VSジジイ②
☆
「驚きました。見事に反応なしですね。これだと魔力検査も」
「結果は同じじゃな」
なぜかオルバは得意気だ。
「こんな例ははじめてです。劣等・・・・いえ」
「別に言葉を選ばなくていい」
「わずかでも魔力を持ち合わせていれば何かしら反応をするのですが。もしかしてスキル:隠匿?」
「いや、俺は隠匿スキルなんてない」
隠匿は自分の姿も、その能力を隠すことはできるが完全に魔力を消すことはできない。
「魔力そのものがないなんて、どうやって活動を?」
生きていれば誰しも魔力を持っている。
それがこの世界の者の考えだ。
そこらの草木にも、動物たちにも。
「そこはリッカちゃんも教えてくれなかった」
「リッカちゃん?まさかギルド【三賢者】の?」
「そう。カノンちゃんにはワシらの事情をちいと話したよな?」
「はい。許せないことをなさったらしいですね?」
「ワシのせいじゃないから銃口向けるのはやめんか?」
「オリバー家の長なのでしょう?」
「今は息子が継いでおる」
「そうだとしても止めなかった。同じことですよ。この非道!」
「あんまりじゃ。いたいけな年寄りに」
オルバはいじけた。
「クロエを育てたのがそのリッカちゃんじゃ」
「なるほど」
「彼女の名前が出てきたらはすぐに納得したな?」
「あの人は特別ですから。女性なら誰もが憧れますよ」
「見た目子供だぞ、あれ?体つきなら断然カノンさんのほうが」
「血がつながってないのにやはりオルバ様のお孫さんですね。助平」
「心外だ!俺をジジイなどと一緒にすんな!」
「クロエよ、あまり年寄りをいじめるな」
「だからキモいんだよ、アンタは」
そんなやり取りをする二人を眺めたあとで、カノンはため息をした。
「ここまで反応なしだと魔術科か武芸科、どちらも無理ですよ?判定は最低ランクのEクラスになると思いますが」
「そんなのは決まっておる。クロエは魔術科じゃ」
「その理由は?」
「武芸科じゃとクロエの力は目立つからのー。それなら魔術科で隠したほうがよい」
「目立つ?でも彼は」
「劣等生━━じゃよな。クロエよ、この学園ではそれで過ごすのか?」
「当たり前だろう。
なぜ好き好んで武芸科に通わないとならない?確実にフラグが立ちそうで嫌だ」
「魔術科に通ったとしても同じことだと思うがのー」
「いや、幼馴染みと会わないだけで格率も減る」
「なるほどのー。彼女らにもう会ったか?」
「都市に入ってすぐな。何か試合とかだったらしいが、あれはあきらかに試合の範疇を越えていた。
ジジイ、生徒にどういう教育してんだ?」
「初等部から高等部までどれほどいると思っているんじゃ?
全部把握はできん」
「何が大魔法師だ、使えん」
「クロエも言うようになったな」
「俺を鍛えたのは誰だと思っているんだ?」
「まあ、そうなんじゃが」
オルバは頷き、
「オルバ様。本当に魔術科でよろしいのですか?」
「あぁ。それで大丈夫なんじゃが。クロエよ、ここに途中入学には条件がいるんだが」
「条件?」
「学園に通う者はみな冒険者ギルドに属さないとならん」
「確かそう聞いたな」
「そしてある程度戦えなければならん。高等部はそれこそ命の危険があることもしないとならんからな。それは騎士科や魔術科も同じじゃ」
「それで?」
「試験させてもらう。クロエがどこまで戦えるのかをな」
オルバはにやりと笑った。
それを聞き、カノンは鋭い眼差しをオルバに向けた。
「オルバ様。アナタはバカですか?」
「バカとは何じゃ」
「武芸科に途中入学ならまだしも、魔術科はそんなことはしなくていいです」
「なぁに。ただの興味本位じゃよ」
「ですから、それをした場合、確実に怪我をします」
「果て。誰がじゃ?」
「相手は武芸科のいずれかの教師がする決まり。中には加減下手な教師もいます。だからクロエ君が」
「なるほど。そうじゃな」
「分かったら試験免除で」
「クロエの相手はワシがすることにする」
「━━は?」
カノンは目を丸くした。
「オルバ様。正気ですか?」
「だって仕方ないじゃろう。怪我をするもん」
オルバは笑みを浮かべたままで、
「クロエが相手した教師がのー」
「何を言っているのですか?」
カノンは頭痛を覚えたような顔で、
「彼はSクラスに入れるほど実力はないんですよ?一生徒と教師の実力にどれほどの開きがあるか」
「だからワシがクロエの実力を見極めるんじゃよ。教師に任せていたら実力の半分も引き出せんかもしれないし」
「そんな冗談は━━」
「ジジイ。やめたほうがいいぜ?」
クロエは意地悪な笑みを浮かべつつ、
「ジジイは役不足━━とは言わないが病院おくりになってもしらないからな?」
「言うじゃないか、クロエよ。現役を退いたとはいえワシはまだまだ若いもんには負けんぞ。童ごときにおくれはとらんよ」
笑みを返すオルバの目が爛々と輝いている。
それを見たカノンはゾッとさせられた。