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第三話 初めて焼いた肉のお味は? 前編


「いらっしゃいませーー! 何名様ですか? ……はい、二名様ですね。はい、禁煙席……それではあちらの席へおかけになってお待ち下さい」


「すいませーん、注文いいーですかー?」


「はい、ただいま参りまーす!」


 メイド服が似合うショートボブのリンさんが駆け回っています。この姿を見るのはひとときの癒しの瞬間ですね。僕の名前はグランツ・タロウ・イフリート。もう覚えてくれましたか? 筋肉隆々な炎の魔人、イフリートは《第三世界》の……あ、もういいって? 分かりました。


 さて、夜のレストランはお客さんで賑わってます。人間のお客さんだけでなく、緑色の露出度が高い衣装を着たハイエルフや鉄製の鎧を身につけた図体が大きいオーク、背が低い犬の顔をしたコボルトなんかも居ます。コボルトとは今度モフモフ対決でもしてみたいところです。


「季節のきのこバターソテーはE席、そこの酒はF席だ」

「はいー、了解しましたー!」


 先日ブラック企業であるエレメンタル精霊魔獣商会を飛び出した僕は、従業員が冒険中に負傷したというこちらのレストランを手伝っています。そういえばケルベロスに噛まれたとか言ってたけれども……まさかうちの会社に勤めてるケロちゃん……じゃないよね……?


 会社に居る時のケロちゃんっていつもゴロゴロしてるかモフモフされているか、ご飯を食べているかなんです。たまーに光に包まれて召喚される事もありますが……あんな可愛い顔をして本当に巨大化なんてしているんでしょうか? あ、話がそれました。妄想するのは僕の悪い癖ですね。


「季節のきのこバターソテー、お持ちしましたー!」

「あーーら、新人ちゃん? 可愛らしいのねー私ハイエルフのエリーナよ。ここの常連なの、よ・ろ・し・く・ね?」


 今、心臓が射抜かれたような音、しませんでした? 気のせいでしょうか? 


「よよよよ……よろしくですーーー」


 ペコっと頭を下げる僕、レストランに勤めてよかったと思う瞬間でした。


「おーい、酒まだかーー!?」


 あ、お酒持っていくんでした。図体が大きなオークのお酒でしたか……現実に戻された気分です。


「はい、ただいまお持ちしま……」


 次の瞬間、僕は派手に躓き、床へとダイブします。確か、異世界が前世だったという人間のお友達に聞いた事があるんですが、これ、ヘッドスライディングって言うんですよね? お酒の入った銀の容器が宙を舞った瞬間、まるで時間が切り取られたかのようにゆっくり……ゆっくりとオークのお客さんへ向けて飛んで行くのが見えました。僕、もしかして、時間を操作する能力を持っていた……という事でしょうか?


―― バシャーーーン


「お、おい……お前何してくれるんだ……」


 目の前のオークがわなわな震えているのが見えます。これはさすがにやってしまった感がありますね。


「も、申し訳ございません……」


 そのまま伸びた状態で顔だけオークへ向ける僕。なんだか立てかけていらっしゃった斧を持とうとしています。かなりご立腹ですよね。


「お客様、申し訳ございません、本日のお食事代は結構ですので!」


 メイドのリンさんが素早く対応し、タオルでオークの顔、身体を拭きとります。


「そんなんじゃ俺様の怒りはおさまらねーー!」

「あら、何がおさまらないのかしら? もしかして……ここ(・・)がおさまらないの?」


 オークの言葉に被せるようにして、先ほどお話したエルフのエリーナさんがオークの傍へいつの間にか立っていらっしゃいました。ハンカチでオークの顔を拭きながら、だんだんとハンカチがオークの上半身、下半身へと滑っていきます……。オークの目の前にはエリーナさんの大自然の恵みを受けて育った果実が……


「え……いや……あ……その……」

「私と仲良くしたいのなら……大人しくしてなさい、ボ・ウ・ヤ」

「へ、へい! い、命拾いしたな、坊主!」


 ちらっと僕へ向かってウインクをした後、自分の席へ戻るエリーナさん。世の中いい人って居るものなんですね。エリーナさんの場合はいいハイエルフですね。それにしてもあのエロオーク……お酒を飲んでもいないのに、顔が真っ赤になってますね。そのまま鼻の下を伸ばして席に着きました。とんだスケベ豚ですね……あ、ごめんなさい。さっき、鼻の下伸ばしていたのは僕も一緒でした。鼻から赤い液体が垂れて来たのも内緒です。


 ゆっくり立ち上がってその場を離れる僕です。


「タロウさん、大丈夫ですか? 怪我はないですか?」


 リンさんが駆け寄って来てくれました。ウンディーネさんに次ぐ第二の女神です。あ、エリーナさん……これは恋の季節ですね。


「大丈夫です、ご迷惑おかけしました」

「おい! タロウ! 何やってる! こっちを手伝え!」


 厨房からマスターの声がします! すぐそちらへ向かいます。


「おい、タロウ、今ちょっと手が離せねーんだ。そこに肉があるだろう。ミノタウロスの肉を焼いてくれ。イフリートだから火の扱いには自信があるんだろう?」


 目にも止まらぬ凄い速さで包丁を使い、野菜を切りつつ、スープを煮込み、ビックシュリンプと鶏肉を揚げているのはマスターです。このお方、一体何人分の仕事をされているのでしょか? あれ、もう一人居たような……細かい事は気にしないでおきます。


「分かりました。すぐやります!」


「フライパンに特製植物油を引いてる。特製ソースは俺がかけるから、お前は焼くだけだ。右から三番目(・・・)の肉だ」


 なるほど、コンロの横にお肉の塊が並んでますね。コンロは炎の魔法が施されていて、スイッチで火加減を調節出来る仕組みのようです。が、僕は直火焼きが得意ですから、自身の炎で決めちゃいますよ。今、キラーンって効果音鳴ったの聞こえました? キメ顔というやつですね。あ、また話がそれそうになってました……えっと確か、三番目(・・・)の肉でしたよね! ()から三番目のお肉を取って、フライパンへぶち込みます。


 それにしても、ミノタウロスのお肉って、フライパンからはみ出る程大きいんですね。捌いた状態であっても、身がとても引き締まっているのが見て分かります。さて、いきますよ、直火焼きファイアーの時間です。


―― ボゥウ!


 フライパンに置いた肉が瞬間、炎に包まれます。イフリートは細かく炎の温度や大きさを調節出来るんですよ? こんな見た目でもイフリートの端くれ、それ位は余裕です。天井に昇るくらい炎が舞い上がっているのは仕様です。中の温度は調節してますから、炎に包みこんであげた方が、じっくり焼きあがるというものです。



「よし、ビックシュリンプの海老フライとミドルホークの胸肉香味揚げ、お待ち! リン、持っていってくれ! ……ってタロウ! 何やってる!」


 揚げ物を揚げていたマスターが突然僕を呼ぶものだから、肩がビクって反応しちゃいました。心臓に悪いですね。


「おい! 早く火止めろ! 店が火事になるだろうが!」


 天井に付くか付かないかの舞い上がる炎に驚き、怒鳴るマスターです。いや、大丈夫ですよ。そんな焦らなくても……。


「おい! タロウ!」


 これ以上怒られるのは嫌なので、両手をかざし、炎を吸収します。僕の手は炎を出す事も、吸い込む事も出来ますから、この位の火柱で驚くようなイフリートではないのですよ。


「……おい……タロウ……これは何だい?」


 僕の横に立ったマスターが震えてます。感動して震えてくれているのでしょうか?


「何って……ミノタウロスの肉焼いただけですよ? マスターの言われた通り、左から三番目のお肉を焼いただけで……」


 その言葉を聞いた瞬間、マスターの顔が青ざめた。


「左から三番目……だと!? おい……俺は右から三番目って言ったんだぞ……」

「え? えええ!?」


 そこで初めて自分の間違いに気づきました。


「それにお前……()から三番目にあった肉……今予約席に座っているお得意様のために、とあるルートから取り寄せた……レットドラゴン(・・・・・・・)のA5肉だぞ!?」

「な、なんだってーーー!?」


 並の冒険者では倒す事が出来ないため、通常手に入れる事も、ましてや一生に一度食す事が出来るか否かと言われるほどの幻のA5肉、レッドドラゴンの肉……。


 誰もが一度は憧れ、喉から手が出る程欲しがると言われるレッドドラゴンの高級肉は、ブラックドラゴンの皮膚よりも真っ黒な、肉なのか何なのか認知出来ない塊と化し、炭を燃やしたような強い香りを醸し出していたのでした。


次回 レッドドラゴン いよいよ実食……出来るのか? これ? 

お楽しみに

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