VSジジイ③
☆
本当なら止めるべきだ。
かたやかつてナンバーズであり全盛期より力が衰えているとはいえいまなお現役並の魔力を有する大魔法師、オルバ・オリバー。
かたや転移者でありながら力を使うこともできずに劣等生と呼ばれているクロエ・オリバー。
試験のための模擬戦とはいえ戦えばどうなるか━━安易に想像ができた。
そう、今後のために今すぐを止めるべき。
だが、審判役を無理やり押しつけられたカノンは二人の間に割って入ることができなかった。
むしろ、この試合の結末に興味を覚えたことにカノンは驚いた。
第一訓練所の中。
ドーム状の建物のそこは中央に舞台、それを囲むように観客席。
通常舞台での戦闘の影響を遮断する結界がはられているが今は観客席には誰もいないので結界は展開してなかった。
被害はない。
一方的な展開になるだろうから。
それなのにオルバは黒い戦闘服など着、まるで本気のような顔をしていた。
職業は大魔法師であるがオルバは武器を得とした使い手でもある。
オルバが手にしているのは杖━━ではなく刃のない剣だった。
手加減なしてぶっ叩いたら痛いだけではすまない。
「クロエ君。アナタは得物、どうしますか?」
クロエはズボンのポケットに手を突っ込んだ立っている。
今から試合形式の模擬戦をする態度には見えなかった。
クロエも分かっているはずだ。
目の前の相手は油断できないことを。
「必要あるのか?」
「クロエ君。無手でやれる相手ではありませんよ?」
「あぁ。それは分かっている。俺は無手でやりあおうとは思ってない。この場合、力を使ってもいいよな?」
「力?スキルのことですか?それなら大丈夫です」
「なら問題ない。このままでも俺は出せるからな」
「何を出せるのですか?」
クロエは答えずニヤニヤしたままだ。
カノンはため息をしたあとで、
「オルバ様、クロエ君。勝敗は試合方式でやります。敗者は気絶するか、舞台から落ちるか。必要以上に相手を傷つけてはいけません。
審判である私の判断によって中断することもありますから。制限時間は三十分。いいですか?」
「OK」
「うむ。了解じゃ」
「それでははじ━━」
カノンがかけ声を最後までいうよりはやく、紅蓮の炎が広がり、矢の如く放たれた。
それは予期せぬ一撃だったため、カノンはまったく反応できなかった。
試合形式の模擬戦においてかけ声の前の攻撃は反則と見なされる。
それも学園長であるオルバが平気でしたのでカノンは一瞬思考が停止し━━
カノンがハッとして我に返った時、炎の矢はクロエに直撃し、炎を噴き上げた。
一点に収縮した炎が見る間にクロエを呑み込んだ。
呪文を必要としないオルバは簡単に力を捻る出すことができる。
彼は魔女の隔世遺伝子を持っているために世界でも数少ない、今は忘れ去られし力・・・・魔法を使えた。
大抵の魔術師や騎士や特殊な職業は力を使うためには媒体となる道具が必要である。
媒体があるのとないのではその威力が違うからだ。
しかしオルバはそれを必要としない。
隔世遺伝子所有者・・・・それは転生者や転移者に対抗するためにこの世界が生み出したと伝えられている、突然変異。
オルバは何世代前からの魔女の血を覚醒させて魔術よりも上の力、魔法を行使できる。
「なっ・・・・オルバ様!まだはじまりの合図を言い終わっていませんでした!それなのに━━あれはあきらかに瀕死を負わすような力ですよ!!!?」
火傷だけではすまない。
下手をしたら命を━━
カノンは激しく抗議した。
これは殺人だ、と。
「何を慌てているのじゃ、カノンちゃん」
「オルバ様!
アナタは自分のしたことを分かっているのですか!?」
「うむ。本気━━とまではいかないが、人など一瞬で蒸発させる一撃を放った」
オルバはあっけらかんと答えた。
「あれだとクロエ君が」
「リッカちゃんの報告によればクロエには大抵の魔術はきかんらしい。しかも魔法もな」
「何を冗談なことを。そんなわけな━━」
カノンは言葉を詰まらせた。
オルバが放った炎がいつの間にか消え失せ、無傷のクロエが姿を現したからだ。
「━━なっ━━」
絶句するカノンとは違い、
「ワシの力をキャンセルしたのか?力を放つ途中で頭の中が白くなったがそれもクロエのせいだろう?」
オルバは面白そうな笑みを浮かべた。
そしてオルバは見逃さなかった。
クロエの胸元の黒い輝きに。