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セーラー少女は名作を求む

作者: 神無 光

朝になれば目を覚まし、食事や着替えなど支度を済ませて学校へ。


退屈な授業を終えて家路につけば、宿題や友人とのLINEなんかで日が暮れて

また食事してお風呂に入って明日への支度を済ませて就寝。朝になれば・・・繰り返し。


実に平和で億劫な日常。平和であることは贅沢だ。この時間はむしろとても尊いもの。

それはわかってる。でも、時々どうしても我慢が出来ないと思ってしまう。


「もし、私が学年トップの頭脳だったらこうだったかもしれない」

「○○ちゃんのようにお金持ちの家だったら」

「■■君みたいにスポーツ特待生だったら」

「△△先輩のように男子生徒の注目の的だったら」

といったどうしようもない妄想が日に日に膨らんでいくほどに。



そんなある日、学校ではとある噂が大流行していた。


クラスメイトの一人に「何の話?」と聞くと、「これよこれ!」と

スマートフォンの画面を見せながら教えてくれた。


『深夜0時、誰もいない部屋で願い事を書いた新品の原稿用紙を広げ、強く念じながら

「導き下さい」と三回唱え、決められた動作を行うと願いが成就される』

というそれは所謂、都市伝説的なものだった。


普段だったら「そんなもの嘘っぱちだ」と突っぱねるが

私は不思議とその胡散臭い噂話に引かれた。

しかし、クラスメイトたちは面白がるだけで信じてはいない。

だから家に帰って自分のパソコンでこっそり調べた。


願いを叶える為には「導き下さい」と唱える際にやらなければいけないことがあった。


まず一回目は唱えながら右手で赤のボールペンを持ち原稿用紙の願い事の上に花丸を描く。

二回目は唱えながら左手の薬指に指輪をはめる。指輪は安物でも玩具でも何でもいいらしい。

そして三回目はその指輪を一回目で描いた花丸の真ん中に触れさせるそうだ。


「・・・馬鹿らしい」


口ではそういいながらも身体は正直なもので、私はその後すぐ文房具屋まで

自転車を走らせ、作文の原稿用紙と赤のボールペンを購入した。

本物の指輪なんて学生の私に買えるわけがないからお菓子のおまけで我慢して

翌日休みだからという理由から金曜日の夜に実行に移すことにしてみた。


文章を読んだ時も変だ変だとは思っていたけど、いざ実行してみるとやっぱり変な儀式。

気持ち悪ささえ覚えるほどだ。


でも、初めてしまったからには仕方がないと

私は見た目は大粒のダイヤがついたように見えるプラスチックの指輪を押し当てた。



すると・・・



「きゃあっ!!!」


真っ暗な部屋を覆い尽くすほどの光に包まる。

目が潰れてしまいそうな閃光に私は両手で目を覆って天を仰ぐ。


「何!?何なの!?助けて!!お父さん!お母さん!!!」


このまま何も見えなくなるんじゃないかというくらいの眩しさに恐怖を抱いた私は

とっくに眠っているであろう父と母に向かって声を張り上げた。




「・・・あらあらまぁまぁ」




しかし、返って来た声は


「可愛いらしいお嬢さんのお出ましだこと」


聞いたこともない、鈴の転がるような甘い声だった。


「・・・誰?」


恐る恐る両手を離し、まだ眩しさのダメージを感じながらもゆっくりと瞼を上げた。

そして目を開けると、そこには・・・


「今晩は♪」


白いスカーフが揺れるワンピースタイプの真っ黒なセーラー服を纏った少女が

私をにっこりと見つめていた。


「あ、貴方・・・誰?」


服もタイツも靴も真っ黒で制服というよりはまるで喪服。

胸のあたりまで垂れる長いおさげ髪はルビーのように真っ赤でどこから吹いているのか

わからない風にそよそよと揺れていた。そんな彼女は真っ黒な瞳を細めて


「ああ、私?・・・私は『私』よ」


と、私がいった「誰」の問いに笑いながら答えた。

答えになっているとは思えないけど。


「どういうこと?意味が・・・」


「ああ、私には名前がないの。だからこうしてここに来た人たちにその都度

 名前を考えてもらってるのよ!だから貴方の好きなように呼んで頂戴な」


困惑する私に彼女はそういった。薄暗い空間で私より高いところに座って

頬杖をつきながらクスクスと私を見下ろしながら。


「ここに来たってことは貴方は私に用があるのでしょう?

 だから、まずは私を呼んで頂戴。素敵な名前で呼んでくれれば

 貴方の用を・・・願いを叶えてあげるわ」


彼女はそういいながら右手を左右に振った。まるで羽虫か何かを払うように。

すると、空間の暗さが消えて、じわじわと私と彼女以外の周囲が見えてきた。


「なっ!?」


そして驚いた。私はずっと立っていると思っていたから。でも、実際は違っていた。


「嘘でしょ・・・!?」


私は宙に浮いていたのだ。そして彼女も。

高いところで座っているとばかり思っていたが

実際は座った体勢でふわふわと宙にいただけだった。


更に私たちの周囲には数え切れないほどの原稿用紙がふわふわと周囲をさ迷っていた。


「これは・・・」


「これはって、貴方も使ったでしょ?こ・れ!」


真横にある用紙の一枚を乱暴に掴んで私に見せる彼女。


貴方も使ったでしょってことは・・・


「わかった?ここにあるのは全部、貴方の同じ・・・

 ここに来る為に使った原稿用紙よ。

 ここは願い事の保管場所とでもいっておこうかしら」


わかったようなわからないような・・・

というか、自分でやったこととはいえいきなりこんな場所に来て

そんなことをいわれても頭が全くついていかない。


そんな私を知ってか知らずか、「そんなことより・・・」と笑いながら


「貴方が名づける私は、どんな私になるかしら?」


といった。その笑顔はまるでプレゼントを強請る子供そのもの。


「えっと・・・その・・・」


名前をつけなければ、そしてその名前を呼ばなければ願いは叶えられない。

いつまでもこんなヘンテコ空間に閉じ込められるのも嫌だからと私は名前を考えた。


「・・・夜」


「ん?」


「貴方のこと、私は『夜』と呼ぶことにするわ。

 私の名前が『朝子』だから反対に。髪の毛以外は真っ黒な格好だし」


ペットの名前すら考えたことがなかったので半ば強引にそれにした。

だっていきなりいわれていい名前なんて早々思いつかないもの!


すると彼女はニカッと今度は歯を見せて笑って


「合格よ♪」


といった。何?今の試験か何かだったの?とよりわけがわからなくなる私を他所に

彼女は、いいえ、『夜』は一枚の原稿用紙をまた手に取り


「それじゃ早速、貴方の願い・・・叶えましょうか!」


と笑って用紙を私に向けた。



『ワクワクドキドキの日々を味わいたい』



と、正しく私が書いたそれを。


「まさか・・・」


本当に、その願いを叶えてくれるというの?そんな話、本当にあるの?

あの儀式は成功したの?それとも、やっぱりこれは変な夢なの?


謎は深まるばかりだったけど、夜は私のリアクションを気にすることなく

「ああ、鍵はそれだから」と自分の左薬指を右手で軽く撫でた。

ハッとして目を向けると、私の指にはまだあの玩具の指輪が飾られている。


これが、鍵・・・?どういうこと?こんな偽物が何の役に立つというの?


「まあ、物は試しというのだから一回試してみては?ここにある大量の原稿用紙・・・

 その中から好きなものを選んでその指輪を押し当てるの。やってみて?」


やってみてといわれても・・・と思ったが、不安の隙間を縫って顔を出す

好奇心という厄介なものに背中を押され、私はつい、後ろにあった原稿を掴んだ。


そこには達筆な字で『大金持ちになりたい』と実にありがちな願いが書かれていた。

ハズレ引いたかなと思いながらも恐る恐る指輪をまた用紙に押し当てると・・・


グワッッッッ!!!!!


「えっ!ええ!?何!?」


すると何かに思いっきり引っ張られる感覚に陥った・・・かと思ったら



「おはようございますお嬢様」



「・・・え?」


中世ヨーロッパにあるような大きなお城のベッドに


「え・・・?は・・・!?」


シルクのネグリジェで寝転がっていた。



「何なのよおおおおお!!!!??」




―――――――――――――――――――――――――――――――――――





パニックになる私を他所に、芸能人並に顔の整った執事が紅茶を淹れてくれたり

お上品なメイドさんたちが服を着替えさせてくれたり

見たこともない高級料理やドレス、ジャグジーの大きなお風呂などなど

今まで夢のまた夢だと思っていた贅沢な暮らしを味わっていた。


「これって・・・まさか、本当に・・・?」


私が触れた原稿用紙には『大金持ちになりたい』という願いが書かれていた。

つまりそれは誰かの願い事。私はその願いに触れた・・・ということは・・・


「ここは・・・願いが叶った世界・・・なの?」


『ええ、その通りよ』


「!?」


突然、頭の中から声が響いた。びっくりして立ち上がるけど周囲には誰もいない。

学校の教室よりも広い部屋に私が一人で座っていただけだ。


「今のって・・・夜?夜なの!?」


さっき聞いたばかりの声だから忘れるはずがない。

そう思って私が叫ぶとまた頭の中で『そうよ』と返事が聞こえた。


「一体、どこから・・・」


『貴方がいる世界の外からよ』


「はぁ!?」


またわけのわからないことを・・・さっきから説明という説明がないわ!!


「夜、それじゃわからないわよ!ちゃんと教えて!!」


『構わないけど、それには一旦その世界から出ないといけなくなるわよ?』


「ええいいわ!・・・といいたいところだけど、一体どうやって出るのよ!?」


こっちは今、どうしてこんな状況になったかさえわからないのよ!?


『戻りたいと指輪に念じればいいだけよ。簡単でしょ?』


・・・確かに簡単だけど、本当にそんなんでいいの?


私はまた半信半疑ながらもいう通りにしてみた。

すると、また引っ張られる感覚を感じて


「おかえりなさーい」


気づいたら、ニコニコと原稿用紙を持って私を出迎える夜とばっちり目が合った。


「ねぇ、何がどういうことなの?ちゃんと説明して!」


「それはいいけど、かなり長くなるわよ?それでもいいの?」


うっ・・・それはちょっと嫌かも。

学校でだって、先生の長話とか眠くなっちゃうし・・・。

多分、内容を理解する前に欠伸が出てしまう気がする。


「じゃ、じゃあ、これから私がいくつか質問するからそれに答えて!いいでしょ!?」


「ええ、勿論よ」


躊躇いもなくさらっという夜に私は「それじゃあ・・・」と質問をぶつけた。


「まず一つ目!さっきのあれは何なの?気づいたらお嬢様とか呼ばれて

 あれよあれよとやってもらっちゃったんだけど!?」


「それはコレよ!」


夜は持っていた原稿用紙をまた見せてきた。・・・この光景さっきも見たわよ!!


「貴方が選んだコレは、『大金持ちになりたい』って願いが書いてあるでしょ?

 だからそれが叶った世界に連れて行ったの」


ということは、原稿用紙に書かれた・・・妄想幻想が形になった世界ってこと?


「そんな馬鹿な・・・!」


それこそ夢物語だわ!・・・でも、そう思っても・・・


「他に質問は?名付け親の為に何でも答えるわよ?」


私はさっきまで『ソコ』にいた。確かに、いいえ、絶対に・・・!


「じゃ、じゃあ二つ目の質問・・・この原稿用紙は一体何なの?

 願い事を書くだけの紙切れじゃないの?」


「ええ、おっしゃる通り、用紙自体は何処にでもあるただの紙切れよ」


当たり前の様に答えてるけど、何処にでもある紙切れに何でそんな変な力があるの!?


私がそんなことを思っているのがわかっているのか、夜はクスクスと笑いを零しながら


「問題はその紙切れに綴られた、書き手の思いなのよ」


「え?」


書き手の、思い?


「この一見、ふざけた落書きのような文字と花丸だけど、これを書いた人間たちは

 皆、少なからずその願いが実現して欲しいと思うから書くのでしょう?

 いわばこの願い事はその人の描いた理想のタイトルのようなものなのよ」


「物語の・・・タイトル」


そうか、だから私はお嬢様になれたんだ。実際にお金持ちになるという物語の中に

入り込んでしまったから・・・短い時間ながら、私は・・・


「物語の登場人物になっちゃっていたんだ・・・」


私の言葉に夜は「正解」と原稿用紙を手放し、用紙はまた風に乗って

無造作に飛ばされ右へ左へ上へ下へと踊らされ見えなくなっていく。


「そう、このタイトルしかない原稿用紙には

 目には見えない物語が何十、何百、何千と綴られているの。

 貴方はその指輪を鍵にしてその世界に入ることが許されたってわけね」


現実ではありえない、願望が生み出した世界へ出入り・・・そして登場人物になる。


そんなの・・・そんなのって・・・


「嘘でしょぉ・・・!!」


ワクワクドキドキどころの話じゃないわ・・・!!!



「み、三つ目!!あの、物語って何回でも出入り出来るの!?

 制限とかはないの!?長くいると変な効果が出るとかそういう・・・」


ああもう、興奮のあまり早口になっちゃう。

でもそんな私とは対照的に夜は落ち着いた様子で


「制限も副作用的なものもないわ。何時でも何処でも自由自在よ」

と教えてくれた。私の興奮を更に高めるには充分すぎる返答だわ。


「そう・・・そうなのね」


私はいても立ってもいられず、すぐさま次の物語を探した。

といってもここは原稿用紙だらけの空間。つまり、物語は無限にあるといっていい。

胸を躍らせ、呼吸を乱しながら私は原稿用紙に手を伸ばして指輪を押し付けた。


それからは「退屈」なんて言葉を忘れてしまうほどに怒涛の暮らしが待っていた。



『海賊になりたい』という原稿に触れれば、女海賊として七つの海を仲間たちと大冒険

『魔法使いになりたい』と書かれていれば、魔法学校の生徒になり魔物と戦い

『素敵な結婚をしたい』を選んでみれば、超絶イケメン男子との甘い新婚生活・・・


他にも『大学教授になりたい』で教授になり

何を研究していたかはよくわからないけど世紀の大発見だ!と表彰されて

メディアに引っ張りだこになったり


『ヒーローになりたい』では小さい頃からの憧れだった変身ヒロインになって

悪者をばったばったとやっつけて、しかもレッドに告白までされちゃった。


その願いに入る度に職業も、生活も、持てるはずのない特殊能力も

何もかも凡てが思いのままだった。


そしてその度に、あの用紙には何が書いてあるのか

あそこにはどんな物語があるのかと貪欲に願いを漁るようになっていた。

何度も何度も、飢えた獣のように繰り返し続けた。


「あー!面白かったぁー!さてと・・・次は何処に行こうかなー!」


「毎日毎日飽きないこと。でもいいの?現実世界ほったらかしじゃなくて?」


「っ・・・!」



現実世界・・・それは今、私が最も聞きたくない単語だった。



だってそうでしょ。冗談じゃないわよ・・・誰があんな・・・


「私にまた・・・退屈な時間に戻れというの?」



こんなに楽しいのに。



「まだまだ足りないの!私の願いはまだ成就されていないわ!!

 こんな状態で現実なんて戻れない・・・戻りたくない!!」



夢と希望に溢れているのに。それなのにわざわざ・・・



「あんな駄作に入り直せとでもいうの!?」



折角手に入れた興奮と感動を取り上げてまで!!



「あらあらー、現実が駄作って随分なことをいってしまうのね・・・」


「五月蝿い!!いいでしょ!?私の勝手よ!ほっといて!!」


私の叫びに夜は少しも動じることなく

「まあ、貴方がいいのならいいけど」といって

それ以上何かいってくることはなかった。

私も私でその隙に・・・と次の物語を選ぶ。


「えっと・・・あ、あれでいいわ!」


少し黄色く色褪せてページの端が切れている用紙を見つけ、私はそれを拾った。


「さて・・・行こうかな」


さっきので少し気まずくなった空気から逃げるように私はそそくさとまた夢へ逃げた。

思えば、夜は何もいってなかったのに私は少し慌て過ぎたかもしれない。


「あらら、いいのかしら。タイトル確認しないで入っちゃうなんて・・・」



夜のこの独り言があと少し早く耳に入っていればよかったのに。



まさか、一番古くてボロっちいそれに書かれた願い事が



「な、何これ!?ちょっと・・・嫌・・・やめて!いやああああああああ!!!」




『誰にも知られることなく、この世から静かにいなくなりたい・・・』




だったなんて予想が出来るほど、私は賢い子ではなかったもの・・・。



「手が・・・!足が・・・!顔が・・・私の顔が!!身体が・・・!!

 いや!!こんなの嫌よ!こんなところで・・・嫌!助けて!!

 お父さん!お母さん!!助けて!やだあああああああああ!!」




――――――――――――――――――――――――――――――――




怖いほどに物音一つない静寂の中


『夜・・・』


「なぁに?」


今度は夜の頭の中に声が響いた。



でもそこには・・・



『四つ目の質問なんだけど・・・』


「ええ」



誰もいない・・・。




『あの後・・・私は・・・どうなったの?よく覚えてなくて・・・』


「どうなったも何も、読んで字の如くよ?だって、そういう世界だったんだもの」


『・・・』


「もうすぐ会話も出来なくなるわね。

 貴方の物語は、ついさっき完結してしまったから・・・」


『・・・じゃあ、そうなる前に・・・最後の質問、いい?』


「ええ、何なりと」


声が段々薄れていく。それを知ってか知らずか

今までと何一つ変わらない様子で彼女は口を動かす。

そこにどんな感情が潜んでいるのか残念ながら察するのは難しい。


『結局、貴方は誰だったの?・・・いえ、貴方は・・・何だったの?』


私の問いに、夜は「今になってそれなの?」と呆れ笑いを浮かべていた。


「最初にいったでしょう?私は『私』よ。私の名前は書き手によって変わるの。

 そして今回の書き手、つまり貴方は『夜』と呼んだからその間だけ私は『夜』だった」


『・・・・・・・・・』


「私はこの無数の物語を管理する者・・・というのが大前提ではあるけれど

 私という存在を形成するのはここを訪れた書き手たちだから、毎回同じとは限らないの」


『・・・つまり、貴方もまた・・・この世界の登場人物の一人なのね』


「まあ、そうかもね。書き手の数だけ物語があるように、書き手の数だけ『私』がいるし・・・

 見た目も名前もキャラ設定も、みーんな微妙な違いがあるの・・・」


今、貴方の目の前にいる私は、無意識にそう設定していたからなのよ。と彼女は笑った。


『・・・要するに私は、自分の願いを叶える為に・・・貴方を夜と呼んで

『自分に都合のいい貴方』に書き換えてしまっていた・・・ということなのね・・・』


悲しげなその声は、最後に一言だけ『ごめんなさい・・・』とだけ遺して

じわじわと彼女の頭の中から消えていった。


「よかったわね、朝子・・・これでもう、退屈に怯えなくて済むわね・・・」


膝に乗せられていた原稿の束が

紙吹雪の様に巻き上げられ、空間の彼方へと消えていき

おさげ髪とセーラー服を靡かせながら、彼女はずっとその様子を見送っていた。


その表情は嬉しそうでも悲しそうでもない、何もない微笑みだった。


「あーあ、今回もこういうオチなのね・・・実にありがちで味気ないわ・・・」


彼女が、私が『夜』と勝手に呼んでいた彼女が


「物語に憧れている割りに盛り上がりも山場もない淡々とした描写・・・

 もう何百回、いえ何千回こんな展開を見続けたかしら・・・もう飽き飽き!」


そういって呆れていたことを


「次の書き手はもう少し斬新なオチを用意していてくれるといいんだけど・・・」


私が知る術は、もう何処にもありはしなかった・・・。



別サイトで掲載していた短編です。折角なのでこちらにも掲載。


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