クロエとクー・シーの少女
☆
クロス学園高等部は学園都市クロスの中に存在している。
学園都市というくらいで学生のためにつくられた場所だがそこは他の国とは大差ないほどの規模だった。
学園都市クロスには高等部にや初等部、中等部もある。
その他の施設や店、住宅地まで。
そして様々なギルド。
ここには様々な技術や人材などが集結しているので学園の教師は優秀、学園都市クロスをドーム状の結界が展開しているので敵意あるモノが入れないようになっていた。
学園都市クロスにはいるためにはちゃんとした身分証がいる。
身分証を偽造したら即捕まり、なくしたら発行するまで半年もかかる場合がある。
学園都市クロスに暮らす学生は学生手帳が顔パスみたいなものだ。
クロスは馬車に揺られなら都市クロスに向かっていたわけだが。
あと五百メートルあたりというところで馬車をおりた。
不思議なものが見えたからだ。
「ここでおりるのかい?あとちょいで学園都市クロスだぞ?」
クロエが乗せてもらった馬車はとある商人の若者である。
その商人には妻と幼い娘がいてクロエが学園都市クロスに向けてのんびり歩いていたとこ声をかけられた。
人見知りが激しかった商人の娘も三日ずっといればクロエになついてくれた。
商人の若者は学園都市クロスの数百メートル手前で馬車からおりたクロエを不思議に思った。
「あぁ。ちょっと面白いもんが見えてさ。あれ、何だと思う?」
「・・・・見たままでいいか?」
クロエが指差した場所を見て商人の若者。
「スライムの群れ」
「だよな」
色とりどりのスライム数匹の姿があった。
無防備な感じで、まるで日向ぼっこをするように身を寄せあい、ふるふる揺れている。
近くを商人や旅人、冒険者が通ってもまったく襲ってくる様子はなかった。
そして学園都市クロスに向かう冒険者たちもスライムの群れに見向きもしない。
その光景は彼らにとって見慣れたものなのだろう。
「あれ、放っておいていいのか?」
スライムは討伐対象Fで弱い魔物である。
一体一体は力もなく、レベルがあがったスライムも脅威にはならない。
しかし群れのスライムはちょっとした冒険者では討伐も難しい。
群れのスライムは【融合】といった特殊能力があり、何匹ものスライムで合体して巨大化し、時には魔術を使ったりもする。
「あぁ。あれは無害だ。側を通るモノを襲ったりしない」
商人の若者は笑ってスライムの群れの中央を指差した。
「彼女がいるからな。ここら辺のスライムはおとなしい」
スライムの群れの中央、膝を抱えるようにして目を閉じている少女の姿があった。
年齢は十四、五歳くらいか。
耳は人間のそれではなく犬のもの、尻尾も犬のそれである。
本来、白いであろう肌は汚れていた。
スライムの群れに襲われている━━初見だとそう思う光景。
しかし少女は怪我をしたわけでもなく、具合が悪いわけでもなく。
ただ眠っているだけのようだ。
のんびりとした雰囲気。
思わずほっこりした。
クロエは少女の姿にあることに気づいた。
━━あの娘は転生者だ。
転生者の証である紫色の長い髪。
しかも彼女は、
「犬の妖精と呼ばれるクー・シーか?」
「お。よく分かったな」
「何となくそう思ったわけだが犬の妖精と呼ばれるだけあって本来は人間より犬側に近い姿をしているんじゃなかったか?」
そこまで呟いてからクロエは自身で疑問を解決した。
「彼女はいわゆる他種族のハーフ━━モンスターというわけか」
「噂だと彼女はクー・シーと人間種族とのハーフらしい」
他種族同士の交配は難しいとされているが、希に子供をなすことがある。
どの種族とも属さない彼らをモンスターと呼んだ。
混血児たる彼らは忌み嫌われ、迫害されることもある。
モンスターだからという理由で町や都市、国にも入れないことがあった。
「まさか学園都市クロスに入ることを禁止されているのか?」
「いや、彼女はあれでもクロス学園中等部の生徒だ。普段は学園に通っているらしい」
「住んでいる場所は?」
「あそこにテントが見えるだろう?」
「テントで寝起きだと?
学園に通っているなら寮があるだろう?」
「彼女だけならまだしもスライムたちがな」
「どうしてスライムが」
転生者や転移者の中には他者のステータスを見ることができる者もいる。
クロエもその一人だ。
クロエが少女の頭上を注視するとステータスが浮かび上がった。
>名前:エル・ブリンク
種族:クー・シーと人間種族とのハーフ、転生者
職業:クロス学園中等部魔術科三年Eクラス
クラス:スライムマスター
固有スキル:魔術吸収
「スライムマスター?」
はじめて聞くジョブクラスだ。
魔物の中で最弱なスライムを極めようとする者は非常にレアかもしれない。
「彼女はどういうわけかスライムになつかれやすい体質らしくてな。野生のスライムも簡単に手なずける。スライムの群れと一緒に寮に住めるか?
学園都市クロス中がパニックになる」
「使い魔契約すればいいじゃないか」
「彼女は魔力値は最低ランクのFだ。あれだけの数と契約できると思うか?」
「なるほど」
一般人でも魔力値はEだ。
彼女はそれを下回っている。
一匹使い魔契約しただけで魔力切れを起こすだろう。
「だから学園都市クロス側の許可をとって彼女はそこで暮らしている。彼女はいわゆるマスコット的でな、長旅をしてきた者にとっては心の癒しだ」
商人の若者はいい笑顔だ。
「小さな子供がこんな場所で暮らすのは心配だから定期的に見回りがやってくる。魔物が出ない、とは言い切れないからな」
「飲食はどうしているんだ?」
「確か学園の食堂の人にもらっていると聞いたが?」
「このままでいいのか?彼女の親は?」
「殺されたらしいぞ。何とかという魔物に。しかも彼女の目の前で。そこを学園の教師が助けたらしい」
「アンタ、詳しいな」
クロエは商人の若者を見つめた。
一介の商人がそこまで詳しいのはおかしすぎる。
クロエが出会った当初から細目の彼は温厚な表情のままだ。
「警戒させたか?俺はもとクロス学園高等部の教師だからな、ちょっとそういったものが耳に届くんだ」
「そういうものか?」
「キミは学園の生徒か?」
「明日からな」
「何か嫌そうだな」
「脅されて生徒にされた」
「脅されたなら悪質だな」
「まあ、あの人に全力で逆らうよりかはいくらか」
「分かってくれるか」
「同じような経験をしているからな」
商人の若者はクロエの肩を叩き、
「これも何かの縁だ。何かあったら相談にのる。俺の名前はグレン・ロルク。しがない商人だ」
「分かった。その時は頼む」
頷いたクロエは商人の若者━━グレン・ロルクの手を握った。