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【4】










 そう言えば、エリゼはフランソワと同世代の子を会わせたいのだろう、と言っていた。シャルロットが以前買い上げたユーリは少々年が離れているが、アランとなら三つ違い。同世代……というほどでもないが、年は近い。

 まさか、アランとフランソワを引き合わせる……のか? シャルロットならやりかねない。まあ、フランソワは孤児院の子たちとも普通に交流していたようだし、シャルロットの教育を受けているだけあって理不尽に偉ぶる子ではないと思うが……。


 むしろ、アランの態度が心配である。


 本人は宮殿に上がるのが楽しみな様子。まあ、ミレーヌたちの立場では、一生かかっても宮殿には上がれない。そう言う意味で、ミレーヌも興味がないわけではないが、やはり気が引ける。そこを、この子は了承したのかと思うと図太いなぁと思う。

 まあ行きたいなら行けばいいさ。ただ、迷惑はかけないようにしてくれ、と思いながら、その日もミレーヌは出勤したのだが、何故かエリゼは出かける準備をしていた。

「なんで店を閉めてるんですか。あ、公演を見に行くんでしたっけ。でもあれって、昼過ぎからじゃなかったですか」

 だから、午前中はミエル・ド・フルールを開けると聞いていたのだが。だから出勤してきたのだが。

「ああ、おはようミレーヌ。じゃあ行こうか」

「はい?」

 ミレーヌ、にっこり笑ったエリゼに拉致される。いや、まあ、強引に連れて行かれただけだけど……。エリゼがミレーヌを害するわけがないとわかっているのでおとなしくついていく。辻馬車に乗って、降ろされた場所は何やら見覚えがある。


「フィ、フィリドール公爵邸……」

「私も平民出身だからさ、この屋敷の広さの意味は分からないよね。行こうか」


 エリゼがずんずんと屋敷の中に入って行く。止められなかった。たぶん、使用人たちもエリゼの顔を知っているのだろう。

「あれ、姉ちゃんじゃん。仕事行ったんじゃなかったの?」

「そのつもりだったんだけどねー」

 姉の登場に気付いたアランが首を傾げて言った。彼の隣にはユーリの姿がある。二人とも盛装だった。ちなみに、ユーリは女装ではなかった。

「ねえ、ちょっとそこ。何で残念そうなのさ」

 ユーリがミレーヌの溜息に気づいて言った。あ、ばれたか。

「いや、ちょっと、ユーリの女装の正装を見てみたなって思っただけ」

「……」

 ユーリが微妙な表情になった。ユーリももう十七歳。いつまでも可愛い、と言われるのはさぞ複雑であろう。一応彼も、きれい系のハンサムさんなのだが。エリゼとかジスランとか、比べる男性の対象が悪いのだろうか。

「ユーリ、シャルの護衛はいいの?」

 エリゼが尋ねると、ユーリはうなずいた。

「宮殿にいるのなら、下手に屋敷にいるより安全です。常に誰かが側にいますし、何かあればジスラン様がすっとんできますからね」

「相変わらず仲良しだね」

「らぶらぶですよ」

 喧嘩するほど仲がいいを地で行く夫婦、フィリドール公爵夫妻である。

「僕はエリゼ様とミレーヌ、アランを宮殿に連れてくるようにと言われました」

「……はい、質問です」

 ミレーヌが手を上げると、ユーリが「なんでしょう」と問い返した。


「エリゼさんや、アランはわかるわ。何であたしも一緒なの?」

「ボワモルティエ・シアターきっての願いだよ。なんか、ボーマルシェ殿の件で巻き込んでしまったから、そのお詫びにもぜひってことらしいよ」


 ユーリがわざわざ教えてくれたが、ミレーヌには「うーん」という感じだ。


「それ、お詫びになるの? 嫌がらせじゃなくて?」

「一応、お詫びなんだろうね。ミレーヌ、ボワモルティエ・シアターの公演のチケット、一回いくらか知ってる?」


 エリゼの問いに、ミレーヌは素直に首を左右に振った。エリゼはにっこり笑って言った。

「君の給料一年分」

「なんですと!?」

 驚いた。めちゃくちゃ驚いた。ミエル・ド・フルールでの給金で換算して、一年分らしい。他より給料の良いミエル・ド・フルールの給金で、一年分……そんなに高かったのか、とミレーヌは逆に引く。


「いいって言ってるんだから、いってくればいいんだよ」


 エリゼがミレーヌの背を押した。ユーリが彼女の肩に手をまわす。エスコートされているというよりは、拘束されている気がするのだが。

「女性の支度には時間がかかるからね。あのシャルですら、そうだから君もきっとかかるだろう……行っておいで」

 女公爵とミレーヌでは立場が違う! と言いたいところであるが、その前にミレーヌはユーリに連行されていった。

 連れて行かれたのはゲストルームだった。ミレーヌが以前泊まった部屋と似ている。たぶん、同じような作りなのだと思うが、それはどうでもいい。

「……あの~、これは」

「大昔、十年以上前に某女公爵が着ていたドレスだね」

「某って、ファルギエールに女公爵は一人しかいなかったわよね」

 平民のミレーヌだってそれくらい知っている。部屋の中には、色とりどりのドレスが並んでいた。目にも鮮やか。一人の少女としてあこがれる。あこがれるが、まさか。

「これを着ろと!?」

「大丈夫。メートルはもう着ないから」

「でしょうね!」

 どう考えてもサイズが合わないからね! 現在のシャルロットは、男性と並んでも見劣りしないほどの長身である。実際に、彼女は夫のジスランよりも背が高いくらいだし。


 結婚したころは身長は同じくらいだった、という夫婦の証言があるので、シャルロットはミレーヌくらいの年のことには、ジスランほどの身長だったはず……。ということは、このドレスは十代前半頃のものだろうか。

 などと現実逃避してみるが、フィリドール公爵家の優秀な侍女たちは笑顔でミレーヌに詰め寄る。

「お嬢様、好みはありますか?」

「お嬢様なら明るい色がお似合いかしら」

「女の子をドレスアップできるなんて久しぶりね!」

女公爵ラ・デュシェスはやらせてくれないものね~」

 彼女たちは楽しげに言う。どんなにかわいらしい顔をしていても、ユーリは男性であるので、「終わったら呼んで」と言って部屋を出て行った。ミレーヌが一人残される。

「では、いざ!」

「お任せ下さい、お嬢様!」

「可憐に仕上げて見せますわ!」

「~~~~っ!」

 悲鳴を上げる間もなく、ミレーヌは侍女たちに拘束されて着替えが始まった。


 高貴な女性の着替えと言うのは、こんなに時間がかかるのか、とミレーヌはため息をついた。

「あ、可愛いね」

 呼ばれてやってきたユーリはミレーヌを見て微笑んだ。彼についてきた弟のアランなどは、「着られてる感があるけど」などとなかなか辛辣なことを言う。

 ミレーヌが着ているのは水色のドレスだ。スカートのふくらみは控えめで、矢やおとなしめなドレスだろう。たぶん。子供っぽくなく、かといって大人びすぎていない。かつてシャルロットが纏っていたのだろうかと思うと、不思議な感じだ。

 髪もきれいに整えてくれた。と言っても、ハーフアップにしただけだが。それと化粧も少し。ユーリとアランも姿を整えているので、一応これで釣り合っているのか?

「……気が引けるというか、こんなことしてていいのかしら……」

「姉ちゃん。俺達がこんな格好して宮殿に行けるのなんて、きっと一生で今回だけだぜ。やらないと損だって」

 そんなことをのたまうアランに、ミレーヌは感心した。


「あんた、図太いわね……」

「ミレーヌ、少し見習った方がいいよ」


 ユーリにもそんなことを言われる。というか、何なのだろう。ユーリも図太い方だと思うが、フィリドール公爵家にはそう言う人間が集まってくるのか。

 一方、一人待っていたエリゼも、ミレーヌを見て「かわいく出来たねぇ」と微笑んだ。

「じゃあ三人とも、気乗りしないかもしれないが、行こうか」

 本当に気乗りしないが、ミレーヌはユーリに手を取られて一緒に行くことになった。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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