手綱は誰だ
都心部から少し離れ軽い山を一つ越えた先に広大な土地が広がる
その広範囲を占める建築物は約束された将来を見据え希望を抱くもの、また己を高める為の努力をするもの
様々な若き才能が集う場所
『光明私立学園』
そんな、学園に彼らは存在する
一人は圧倒的なカリスマ性を持ち学園のトップに立つ唯我独尊を座右の銘に掲げる青年
また一人は、そんな彼と対極に位置する地位に立ち質実剛健を座右の銘に掲げる青年
そんな色は違えど王様二人の側に、もう一人
奇抜な髪色を揺らし、王様二人の周りで走り回る青年
王様二人にとって彼は幼い頃を一緒に過ごした仲であり大切な友人である
そのため、ちゃらんぽらんで能天気
楽しいこと大好きだけど頭は少し残念な青年の「馬鹿」を尻拭いし後片づけをする
王様二人は学園の王様だけれど
お馬鹿な彼にとっては大切な友人であり彼のストッパー役でもある
そう周りは認識していた
この日が来るまでは。
彼らは目を見張る
自分達の知っている「彼ら」はこんなにも恐ろしい存在だっただろうか
否、「彼ら」はどんなに傲慢であっても気品を漂わせ自ら頭を下げ従いたくなる存在であった
畏れ憧れ嫉妬し敬愛していた
たが、自分達の目の前にいる「彼ら」に抱くのは圧倒的な恐怖
この学園で愚かにも自分は王様だと名を挙げた青年がいた
「彼ら」と肩を並べようとしたものがいた
傲慢さをひけらかすように声高に叫び
矛盾だらけの愛を囁き
そして青年は気づいた
何故、「彼ら」は自身を認めないのだろうか
それは「彼ら」の側にいる王様の側にいるには不釣り合いな存在が原因だと気づく
そして青年は「彼」を排除した
徹底的に、自身は何もかも「彼」に勝っていたし「彼ら」も「彼」の馬鹿な行動のおかげで気分を害する事もなくなる
「彼ら」、王様二人の側に居るべきは己自身だと青年は疑わずにいた
そして周りも青年に賛同した
そうだ、「彼」は王様二人に迷惑ばかりかけていた
優しい我らが王様二人は幼い頃を一緒に過ごした友人だからと「彼」の我が儘を許していたに過ぎない
ならば「彼」を排除すれば
王様達は平穏な日々を送れるのではないか
そして青年と、その周りは「彼」を排除する
「彼」を完全に排除することは敵わなかったが王様二人の側からは排除できた
青年は、周りは喜んだ
王様二人は喜んでくれるだろう
こうして悪夢は訪れる
ガツンと重い音が響く
ここは学園の人々が心を安らげ栄喜を養う、普段なら「彼」がお馬鹿をやらかし王様二人が後片づけをして、そして笑いあう食堂
そんな、彼らを見て周りは笑い
共に歩く友人達と話題に花を咲かせ美味しい料理に舌鼓をうつ
けっして悲鳴や赤黒い血液が存在する場所ではなかった
そう、無かったはずだった
ただ己自身の体重を支える為だけに、もはや椅子の機能を果たせない有り様の欠片に青年は息も絶え絶えにすがりつく
迫りくる恐怖と絶望
彼らの息づかいにすら戦慄を覚える
あの温かい雰囲気は一欠片もない
ただ、あるのは自身を見下ろす残酷なまでに感情の無い対の瞳だけが視界に写る
振り落とされる鋭い蹴りは誰が放ったものだろうか、躊躇なく人体の急所に激痛と衝撃が与えられた
生臭い臭いに訪れる激痛に何度も嘔吐した
悲鳴すら、もう出ない
苦痛すら感じなくなってきた
繰り広げられる容赦のない圧倒的な暴力と恐怖
それを与えているのは
あれだけ切望し一緒に歩む事を望んだ王様二人
自身は、どこで間違えたのだろうか
このままでは死んでしまう
そう本能で感じてしまったのか急激に冴えてくる思考と蘇る激痛と恐怖に
青年は汚物にまみれながら叫ぶ
助けを叫ぶ
死にたく無いと叫ぶ
だが、青年に手を差し出すものはいない
差し出した瞬間に次の生け贄は自分自身だと本能で感じ取っていたから
そんな周りを見回し一人の王様は囁く
残酷で冷酷な言葉を
もう一人王様は、そんな彼を感情の無い表情で眺めている
青年は彼に助けを求めた
無慈悲なまでに殺しに来る一人の王様より、彼のストッパーとなりうる質実剛健を座右の銘とした王様へ
だが、間違いだったと遅まきながら気づく
差し出した手は無造作に踏み潰された
人体が軋み割れる音が響く
これ以上の激痛に青年は泣き叫ぶ
すでに青年は彼ら、王様の手によって無惨にも狂わされ堕ちていく
反応の無くなった青年に唯我独尊の座右の銘を持つ王様は、まるでゴミを捨てるかのように青年から次の贄へと視線をさ迷わせる
ビクリと体を震わせる彼ら
逃げなければいけないのは解っているはずが何故か体が動かない
伸ばされる優雅で美しい指に戦慄が走る
無意識の内に助けを求めるのは
排除したはずの、あの能天気な「彼」
だが、彼はいない
なぜなら自分達が王様二人の側に相応しくないと排除したからだ
そう自覚した瞬間、彼らは悟る
王様二人が「彼」のストッパーではない
「彼」が王様二人の手綱を握るストッパーだったのだ