと通され出されたお茶を呑みながら、一緒に出されたお茶菓子を食べていた。
「…………みんな遅くね?」
ここに着てすでに一時間が経っていた。
舞踏会の開始時間まではまだまだ時間はあり、王家からの迎えにの馬車もリュージュ家に来てもらえるようにしている。
もし馬車に乗れなくても舞踏会の会場は一度見ているのでゲートで行くことも出来るが、確実に怒られるだろうな、そう思いながら部屋の棲みに置かれている置時計を見ながらお茶を飲んでいた。
「スレイ様、淑女の身仕度とは時間がかかるものですわ」
そう答えてくれたのは少し年配のメイドで、名前はスミスで一応はスレイたちがこの屋敷にいるときの世話役、そんな感じのメイドの一人で他にも数人が部屋の中に待機していた。
「それは知っていますが、着替えるだけで一時間ってさすがに遅くないですか?」
「そう言うものです」
さいですか、そう呟いたスレイは少し冷えてしまったお茶を飲み干しながら、どうにか時間を潰せるものはないかと思い、村を出るときに父フリードから暇なときにでも読め、そう渡された本があったことを思いだし、空間収納にしまって本を取り出した。
物語が好きなフリードのことだ、大方、英雄譚かなにかだろう。
そう思いタイトルも見ずに本を開き数行読んだところでスレイは閉じ、見ようとしなかった本の表紙を確認するがタイトルが見つからなかった。
「…………」
内容からして完全に物語ではなく、とあることについてのハウツー本だった。なにかはあえて言わないが……勘弁してください、お願いします。
スレイは立ち上がると自分の足元に少し大きめの空間収納の入り口を開くと、そこに向けて大きく振りかぶり本を叩き入れた。
──なんて本渡してんだクソ親父!!
本当は大声で叫びたかったが、人様の屋敷なのでこれだけで許してやることにした。
「どうかなさったのですか?」
待機していたメイドの一人がスレイに訊ねてきた。
「すみません、ただの憂さ晴らしですのでおきになさらずに」
「それならいいんですが……」
「あっ、お茶のおかわり頂けます?」
スレイがそう訊ねると、控えていたメイドが新しいお茶を注ごうとした時、部屋のドアがノックされスミスが扉を開けて用件を聞くとスレイにもとにやって来る。
「スレイ様、皆さまのお仕度がすみました」
「わかりました。すみませんがお茶のおかわりはまたの機会にお願いします」
「かしこまりました」
なんだかこのやり取りも馴れてきたな、そう思いながらスレイは玄関ホールに行くと、そこには先に集まっていたアルフォンソとロアが待っていた。
二人とも、スレイとは違い髪型さえもしっかりとされていた。
「スレイお兄ちゃん、こんばんわ」
「こんばんわロアくん、……あのアルフォンソさん、カルトスさんは?」
「父上も母上も参加しないよ。誘ったけどあんな面倒な場所は二度と行かん、ってさ」
「やはり、面倒なんですか」
「位はどうあれ、国中の貴族が集まってるからね。大小はあれど、お家絡みのあれやそれがあって、かなり面倒なことにはなっているかな?」
その話を聞いて、やっぱり行くのやめようかな?と本気で思い始めた。
どのみち借りは今着ている衣装の代金位で、合計しても白金貨一枚で足りてしまうので本気で言い案なのではないか、そう思っていると後ろの階段から人が降りてくる気配を感じ、三人がそろってそちらに振り向く。
「……おぉ」
「ほぉ」
「わぁー」
三人がそろって声をあげる。
そこには、色鮮やかなドレスに身を包んだ少女たちの姿がそこにあった。