プロローグ
初投稿作品です。
読んでいただく皆様には、楽しんでいただけるようにしたいと思っていますので、どうかよろしくお願いします。
すでに日は落ち世界は夜闇に染まる。至るところでは落ちてしまった日の代わりに、火をおこし部屋を照らしていく。
そんな中、一軒の家のその一室では、明かりもつけずに静かに眠る老婆がいた。
夜空に昇る月の明かりに照らされた部屋、その部屋のはしの大きな窓の近くで人が二人は座れそうな揺り椅子をたった一人で独占し、さらには揺れるリズムに身を任せ、静かなまどろみのなかで一冊の本を膝の上にのせ夢の世界に入り浸っている。
そんな老婆の元に一つの影が落ちる。
「こんなところで寝てると風邪をひいてしまうぞ?」
声を聞いて老婆はゆっくりと目をあける。
「あら、あなた」
目を覚ました老婆が後ろを振り返る。すると、そこには老婆と同じ歳と思われる老人がたっていた。
老人は老婆の顔を見て優しく微笑む。
「おはよう。気持ち良さそうに眠っていたね」
眠っていた。
その言葉をきいた老婆は周りを見回して、自分が今どこにいるのかを思い出した。
「あらいやだ。私ったらこんなところで寝て、それにこんなに暗く……いけないわ!お夕飯の支度をしなきゃ」
いつもならば愛する家族のために夕飯の準備をしなければならない時間、にもかかわらずこんな時間まで寝てしまっていたため、大急ぎで夕飯の支度に向かおうとする老婆を老人が落ち着いた声で止める。
「今日はあの子達が来ているんだ。任せておきなさい」
「で、でも」
「あの子たちも、君に自分たちが作った料理を食べてもらうために意気込んでいたよ?」
「……わかりました。今日はあの子達に任せます」
老人の言葉を聞いた老婆が諦めたように先程まで座っていた揺り椅子に座ると、それにつられて老人もちょうど一人分空いている揺り椅子に腰を下ろした。
「ところで、いったいなんの本を読んでいたんだい?」
隣に腰を下ろした老人は先程まで読んできたであろう本について訊ねると、老婆は膝の上に置いていた本を持ち上げ老人にも見えるようにすると次の瞬間、老人は顔をしかめてしまった。
「あぁ………その本か……」
老人の顔を見て老婆はクスクスっと小さく笑う。
「あらあら、あなたはいつまで経ってもこの本が嫌いなんですね?」
「そう言わんでくれ。それに君だって少し前までは同じだったじゃないか」
「あら?そうでしたっけ?」
とぼけるような口調で語る老婆。
「おいおい、まだボケるには早いんじゃないか?」
あきれるように呟く老人。
「何を言いますか、私たちももう歳なんですから、ボケたって仕方ありませんよ」
「まぁ………そうだな」
納得したように頷く老人。そんな老人の肩に自分の頭を乗せた老婆は再び揺り椅子に揺られながら、今度は本ではなく夜闇に浮かぶ月を見上げる。
「ところで何でまたそんな本を?確か孫たちの目に入らないように本棚の奥に隠しておいたはずだが」
「これを隠したのってあなただったんですね」
どうりで見つからなかったわけだと、どこか納得したように呟く老婆は老人に向かって話を続ける。
「昼間にあの子達が見つけてきたんですよ。それで私に読んでほしいと持ってきたんです」
「ふむ。あの本棚は勝手に漁られないようにかなり高位の魔法を掛けておいたはずんだがな………」
「言ってましたよ。おじいちゃんの魔法がかかってたって」
「ほぉ。それじゃあ、あの子達はそれを解いたとな……私たちの孫は天才かもしれんな」
「あなた、かもではなく天才ですよあの子達は」
聞き方によっては孫贔屓をしている老夫婦と言われてもしかないが、高位の魔法を解いたのは事実なので誰にも言われることはない。
「話を聞いているときのあの子達、目を輝かせていましたよ」
思い出しながら嬉しそうに微笑む老婆とは違い老人の方は何とも複雑そうな顔をしていた。
「気持ちはわかりますけど、そんな顔しないでくださいな」
「すまんな……だが、もう一度読んでみようか」
老人が老婆の膝の上におかれている。本の表紙をなでなから笑うと、その顔からなにかを察した老婆はゆっくりと本の表紙をめくり始めた。
老人の視線の先にある本に書かれているのはある英雄たちの闘いの軌跡であり、世界を救うために立ち上がった英雄たちの旅の記録であり、世界で最も有名な英雄譚。
誰もが憧れ、誰もが夢見るような冒険のお話し。
だが、この本にはすべては書かれてはいない。
英雄たちの旅の始まりが。
英雄たちの本当の想いが。
歴史の裏側で死んでいった者の想いが綴られていた。
だが、そのすべてを語るにはこの物語の始まりを知らなければならない。
この場所この世界ではないもう一つの世界から英雄たちの物語は始まる。
誤字脱字がありましたら教えてください。