異形の狭間 4
人を腑抜けにさせ―悪い魔法使いは無差別に魂を奪う。
---そうね…悪い魔法使いは遺棄された神域を手中に収め、領地を広げようとしている。神の真似事をしたいのかしらね。
--悪い魔法使いは町が嫌いで破壊したいのだと私は思っていたわ。
わずかに残った神域、そして神使がはった結界。そいつは二つを破壊した。その行動からは町への敵意を感じる。
(この人は)
「町が滅ぶのを悟りながら、放置しているのも神々だ。食い止め改めるには自らが人外にならなければルールは握れない。山の女神にも近づけない。…それにあの少女に近づける………ともかく-再生には破壊が付きまとう。そうだろう?」
(越久夜町の事を考えて、行動している?)
「で、でも自分の考えだけじゃ世の中は思いどおりにならないじゃない。」
(私は--)
「それはお前も同じだろうに。自分のエゴのために犠牲を厭わない、この町に迷い込んだという事はその気がお前にあるからだ。」
--私は、今の緑さんや見水は好き。
見水と緑の顏が脳裏をよぎる。新しい記憶、新しい会話。情景。
でも今の世界は本物じゃない。
見水と初めて会った瞬間やそれから仲良くなった時間もこの世界とは、微妙に違う。
二人分の命。いや、この時空の命を。
-私は、前の時空に戻りたい。
(今の世界の見水と緑さんをなかった事にしようとした。)
「…ちが…」
「自分を偽って何になる?それがお前の本来の姿だろう?オレのように」
辰美は手を握りしめ否定しようとした。だが、出来ずにいた。
「共に女神を出現させ、ルールを変えさせるのだ。お前には山の女神に触れられる"役割"がある。」
「いや!」
悪い魔法使いの饒舌さが止まる。
「そうか」
触手が鋭利に辰美へ迫ってきた。死と恐怖により、頭が真っ白になり感情が爆発する。必死に爪で切り裂き、逃げずにバケモノへ飛びかかる。
「ギッ!」
「--あ」
気がつけば三本の指で首から肩へ傷をつけていた。だらだらと赤い血が流れ滴る。
「けだもの」
母の赤い唇が軽蔑を含み、口走る。血がしたたりフローリングを汚した。
「人殺しだわ、」
辰美は手を見て血に染まっているのを見やり、黙るしかなかった。
--人が嫌いだった。人が形作る世界も嫌いだった。
カッとなると他人を傷つけてしまう"悪い癖"があった。クリニックに連れていかれ治療も受けるはめになった。
存在を否定されているみたいだった。
「--」
悪い魔法使いが何かを言おうとしている。心臓が早鐘を打ち、鼓膜を揺らした。「黙れっ!」
「……これはオレの精神世界なのだから」
ニタリ、と奴はいやらしく笑って見せた。
「ルールはオレが握っている。このまま偽物の町に閉じ込めてやる、あの女のようにな!-永遠にさ迷え!」




