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開闢のミーディアム ~人ならざる者が見える辰美の視点~  作者: 犬冠 雲映子
悪い魔法使いと越久夜町編《人ならざる者が見える辰美の視点》
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悪い魔法使いと越久夜町 3

 ライフル銃を下げると、リネンは手を差し伸べてくる。あんな騒音を立てたというのに町は静まり返っていた。


「あ、ありがとうございます。」

「いいよ。人ならざる者に加担する悪い魔法使いに魂をくれてやるな。」

 立ち上がり、息をふうと吐く。いきなり起こりだした目まぐるしい展開に疲れ果ててしまった。


「また送っていこうか?夜道は危険だから家まで護衛しとくよ?」

(護衛?!)

「大丈夫です。自転車を持って帰らないと…」

「なら、自転車までついていこう。」

 人当たりの良さそうな笑顔で彼女は言う。断るにも労力が要りそうだ。

「じゃあ…」

「うんうん。聡明な判断だ。」


 二人は雨の降る嫌に静かな路地を歩く。傘も雨合羽(あまがっぱ)も着ていないリネンを気遣ったが、彼女は慣れているからと受け流された。

 雨の降る日も山に入り、()()をするという。その狩りは獣に対してなのかそれとも先程のような有象無象に対してなのかは、さすがに聞けなかった。


「今回はまた、いや、何度も会えるだろうね。」

 自転車にたどり着き彼女はポツリと零す。

「…そうですか。」

「そう嫌な顔しないでよ。私は会えて嬉しかったのに。」

「は、はあ」

「じゃあ、気をつけてね。」

 その口ぶりは軽く明るい。あのゾンビの襲撃など嘘のようだった。



 ―――


 辰美(たつみ)は自宅に帰り、腹が減っているのに気づいた。大学から越久夜町(おくやまち)に来る間に飴はなめたがそれ以外は食していない。

 疲労困憊ではあるが腹は満たしておきたかった。


「あ…。米がない。」


 台所の棚にあるプラスチックの米びつが空になっているのを、今認識してしまった。あまりの衝撃に停止してしまう。

「コンビニに買いに行くか〜〜~?いや、うーん。」

 あの出来事を経験した後に夜道を歩く度胸はない。コンビニまでは少し遠いし、なにより疲れが溜まっていた。

「パンでいっか」食パンが微量にあったはずだ。

 冷蔵庫から安物のジャムを取り出し、籠に入れていた食パンを持った。

「久しぶり。」イヅナがヌッとどこからともなく現れ、パンをねだってくる。辰美が大学に行く日は必ず"お留守番"をするのが日課らしく、律儀に部屋で待っているのだ。


 食パンをちぎり、テーブルに置くとチビチビと食べ始める。ペットを飼っているみたいだ、と不思議に思う。--ペット禁止のアパートだけれども。

「今日は疲れたよ〜。」

 イヅナにそれだけ言うと、辰美も夕食を食べるのだった。





 次の日、辰美は明るい内にコンビニでコメを買う事にした。コンビニに売られている二合程の米である。

 自転車に乗り込み、朝方の町を走る。今日はどんよりとした曇り空。雨は幸いに止んでおり、今くらいしか買い物に適した時間はない。


 ぼんやりと自転車を漕いでいると、道路に一匹の狸が飛び出してきた。

 都心では見られなかった生物に、再び辰美は息を飲む。狸は路上で立ちすくみ、慌ててブレーキを踏んだ。

「………?!」


 かの生物は、艶やかな深い茶色の毛並みをしていた。世にも珍しい、毛色ではあるがボサボサで弱っているように見えた稲荷の神使とはまた異なる。

 さもごく普通の狸ではあるが赤い前かけをしており、大きさも一回り大きく見えた。

 本来ならば琥珀色の眼であろうが、黄緑色に輝いている。

 この狸も人ならざる者だ、辰美は動けずにいた。


 狸はジッとこちらを見据えている。


「二度もひきとめてすまないね。辰美さん。」すると初老の男性の声音で喋りだした。

「…自らは神獣狸の眷属(けんぞく)-広義では使わしめだ。我々は人ならざる者の部類。人に会わないよう、極力避けてきたが…辰美さんとあえて良かった。探していたからね。」


(ま、また……っ!?)

執拗に雨合羽にルビをふっていますが、私が読めないだけです。

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