終話 猫は金魚と戯れた
「久し振りだな」
麗らかな昼下がり、何時だったか会った時と同じ縁側の下に現れた虎猫が言った。微睡んでいた白猫は目を開けて虎猫と分かると否や再び目を閉じ、ため息を吐いた。
「何だ、またお前か」
「またとは酷いな。暫く姿を見なかったから心配してたんだぞ。夏の間、何をしてたんだ?」
「特に何も」
「ふーん。その様子じゃあ、魚は喰えず仕舞いのようだな」
「喰ったよ、魚」
「は?」
「ほら、みたことか」と笑うつもりだったのだろう。意外過ぎる白猫からの返答に白猫の隣に座りかけていた虎猫は目を剥いて白猫に振り向いた。
「えっ、本当に? どういう事だよ。人から横取りしたのか?」
「違うよ。魚が自分から前に出てきたんだ。『私を食べて下さい』ってお前が言ってた馬鹿な鼠みたいにな」
「嘘だろ」
「嘘じゃない。嘘を吐いても徳が無い」
「確かに……はぁーマジか。お前、夢叶えちゃったのかよ。無理だと思ってたのに」
相変わらず、五月蠅い奴だ。これでは昼寝の継続は無理だと白猫は起き上がった。そこに、虎猫は称賛を送りながら白猫に問う。
「まぁ、兎に角お前すげぇよ。で、どんな味がしたんだ、魚って。鼠よりも美味かったか?」
「そうだな……鱗が硬くて、舌で舐めると引っ掛かって痛いし、歯に挟まる上に身は生臭くてしょっぱい。尾ひれは身体と同じぐらい大きい癖に食べられる場所はほぼ無い」
感想を言えば言う程、虎猫の表情は引いて行く。
「へっ、へー……不味そうだな、それは」
「いや、美味かったよ」
「は? そんなにボロくそ言ってんのにか?」
「あぁ。美味かった。ただ、もう二度と喰いたくねぇな……」
訳が分からないといった様子の虎猫。そんな虎猫を尻目に白猫は立ち上がると日差しが降り注ぐ外に出た。
白猫は空を見上げる。流れる雲に混じって空魚が相変わらず、悠々と空を泳いでいた。