これからよろしく安藤くん
「…委員長。今日はあるの?」
「ふふふ、安藤くんの頑張り次第ですかね?さっ早くやりましょう!」
「…わかった。」
放課後の空き教室、白に近い金髪の男子と黒髪の女子生徒が机を繋げて教科書とプリントを広げている。安藤くんと呼ばれた金髪の彼は、サラサラとプリントに答えとなる公式を書いていく。
委員長こと私、佐々木遥香は自分で言うの何だが野暮ったくはないが華があるような女子ではない。特徴と言えばクラスで委員長をやっていることと笑窪ぐらいの女子だ。
だが並んで座っている金髪の彼は違う。サボりや喧嘩ですぐ先生に呼び出される問題児?不良?の安藤奏多くんだ。整った顔と高い身長、細身の体格でかなり遊んでいるとの噂もある。私から見てもイケメンだ、無口なのも更にいい。
ここまでなら、"どうせ委員長が先生に面倒事を頼まれ、断れずに安藤の面倒を見ている"と言う感じだろう。
だが予想外に安藤が真面目に勉強している。面倒だと言ってすぐにサボる安藤がだ、先生たちもこの状況には驚いている…担任の柾木先生は何故かニヤニヤしているが。
「安藤くん1回勉強したら忘れないんだねいいな。はいっ、本日の復習テストは……100点です!!おめでとうございます、頑張った安藤くんにご褒美です」
「…どうも。」
遥香は安藤に今日の100点プリントと共に、ラッピングされた甘い香りのする袋を笑顔で渡した。その瞬間さっきまで引き締まり、真面目にプリントを解いていた安藤の顔がへにゃっと嬉しそうな顔に変わった…言わせて頂こう、へにゃっとした顔もイケメンだよ安藤くん。
「…今日は何?この前はマフィンだったけど」
「本日は私オススメのガトーショコラです!少し多めに入れたのでアイスや生クリームを載せても美味しいですよ」
「…アイスと生クリームね。わかった」
安藤くん嬉しそうだ、今回も当たりっぽい。やっぱり多めに持って来てよかった。
そう安藤くんのやる気はこのご褒美のお菓子の為だ。甘党だがそれが周りに知られるのを気にしてスイーツが食べられない。そんな安藤くんを釣るっ…ゴホッん、やる気にさせる為にお菓子を用意して勉強をしている。
そもそもは「安藤くんを真面目にし勉強させようの会」(遥香&柾木先生が命名)の初日に遥香が取り出したお菓子が発端だ。
ー3週間前ー
今後の勉強について相談室で話し合いをすることになった。柾木先生と私、机を挟んで安藤くんが座っている状態だ。
今のところ先生だけが話していて、安藤くんは先生の話を聞かず延々とスマホを弄っている。だが話し合いに参加してくれるだけありがたいのかもしれない。
「はあー、安藤いい加減授業ぐらいは真面目に出ろ。もともと頭はいいんだから少しぐらいは勉強しろ!!いいな?」
柾木先生そんなに怒らない方がいいですよ、高血圧がどうこう言ってたじゃないですか。コンビニ弁当ばっかりだから高血圧になるんですよ。
それにしても安藤くん話聞いてくれないし私帰ってもいいかな。
「安藤、今回は"約束通り"委員長に勉強を頼むことにしたからな。ま・じ・め・にやれよ!じゃあここからは2人で進めてくれ俺は会議があるからな、解散!」
「えっ、ちょっと先生」
ん、約束って何だろう?ってもう居ない!
まさかここで丸投げされるとは思わなかった…嘘だろ先生、計画じゃまだ説得段階ですよ!もう高血圧気にしてあげないからな!
「えっと…先ほど紹介されました同じクラスの佐々木です。約束?は何か知りませんが勉強を教えることになりました。
あと得意教科は英語と国語です、苦手は数学です。よろしくお願いします」
「……知ってる。委員長、俺…帰っていい?」
「いや帰らないで下さい!と言いたい所ですが帰ってもらっても良いですよ。先生も安藤くんを話し合いに参加させるのが第一目標だった見たいですし」
遥香の言葉が意外だったのか安藤は驚いた顔をした。この言葉は本当だ、先生たちは今日話し合いに安藤くんが来るかどうかすらわからないと話していたからだ。(だがこの時、柾木先生だけは絶対来るとドヤ顔していたのは余談だ)
だからこれ以上のことは遥香に求めていないだろう、きっと。
「そう。なら帰る」
「あっそうだ安藤くん、甘いもの好きなんですか?」
ピシッと音がするぐらいに安藤が固まった、それも銅像かと疑うぐらいにカチンコチンだ。あれ、甘いもの嫌いだったか?
「…なんで?」
「実は家がケーキ屋なんですよ私。それで安藤くん見かけたことあって甘いもの好きかなって。話し合いの休憩用と思ってマドレーヌとクッキー持ってきていたのですが…」
話し合いが長引くかと思ってお菓子を持ってきていたのだ(先生の所為で早く終わったが)。でも甘いもの嫌い…いやそんな筈はないと思う。だって安藤くんパティスリーハルカの前でよくウロウロしているし窓から中も覗いていた。…入って来るのを見たことはないが。
「……見られてたんだ」
「ええ、たまにですけどね」
見られてたんだってことはもしや隠れスイーツ男子か…安藤くん知らなかったんだ、この学校じゃ私がケーキ屋の娘って結構知られてるのに。学校から近いし、店名と名前が同じだから仕方ないんだけどね。
「そ……らう」
「えっ?」
「それ貰う、あと誰にも言うなよ!」
やっぱりか!
安藤は珍しく大声で喋っている。それが珍しく遥香がその顔をじっと見ていると耳を少し赤くした。
面白くなって観察していたら痺れを切らしたのか、遥香の手にあったお菓子を奪うように急ぎ足で帰っていった。
「あっ、マドレーヌは新商品だから感想頂戴って言うの忘れちゃったな…まあいっか。」
今度聞けばいいかと考え遥香も帰り支度を始めた、安藤が隠れスイーツ男子だと結論付けて。
これが3週間前。
そしてそれから安藤くんは意外にも真面目に勉強してくれている。だが交換条件付きだ。
1、勉強をやる条件としてパティスリーハルカのお菓子を渡すこと
2、お菓子が新商品や試作品のときは感想を言うこと
と言う条件で勉強をすることになった。
この前のマドレーヌが新商品で感想を欲しいと頼んだらこの条件を提示されたのだ。確かにこれなら私にも安藤くんにも利がある。
安藤くんは周りに知られることなくお菓子を手に入れられ、私は新商品の感想を手に入れられる。正しくWIN-WINの関係だ、安藤くんが甘党で良かった!
だが初めて3週間目だが安藤くんの勉強を見る意味があるかわからなくなってきた。
先生が「真面目にやればできる」と言った言葉が理解できた。安藤くんは頭が良い、それも1度覚えたら出来てしまう天才型だ…