VSジジイ①
☆
オルバ・オリバー・・・・数云々歳という年齢に相応しい外見をしているが穏和な雰囲気の中に若々しい生気がみなぎっていた。
前線から離れ、ナンバーズを退き、クロス学園の学園長の地位にいるというのに平和ボケした感じではない。
杖をつくこともなく、いくらか力が衰えているにもかかわらず現役のギルドマスター以上の発言力と実力を持つ。
一応、ギルド【三賢者】に属しているが表立ってクエストや任務はしない。
流石は英雄などと言われる実績のある人物であるが、クロエにすれば「胡散臭いジジイ」である。
学園長室に入ったクロエはますますそう思った。
>オルバ・オリバー
年齢:不詳
種族:人間種族
職業:クロス学園学園長
クラス:大魔法師
称号:ナンバーズを去りし者、クロス学園学園長、英雄、隔世遺伝子所有者
固有スキル:不明
目の前の老人のステータスをスキャンしても肝心な部分は出てこなかった。
かつて最強を欲しいままにしていただけはある。
クロエはため息をし、かつての家族の長を睨むように見た。
「クロエよ、久しぶりじゃのぉ」
大きなデスクと高級そうな椅子。
クロエが学園長室に入った途端、オルバは気軽に挨拶をしてきた。
デスク上に何やら資料が山積みになっていることからあまり仕事はしてないらしい。
手付かずな資料の山にクロエを案内してきた女性は難しそうな顔をして、
「オルバ様。
あれほど仕事を片付けてくださいと言いましたよね?」
「何を言う。かわいい孫がわざわざ会いに来てくれたんじゃ。仕事などできるか!」
「それが学園長のお言葉ですか?」
「やりたくないものはやらん。かわりにやってくれないか?」
「甘えないでください!」
冷たく言った女性はどこからともなく銃を取り出した。
銃口をオルバに向ける。
━━魔導銃か。
女性が手にしている銃を見、クロエは胸中で呟いた。
この世界では魔術が普及しているが転生者や転移者の出現によって元々こちらの世界にはない力━━科学に似たものが誕生した。
しかしあちらの世界で発展した高度な科学文明であってもこちらの世界では未知の力だ。
転生者や転移者とはいえそういう智識があっても専門家ではない。
だから一部の転生者や転移者は智識をフル回転させ、あちらの世界にはない科学に変わる力を生むことに成功した。
魔術と科学を合わせた力━━魔導である。
魔術を組み込んでできた道具のことを魔導具と言い、それを扱う者を魔導具使いと呼んだ。
魔導具は己の魔術を流すことによって力を発揮する。
たとえば魔導銃に力をこめれば鉛弾ではなく魔術が発射。
威力も持ち主の魔力次第である。
「いたいけな年寄りを脅す気か?」
「これは脅しではありません。命令です。すみやかに仕事をしなさい」
「クロエはどうする?」
「こちらがお世話をします」
「なぬ!?それはあんまり━━」
「学園長。オルバ様」
「むぐっ、了解じゃ。カノンちゃんよ、クロエに変なことをするなよ?」
オルバは女性を睨んだあとでたまっていた作業に取りかかった。
☆
>名前:カノン:ポーター
年齢:二十云々歳
種族:人間種族
職業:オルバの秘書
クラス:魔銃使い
スキル:百発百中
━━あれを黙らせるとはなかなかの人物だ。
クロエは感心した。
この秘書の女性にはオルバは頭があがらないようだ。
「クロエ君。この学園に入る前にやらなくてはならないことがあります。適性検査」
「適性検査?」
「魔術科か武芸科か。あとクラスも。クラスはわかりますか?」
「確かEクラスからAクラスが普通の教室で、Sクラスが特進だったよな」
「えぇ。Eクラスは実力的では下のほうでAクラスは上です。でもAクラスとSクラスの実力にも開きがありますから」
「まあ、俺には無用なことだな」
「どうして?」
「俺には魔術師としての才もないし、武芸人としての技量もない。だから劣等生」
「オルバ様はクロエ君のことをすごい子だと誉めていました」
「モウロクしているだけだ」
「おい、クロエよ。聞こえているぞ?」
デスク上の資料の山を片付けたオルバがいつの間にか近くにいた。
「カノンちゃんよ、これでよかか?」
「毎日真面目にしてください」
「ワシは真面目な男じゃよ」
「「・・・・・・」」
クロエとカノンは白い眼差しをオルバに向けた。
「さて、クロエ。話をしようか」
「オルバ様。まだ適性検査がすんでません」
「カノンちゃんはいけずじゃのー」
「キモいです」
カノンは嫌そうな顔だ。
「カノンさん。疲れないか?」
「正直に死━━です」
「そこまで嫌われているとはのー」
オルバは泣き真似をしつつ、
「しかしカノンちゃん。クロエに適性検査をしても何も意味ないぞ」
「どうしてです?」
カノンは怪訝そうな顔だ。
クロエがこの学園に通うきっかけになった半分はオルバだとカノンは本人から聞いている。
だからどちらかの適性はあると思っていた。
「クロエの場合、どちらにも反応せん」
「そんなことはないでしょう。適性盤は必ずどちらかに反応します。希にですがどちらも適性があって魔術科か騎士科か本人に決めてもらいますが」
「んじゃあ、試してみるか?」
「はい。適性盤を持ってきます」
言ってカノンは奥の部屋へと引っ込んだ。
☆
長方形の漆黒の板━━見た目はそれである。
適性を判定できるような感じではないがこれは昔から適性検査に使われていたものだ。
「魔術科だと黒、騎士科だと白です。
目を閉じて魔力を流すだけ」
「無駄じゃというのに」
小さく呟くオルバを無視し、クロエは適性盤に触れて意識を集中させた。
魔力の大小関係なく適性盤は反応する━━普通なら。
沈黙。
適性盤はまったく反応しなかった。
それをカノンは難しそうな顔で見つめた。