ユハナ・クラウン
☆
「今日こそ殺った?」
扉が破壊された場所で拳を握っているのは見た目八歳くらいの少女である。
短めに切られた赤髪とブルーの瞳。
フードのついた服装に顔の右半分と体の右側は鋼鉄のような半身。
扉を目茶苦茶にしたのは彼女なのは明白だ。
ガッツポーズをする少女をクロエは冷めたように、ソニアは半眼で眺める。
一歩立つ位置が違えばクロエの頭に爆砕はヒットしていたはずだ。
しかしクロエは自分の危険だったことを他人事みたいに受け入れ、
「あれ、何だ?」
とソニアに答えを求めた。
「あれはユハナ・クラウン。問題児だ」
ソニアはそのひと言ですませた。
ユハナ・クラウンという少女に殺意はなかったが一歩間違えれば大事になっていたはずだ。
この騒ぎで誰も姿を現さないところを見るとこれは日常茶飯なのかもしれない。
「これは確かな手答え。ようやくボクはソニア教師に勝った?」
「あー、ユハナ。喜んでいるところ悪いが、ハズレだ」
「えっ!?」
驚いたらしいユハナは顔をあげてクロエと目線が合った。
その瞬間、ユハナはハタフタし出してフードを目深にかぶり、教室に引っ込んだ。
「恥ずかしがり屋か?」
「あれは多少、人が苦手なんだ。付き合ってみれば理由は分かると思う」
「あれは機械小人だよな?」
「あぁ。あのな」
ソニアは面倒くさそうに頷いた。
>ユハナ・クラウン
年齢:十六歳
種族:機械小人
職業:クロス学園高等部魔術科
クラス:拳魔師
スキル:一撃必殺
「何でこんなところにいる?滅多なことがないかぎり地下から地上には出てこないだろう?」
「珍しい一族のことを普通に知っているとは、これも師匠に聞いたことか?」
「まあな」
クロエは適当に答えておく。
機械小人・・・・かつては小人族と呼ばれていた彼らはあまりにちっぽけな魔力しかもってなかった。
他種族にとって彼らは本当にちっぽけな存在。
彼らは地中の地下迷宮にそれぞれ都市を築き、隠れるように暮らしていた。
ほとんど地上との接触を持たず、ひっそりと。
だから小人族という種族があることを知らない者もいたくらいにマイナーな種族。
しかしここ百年で彼らの存在はある程度知られるようになる。
ある小人族の長が禁忌を犯して力を得ようとしたからだ。
禁忌の中でも禁忌・・・・神をおろすこと。
結果、機人神という神だか何だかの降臨に成功。
ただしそれが本当に神ならば、である。
この世界にそんな神がいたという記録はないし、似た感じの名前を持つ悪魔は存在していたという伝承は一部の地方に残っている。
そのまがいモノの神に多種族に負けない強さを願ったとしても、小人族の長たちが望んだ力はもたらされることはなく・・・
呪い━━というより、贄。
機人神と邂逅した長の小人族たちの肉体が文字通り機械のそれへと変貌した。
新たなる生命も機械の体を持って誕生する。
肉体の一部を機人神なるモノに捧げ(本人は自覚なくても)、小柄ながら魔物の鋼ゴーレム以上の頑丈さ、一撃必殺の拳はちょっとした魔術並の威力。
多少、見た目は独特だったりするが多種族に対抗する力を得られたのだからその小人族の長にとって願いがかなったようなものだ。
少なくとも他の小人族より強者に位置しているし、機人神から名をとって機械小人などと種を改名したあたりその長はノリノリだったに違いない。
機人神はというとそのあとは姿を消し、その存在は現在まで確認されてない。
いまだ機械の肉体を持って子供は生まれてくるからその贄属は継続しているのだろう。
小人族改め機械小人の長は機人神を呼び出したことをすぐに後悔することになる。
機械小人は短命で、命がつきるとその身は機械そのものになって停止してしまうからだ。
機人神は恩恵を授ける存在ではない。
それを機械小人は身を持って知ったし、忌まわしい種族として彼は世界に知られるようになった。
世界の目とあきらかに他種族との姿の違いに機械小人は他の小人族よりあまり人前に姿を見せることがなくなった。
☆
「教師に対していきなり攻撃してきたということはアンタ、何かしたのか?」
「いや、ただ私に勝てばこの学園を退学にしてやると言っただけだ」
ソニアはさらりと答えた。
「あれはこの学園に通うことをしぶっていた。まるっきりただをこねるようなガキみたいにな。だから私がひっぱりだした」
「その権利、アンタにあるのか?」
「あぁ。一応、私はあれの育ての親みたいなもんだからな」
「事情は聞かないぞ」
「そこは聞いてフラグを立てるものじゃないか?」
「いや。興味ないし。必ず何か巻き込まれそうだ」
「つまらんヤツだ」
「本人が来たくなければそっとしてやれよ」
「そうもいかん。友人を持ったほうがあれのためだ」
「本音は?」
「私が仕事をしているのに引きこもっているのが許せん」
「・・・・・・」
クロエは冷めたように胸をはるソニアを見やる。
「最低な育ての親だな。うちも同じようだが」
仕事を妥協しないあたりまだましだ。
「毎日のように向かってくる。かわいいものだ」
「負ける気はないのか?」
「当たり前だろう。私はあれを手放したくないからな」
ソニアの言葉の途中で教室の壁が粉砕した。
フードを目深にかぶった小さな影が姿を現す!
「覚悟!」
「甘い」
ソニアにクロエの腕を引き寄せ、押し出す。
フードをかぶった小さな影━━ユハナに。
「おい?」
「生徒が教師を守る。それが当たり前だろう?」
「それは逆だろうが」
呻いたあとでクロエは胸元の剣型ペンダント【ナナシ姫】を揺らす。
「一撃必殺━━んにゃ?」
握った拳を突き出し、力強く踏み込んでいたユハナは悲鳴をあげた。
ユハナの微力ながら強度をました魔力が拳から霧散。
それに気づいたユハナは目を丸くして一瞬、硬直し・・・・
「今回も私の勝ちだな」
いいところを取ったソニアは足元から伸びた【影】でユハナを拘束し、ニヤリと笑った。




