はじめての魔物討伐
今までよりも少し長くなってしまいました。今回の話で初めて戦闘シーンを書きましたので、読んでいただく皆様には楽しんでいただきたいです。
ルクレイルアとクレイアルラ、二人の師から師事を受けるようになってから五年の月日が流れた。
その間、ルクレイルアの師事を受けながら剣の腕を磨くこと気なったスレイは、この五年の間に何度も死ぬ目にあった。
剣で殴られれば骨が折れ、剣で突かれれば腕の骨が外れ、木剣だというのに斬りつけられたら本当に肌が裂け血の中に倒れたのは数え切れない。なさに文字通り死物狂いに剣の腕を磨いていった。
クレイアルラの魔法の師事は二人一緒に受けていた。身体強化や物体強化のほか、スレイは攻撃系の魔法を中心に補助や回復魔法を、ユフィは攻撃系の他に補助や回復の魔法を満遍なく身につけていった。
これがこの五年間、二人が歩んでいった修行の歴史であった。
さて修行の話しはこれくらいにして、スレイたちの生活のことについても少し話そう。
スレイの家はいつも通り、ミーニャは健やかに育ち、フリードとジュリアも冒険者として何日も家を空けることはあるが、休みの日は家族の時間を取るようにしてくれる。
ユフィの家もいつもと変わらず、マリーがゴードンを締めたりしている。そうそうユフィの家族は一人増えた。
数年前、ユフィに弟が生まれたのだ。
⚔⚔⚔
朝日が登る少し前にユフィは目を覚ました。
「うぅ~ん……ふはぁ~……もう朝、着替えなきゃ」
寝ぼけ眼でベッドから起き上がったユフィは、目をこすりながらあくびを噛み殺すと寝間着を脱ぎ始める。下着になったユフィはタンスの中から運動用のシャツと半ズボンを取り出し着替える。
靴を履いてから鏡の前でいつもより少し高い位置で髪の毛を結ぶ。綺麗にまとめられた髪を確認したユフィは、机の上に置かれていたワンドタイプの杖を手に取った。
これは去年のユフィの誕生日に送られた新しい杖だ。
手に取った杖を腰に巻いたベルトに差し込みと、顔を洗うために自分の部屋をでて階段を降りていくとキッチンの方に明かりがついていたので先にそちらに足を向けた。
キッチンの影から中を覗くと、母マリーが朝食と仕事に出かけるゴードンのためのお弁当を用意していた。
「お母さん、おはよう」
「ユフィちゃん、おはよぉ~。今日もぉ~早いわねぇ~」
マリーに挨拶をしたユフィは先に顔を洗いに行ってから、もう一度キッチンに顔を出すとマリーがコップにジュースを淹れて待っていた。
「はぁ~いぃ~、いつものぉ~特製ジュースよぉ~」
「ありがと、お母さん」
ゴクゴクとジュースを飲み干したユフィは目が覚めた気持ちになった。
「美味しかったよ。それじゃあ、朝練行ってくるね~」
「はぁ~い。今日はぁ~、朝ご飯どうするのぉ~」
「スレイくん家で食べるね」
「あらぁ~、それじゃあ二人は遠出なのねぇ~」
あらあらと困ったようにマリーが呟いた。ユフィがスレイの家でご飯を食べる日は決まってフリードとジュリアが遠出の依頼に出ている日だ。
本当ならスレイとミーニャをうちに招き入れるところなのだが、二人共自分でできるからと言ってその誘いを断っている。なのでマリーたちも、二人が困ったとき以外は手を出さないようにしている。
「あっ、約束におくれちゃう。もう行くね」
「はぁ~い。行ってらっしゃぁ~い」
ユフィを見送ったマリーはお弁当を作ってしまおうと思ったその時、上から何かが下に落ちる音が聞こえてきた。
なんだろうと思ったマリーは、窓から外を見るがなにも落ちてはいない。まさかと思い家の中の気配を探ったマリーは、上の階にあるはずの気配を探る。
気配は一つ、マリーの待望の息子であるパーシーの物だけしかないことに気づき呆れたようにため息を一つ付いた。
「はぁ~、もぉ~あの人ったらぁ~」
呆れながらもどうせあそこだろうと思いながら、マリーはエプロンを外して家の外に出かけるのだった。
⚔⚔⚔
家を出たユフィは待ち合わせ場所である広場に向かっていく。待ち合わせの時間までまだ少し時間があるのでのんびり行こうと、朝日が登るのを眺めながら歩いていると何やら音が聞き得てくる。
カンカンッと鉄と鉄を激しく打ち付けるようなその音に、ユフィはまさかと思いながら走り出す。
「あっ!やっぱりッ!?」
急いで向かったユフィがそこで見たのは、両手の斧でスレイに斬りかかる父ゴードンの姿であった。
ユフィが来る少し前、着替えを済ませて家を出ようとしたスレイは隣の部屋からミーニャがでてきたことに驚いた。
「おにいちゃん、おはよう」
部屋から出てきたミーニャは眠そうに目をこすりながら、必死に眠気に抗っている。
「あぁ、おはようミーニャ、ってかまだ夜明け前だし寝てて良いんだよ」
「だいじょーぶ、今日はミーニャが当番だから」
「そうか、でもしっかり寝なきゃだめだからな?朝ご飯はお兄ちゃんが帰ってきたら一緒につくろうな」
「うん……わかった」
複雑そうな顔をして部屋に戻ったミーニャ、スレイは一度ミーニャの部屋を覗いてベッドで眠っているのを確認してから家を出た。
家を出て広場へと向かったスレイは、ユフィが来るまで剣を振るおうとしたその時、強い殺気ともにこちらに向かってくる人影があることに気がついた。
いったい誰か、なんていう気とは言わない。もう何度目かわからないその来訪者のことを笑顔でスレイは出迎える。
「おはようございます、おじさん。今日もいい天気ですね」
「御託は良い、死ね小僧ッ!」
例え殺気を向けられたとしても相手はユフィの父ゴードン。なのでここは紳士的に笑顔で挨拶したスレイだったが、帰ってきたのは殺気と凄まじい手斧の一閃だった。
これは慣れたものだと思いながら、左手を背に向けて背面に下げられた短剣より少し長めのショートソードを引き抜いたスレイは、振り抜かれた斧の一閃を受け止めた。
「毎度のことながら、木こりがだして良い殺気じゃないと思いますよ?」
「うるせぇ!そう思うなら少しは娘から離れろッ!」
「離れろって、別に付き合ってるとかそんなんじゃないんですけど………」
「貴様ッ!ユフィのなにが不満なんだッ!!」
めんどくさい、そう思いながらゴードンの斧を押し返したスレイは、もう一本の剣に手を触れたがすぐに手を離して短剣を右手に持ち替えた。
そこを狙ってゴードンがスレイの頭に向けて手斧を真横に振るうが、スレイは後ろに少し下がりその一閃をかわした。
「不満があるのはおじさんのほうじゃないですか?だいたいこれもいつものヤツ当たりなんでしょ?話なら聞きますよ」
「最近、ユフィもマリーも相手にしてくれないんだ」
「…………パーシーくんがいますからね」
大体予想はできていたがそんな理由で襲いかからないでほしいと思いながらゴードンの攻撃をかわし続ける。もうそろそろユフィも来る頃なので、止めてもらおうと思っていると、突如声が響いた。
「お父さん!なにやってるの!?」
二人が声のした方に視線を向けると、呆れ顔でこちらを見ているユフィが立っていた。
「お父さん!なんでそんなにスレイくんを目の敵にするのよ!?」
「いっ、いや、これはただの交流の一環であってだな……」
「だったらなんでそんなに殺気だってるの!?それに、いったいどうやってお家を抜け出してきたの!?」
「窓から飛び降りた。安心しろ、マリーには気づかれていない」
本当にそうだろうかと思ったスレイは微妙な顔をしていると、今しがたユフィがやってきた方から何やらとてつもない気配を感じ取った。
スレイがその気配に気圧されている中、言い合いをしている二人は気づいていない。
「あのぉ~、お二人共、後ろ。後ろをですね、ちょっとでいいので、ご覧になっては、いただけないでしょうか?」
威圧を受けながらどうにか頑張って、それでもたどたどしい口調になりながら頑張って二人に声をかけたスレイだが、怒り心頭のユフィと娘に言い負かされそうになったゴードンがキレる。
「「なにッ!?今忙しい!!」」
「ですからね、お二人共。一度でいいので、後ろを見てください」
全く同じキレ方をした二人はスレイに言われたとおりに指さされた方へと視線を向ける。すると、ユフィは顔をひきつらせ、ゴードンは顔が真っ青になった。
「あぁ~なぁ~たぁ~」
「ヒィッ!?ママママッ、マリぃ~~~~~~ッ!?」
そこにいたのは誰でもないマリーその人であった。
口元にはいつもと同じ笑みが浮かべられているが、そんな笑みとは裏腹に全身から溢れ出すオーラはまさに恐怖そのものだった。
一介の木こりの奥さんがだして良い殺気ではない。笑顔で近づいてくるたびにゴードンの顔が真っ青になり、全身から玉のような汗が吹き出して流れていく。
巻き込まれないようにとゴードンから距離を取った二人だったが、離れていてもマリーの殺気は感じ取ることが出来る。あれを一身に受けているゴードンの心境は如何程のものか想像するのも恐ろしかった。
「あなたぁ~今月でぇ~これ、何度目かしらぁ~?」
間延びしたマリーのいつもの口調が、イヤに恐ろしい。
まるで悪魔にでも睨まれているような恐怖を味わったゴードンは、全身から流れ出る汗が滝のようになって地面に流れていく。
「えっ、あっ……その」
「いいのよぉ~。無理にぃ~言わなくてぇ~」
これは許してくれるのかと一縷の望みがでてきたことにゴードンの表情がわずかに明るくなった。しかし、次の瞬間ゴードンは転がされ、首根っこを物理的に掴まれた状態で運ばれていった。
誰にかって?もちろんマリーだった。
「お家でぇ~ゆぅ~っくりぃ~聞くからぁ~」
「いっ、いぃやぁぁあああああああ――――――――――ッ!?」
マリーに引きずられていくゴードンの野太い悲鳴が村中に響き渡った。
取り残されたスレイとユフィは哀れなゴードンの御冥福を祈って小さく黙祷を捧げるのであった。
「おばさん、相変わらず激しいね」
「ねぇ知ってた?うちのお母さん、二つ名持ちの冒険者だったんだって」
「えっ、マジかよ!?」
「うん。それでね、血濡れの聖女って呼ばれてたみたい」
スレイの顔がひきつるとそれに合わせてユフィの顔も沈んだ。
自分の母親が昔そんな危ない名前で呼ばれてたことを知ったときの心情やいかに、スレイは心のなかで静かに合掌するのであった。
⚔⚔⚔
朝の訓練のメニューはそれぞれ違う。
ウォーミングアップとして柔軟と村の外周を魔力と闘気を操作しながら全力疾走で十周、その後は別メニューに取り組む。
スレイは闘気コントロールを行いながら素振り百回と仮想相手との立ち会い五本、それが終わると魔法の特訓だ。
ユフィはひたすらに魔法の特訓を行う。自身の魔力限界ギリギリまで扱い、魔力量を増加させる訓練だ。
一通りの訓練を終えた二人は帰路へとつく。
「スレイくんは今日も先生と訓練?」
「いいや、今日は師匠と魔物討伐」
「あぁ~そういえば言ってたねぇ~」
「ユフィは先生の手伝い?」
「そのつもりだったんだけど、先生が急用で一日お出かけなんだって」
この村で医者をしているクレイアルラだが、現役の冒険者であるためたまに冒険者としての仕事で留守にすることがある。
「っというわけで暇になったから魔物討伐について行っても良いかな?」
「良いと思うけど、先生から許しはもらってるの?」
「大丈夫。心配なら一筆もらってきてるから!」
っと言って懐から一枚に手紙を取り出したユフィだった。
「わかった。後で一緒に師匠にお願いしに行こう」
「うん!」
ルンルンッとスキップしながら走っていくユフィの後をスレイは追っていくのだった。
朝食をみんなで食べたあと、いつもの服に着替え直した二人はルクレイルアとの待ち合わせ場所に向かった
「じゃあミーニャ、お兄ちゃん出かけるからお留守番お願いね」
「うん。わかった」
「じゃあお約束。外に出るときは戸締まりする。知らない人についていかない。お昼はお隣のおばさんに預けてあるから一緒に食べてね」
「はぁ~い。お兄ちゃん行ってらっしゃい!」
見送りをしてくれるミーニャに手を振りながらルクレイツアの待つ宿屋へと向かうと、そこにはいつもの格好で待ち構えていたルクレイツアがいた。
「おせぇよ坊主。あとなぜ嬢ちゃんがいる?」
「それがですね」
ユフィはルクレイルアに事情を説明してクレイアルラから預かった手紙を見せる。
「ルラのやつが許可出してるんなら問題はねぇ。おら、さっさと行くぞ」
先頭を歩くルクレイツア、その後を追ってスレイとユフィは歩いていく。
「このまま森に入る。今日のところは、ゴブリンを殺る」
「ゴブリン………この森にいるんですか」
「あぁ。目撃例がでててな。村長から頼まれてちょうどいいからお前の初討伐相手にしたってわけだ」
ゴブリン、地球で物語に出てくるような緑色の肌をした小人で、集団でコロニーを形成し人や獲物を襲う魔物の中でもかなり一般的な魔物だ。
そんなゴブリンの恐ろしいところは非常に強い繁殖力だ。同族だけでなく人や獣と交わることで繁殖を繰り返し、多いところでは数十匹から数百匹のコロニーを形成する。
今回見つかった十匹前後の小さな群れで、大きい群れから別れたばかりのものだと思われる。
「お前らの実力なら問題ねぇが、油断したらやられる気を引き締めていけ」
「「はい!」」
「それともう一つ。心臓を突き刺しても簡単には死なん。首を落とすまでは油断するな。いいな」
「「はいッ!」」
忠告を受けた二人は森の奥へと入っていく。
まず探すのはゴブリンたちの巣を見つけること、発見した時期から考えるにまだ森のどこかに拠点を作る段階であると踏んだルクレイツアは、森の野営地を探すと言っていた。
しばらく森の中を歩きゴブリンたちの足跡や真新しい血溜まりなどを見つけたスレイたちは、その後を追って更に森の奥へと入っていく。
森の茂みから開けた平野を見つめるスレイたち、そこには十匹から十五匹の群れがいた。ゴブリンたちは狩ってきたばかりの鹿を全員で貪っていた。
「さらわれた人はいねぇ。坊主、嬢ちゃん。やり方は任せる。それと、坊主は闘気以外は使うなよ」
「了解です」
ルクレイツアに返事を返したスレイは腰にさしていた短剣ともう一本の通常の長さの剣を引き抜くと、ユフィの方を見ながら作戦を考える。
「ボクがゴブリンの中に突っ込むから、ユフィは魔法で援護を頼めるかな?」
「オッケー!でも、援護だけじゃなくって討伐もするからね」
「了解。それじゃあ───行くよ」
ゴブリンたちの注意がこちらに向かないことを確認したスレイは、全身に闘気を纏わせて茂みの中から飛び出した。
「グギャッ!?」
腹の膨れ休んでいたゴブリンがスレイの姿を視認し、そばにおいていたナイフを手に取ろうとしたがそれよりも速くスレイの剣がゴブリンの首を落とした。
振り抜かれた剣から伝わってくる肉をきる感触、そして骨を断つ手応え。初めて生き物を殺すことを経験したスレイは首を落とされ血が流れるゴブリンの姿を目に焼き付ける。
首を失ったゴブリンの身体が崩れ落ちドサリと音を立てて倒れる。
「グギャッ!?」
「ギギャギャ!?」
食事に夢中になっていたゴブリンが一斉にスレイの方へと視線を向ける。
立ち上がったゴブリンたちの手には鉄製のナイフや剣、盾などが握られ中には鎧を着ているゴブリンもいた。
「ゴブリンが鎧着るって、ほんとにあるんだな」
物語の中だけなのかと思っていたことが現実にあるのだと思いながら、スレイは気合を入れ直していると武器を構えたゴブリンたちが取り囲んだ。
「ギャギャ」
「ギギャギャッ!」
ゴブリンたちが何かを話し合いながらゆっくりとスレイとに距離を詰めてくる。ゴブリンたちの位置を確認しながら牽制していると、背後に回ったゴブリンが飛びかかりながら斬り掛かってくる。
背後から襲いかかってくるゴブリンの一撃をかわし、すれ違いざまに逆手で持った短剣でゴブリンの側頭部から刃を突き刺し、刃を捻って絶命させてから剣を引き抜く。
二匹目のゴブリンを倒したスレイは次に迫りくるゴブリンの武器、石を削り出して作られた手斧の柄の部分を狙って剣をふるった。
斧が切り裂かれ中を舞うと返す刃でゴブリンの喉に刃を突き刺してから首を切り裂く。ゴブリンの首から血が流れ出るがまだ生きている。
スレイは首を切ったゴブリンの身体を蹴ると、向かってくるゴブリンにぶつけ怯んだ隙にスレイは他のゴブリンに向かっていく。
蹴り飛ばされた仲間の死体を押しのけ立ち上がろうとしたゴブリンは、背後からスレイを狙おうとしたそのとき落雷が襲った。
「───ライトニング」
ピシャッと雷鳴が鳴り響くのを聞いたゴブリンたちが一斉に視線を向けると、落雷に打たれ黒焦げになって煙を吐くゴブリンが一匹、そして茂みの近くに立ち尽くすユフィを見つける。
一瞬の停滞、その隙にスレイはゴブリンを斬りつける。腕を切り落とし動を二つに切り裂き、後ろに飛んでから振り返りざまに次のゴブリンを斬り裂いたところで硬直していたゴブリンたちが動き始める。
「ユフィ!シールドで身を守ってッ!」
「オッケーッ!───シールドッ!」
杖を掲げると魔法陣が展開されユフィを守るように、球状のドームとなりゴブリンたちの攻撃を防いだ。
シールドは魔法の盾だ、術者の思い通りに好きな形にすることができ、魔法の中でもかなりスタンダードなものだ。
ゴブリンたちがシールドを叩き割ろうとしているので、シールド越しに魔法を放った。
「───アクア・スラッシュッ!」
シールドの周りに群がっていたゴブリンたちに水の刃を放ち両断すると、残りのゴブリンたちの数を見たユフィはスレイに向かって叫んだ。
「スレイくん!上に飛んでッ!」
「───ッ!了解ッ!」
一瞬スレイがユフィのことを見てからすぐに答えると、両足に身体強化を集中させ真上へと跳躍した。
「行くよッ!───ミスティック・ボルトッ!」
ユフィの杖に展開された魔法陣から雷撃を纏ったミストが放たれると、一気にあたりへと広がりゴブリンたちを焼き殺していった。
スチャッと地面に着地したスレイは、生き残っていたゴブリンを始末し初の魔物退治は終わりを迎えた。
⚔⚔⚔
ゴブリンの討伐を終えたスレイとユフィは、ルクレイツアから今回討伐したゴブリンの解体方法と冒険者になったときに必要な討伐証明のことなどを教わり村に帰った。
そのとき取り出したコアは、後日ルクレイツアがギルドで換金し等分して二人に渡してくれることになった。
「師匠、今日はありがとうございました」
「ありがとうございました」
「あぁ……今日はもう帰って休め」
「「はい!」」
返事をした二人は帰るべく踵を返し歩き出そうとしたその時、ルクレイツアがスレイのことを呼び止めた。
「おい坊主」
「はい、なんですか?」
呼ばれたスレイが足を止めて振り替える。
「例のことだ。一月後に出発する。それまでに準備しとけ」
「はい」
「それだけだ、さっさと帰れよ」
それだけ言い残してルクレイツアは自分の宿の方へと歩いていってしまった。
⚔⚔⚔
夕焼けで紅く染まった村のなかをスレイとユフィは無言で歩いていた。
「「………………」」
いつもなら何かを話ながら家へ向かうのに、今日に限ってなにも話すことがない。
「…………なぁユフィ……今日は家で夕飯食べてく?」
「うん。そうするよ」
「じゃあ帰ったら腕によりをかけてって、この時間ならミーニャがなにか作ってるか」
「そうかもね」
クスクスと笑ったユフィは一瞬暗い表情になると、小さくつぶやいた。
「もう一ヶ月しかないんだね」
「あぁ」
先ほどルクレイツアに言われた一月後、それはスレイがルクレイツアと共に一年間、山に籠りの修行に向かうまでの日付だ。
「一年は長いね」
「そうだな、ユフィに会えないのは寂しいかも」
スレイの何気ない一言にユフィは驚いた。
「えっ、えぇ!?」
顔を真っ赤に染めながら驚いているユフィにスレイは小首をかしげた。
「なに、どうかしたの?」
事実なのでそんなに驚かれることはないと思っていたスレイは、ユフィの反応に訝しんでいる。
「だっ、だっていきなりそんな事言うから………びっくりして」
「実際そうじゃん。今まで直ぐ側にいた相手がいないんだよ。寂しいよ」
お互いいることが当たり前だから、離れることは寂しいんだというスレイ。それはユフィも同じだったのでそっと頷いた。
「うん。私も───」
寂しい、総ユフィが口にしようとしたその時だった。
「あっ、でもやっぱりミーニャの成長が見られないのが寂しいかも」
「えっ!?ミーニャちゃん!?」
「だって一年だぞ!あんなかわいいミーニャに一年も会えないなんて………それに、もし変な虫が寄り付いたと思うと、ボクはッ!」
シスコンここに極まり。
ここでまさかの兄バカ発動させたスレイに、呆れて物が言えなくなったユフィは心の底からなんとも言えない怒りが溢れてきた。
「もう!スレイくんのバカ!シスコン!!」
「えっ、ユフィ!?なんで怒ってるんだよ!?」
「怒ってないよ!」
「いや、怒ってるし」
スレイの顔を見ずにどんどん先を行くユフィ。
「あぁ~もう、待てってユフィ!」
いったいなぜユフィが怒ってるのかが、本気でわからないスレイ。
──これはゴブリンを倒すよりも疲れそうだな。
そう思いながらも、なんとかなるだろうと思いながらユフィのあとを追うスレイだった。