クロエ、強制される3
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オルバ・オリバー・・・・クロエが無理やり転移させられた家の祖父である。
現在は六十歳くらいだろうが、その実力は全盛期にくらべてもあまり衰えていない。
リッカはある呪いで永遠の若さを得ているがとある呪いのせいで半永久不死の肉体を持っていた。
リッカがギルドマスターをつとめているギルド【三大賢者】のメンバー、数年前はナンバーズ第四位の称号持ちだったが現在はその地位を【後継者】たる少女に譲っている。
オルバは大災害級の災いから世界を救い、英雄と言われている。
リッカもだが。
前線を退いた現在でも彼に憧れを抱く者は多い。
オルバの息子はクロエを見捨てるほどに最低だがオルバの息子以外の家族は優しかった。
子供の時、クロエはおじいちゃん子だったが今思えばいたい子だとクロエは思っている。
あれだけオルバになついていた。
今では親しみより苦手意識が強い。
リッカとつながりがあることを知ったのは当分あとのことだ。
クロエが思い出したくない恥ずかしい過去を意地悪大好きなオルバがばらしてないことはない。
先ほどから話題に出ている学園長、それがオルバ・オリバーその人である。
☆
「あれはクロエに会いたがっていた」
「それは知らないよ」
「そう言わないの。私とクロエを引き合わせたのはあれみたいなものだから」
「それは初耳だ。何があった?」
「秘密」
リッカはウインクをした。
「前々から思ってたんだけどさ、リッカさんとジイサンは付き合っていたわけ?」
リッカの年齢は怪しい。
オルバと同い年くらいか、あるいは上━━
「クロエはよほど死にたいと見える」
リッカから放たれた熱風が部屋にあったものを吹き飛ばした。
その衝撃はクロエに直撃したにもかかわらず彼は無傷である。
リッカは舌を鳴らした。
「私とあれが付き合うことはない。相性の問題ではなく、お互いにそういう対象に見えないからね。私は永遠の乙女、いまだ生娘なのよ」
「その情報、知りたくなかった」
「ふふ、クロエ。アナタが奪う?私の大事な処じ━━」
「聞きたくない!」
クロエは枕をリッカにぶつけた。
「話は脱線しまくったが絶対にいってもらう。確かクロエは頻繁に都市フィーにいっていたよね?」
「それが何だ?」
嫌な予感しかしない。
「あそこにある甘味処・・・・名前はなんて言ったっけ。確か【ふんわり亭】。明日にはなくなっているかもね」
「なっ━━てめえは!?」
クロエは顔色を変えた。
都市フィーにある甘味処【ふんわり亭】、クロエはそこの甘いももが大好きだった。
そこのかんばん娘の笑顔を眺めつつ食べるぼた餅が絶品である。
それが明日にもなくなる可能性を想像したクロエは絶望した。
「まさか何かするんじゃないだろうな?」
「しないわよ。アナタの返答次第によっては、ね」
「姑息な」
クロエは奥歯を鳴らしながらリッカを睨んだ。
「そんな勝手が許されると思っているのか?リッカさんもあそこのファンだろう?」
「だからしたくないのよ。私としては【ふんわり亭】は世界の宝だと思うのよね」
「ならすんな」
「アナタがYESかはいかOKか答えたら考え直してあげる」
「全部肯定じゃないか。俺に拒否させない気だな?」
「当たり前。私の命令は絶対━━ということはその身で知っているわよね?
私が本気になればアナタの力なんておさえこめるのよ?」
「ぐっ・・・・人でなしだな」
「どうする? ん? 返事は?」
「ちっ、分かった。おとなしく言うことを聞くから【ふんわり亭】に手を出すなよ、師匠?」
「了解。それから私のこと呼び捨てかお母様のどちらかにして」
「誰がお母様と呼ぶか。バカリッカで十分だ」
「あ”ん?殺すぞ?クソガキ」
「地が出ているぞ、バカリッカ」
「━━ぷっつーん!」
不毛な言い争いをする二人のせいで一部屋━━つまりクロエが寝泊まりしていた部屋が崩壊した。
☆
「学園で生活するにあたっていくつか簡単な決め事をするね。これは絶対厳守だから。破るのは許さない」
翌日。
旅支度をおえて屋敷から出たクロエにリッカは言った。
「何だ?」
「まず一つ、マスターカードの使用は禁止。使ったらアナタの正体バレるからね」
「分かっている」
「二つ目、冒険者ギルドに入ること」
「メンドイ」
「学生はみんな入っているの。冒険者ギルドの任務をこなしたかとによってクラスのランクもアップするから。たとえばCクラスからBクラスになったり」
「渋々了解」
「三つ目。空間跳躍や空間転移の使用もNG」
「は?何で?」
「どの世界に学生で反則的な魔法使うヤツがいるのよ。マスターランク持ちでもほんのわずか、あれはそれほど難しいの」
「じゃあ住んでいる場所から外に旅する時はどうすんだ?」
「歩きか馬車。遠出なら飛空挺とか。もちろん飛行魔法も厳禁」
「飛行魔法もか」
「学生の中には使えるのもいるらしいけど、アナタの知り合いがいるでしょう?」
「それこそ面倒になるな。俺は劣等生だったわけだし。交通手段も了解」
「それで住む場所は学園寮が持ち家なんだけど、クロエの場合は寮は却下」
「その理由は?」
「本来の仕事をするとき、誤魔化すのは難しいでしょう?
寮は門限になると結界が張られて自由に出入りできないし、定期的に教師が見回りをする。クロエのことだから窮屈すぎると思うの」
「確かにな」
「だから屋敷を一軒買ったからそこに住めばいいよ」
「用意がいいな」
「まあ、クロエのお母様だからね」
「それも了解した」
「あとは」
「まだあるのか?」
「色々あるけど、最後に一つだけ」
リッカはニッコリと微笑んだ。
「学生生活、楽しんでね!」