異形の狭間 3
「オレは町で悪い魔法使いと呼ばれている者だ。」
(…!)
「勝手にオレの世界に土足で入り込むたあ、どういう要件だ?」
「--アナタが」
「まさか町の魔法使いか?それとも奴らが半人の人ならざる者でも遣わしたか?」
喉を唸らせ、悪い魔法使いは警戒心を顕にした。
「ち、ちがうわっ。私はただ、迷い込んだだけで-」
「嘘を言うな!」
早い速度で触手が体に絡みつく。ざわざわと触手の束が辰美に迫ってきた。
「いや!」
爪で切り裂き、咄嗟に駆け出した。無駄に無敵な体が役に立つとは。
「面白い、お前の魂を食べるのはやめた。」
鼠に似た体躯を生かし、素早く這いずった悪い魔法使いが眼前に現れる。四つん這いになる鼠人間からの威圧感に、辰美は狼狽した。
「た、魂って、食べるモノじゃないと思う。」
「なんだ?時間稼ぎでもしたいのかあ?」
「ううん、だって食べられた人が可哀想だし。それに人のする事じゃないわ。」
すると悪い魔法使いは怒りをあらわにして、怒鳴り散らした。
「人間はクズ!お前だってそう思うだろう?半人のくせに、人間に味方するのか?!」
「え、えっだから」
「半人ならば魂を食べているはずだ。なぜ否定されなければならない。それにオレは人である必要はない。…捕食者である人ならざる者こそが地球の支配者だ。」
「な、何言ってんのよ。」
「人間は穢い。根性が穢い、他者を除き自らを正当化させ、地球にしか存在を見いだせない。-その癖生きたがる。自らもそうだ。人間の意地汚さが刻み込まれている。だがこの時!自分を活き活きとさせてくれる!」
魔法使いはさも嬉しげに宣言した。支離滅裂と言える言い分に、辰美は背筋を凍らせた。
常人の考えではなくなっている。狂っている。
「人間が魂なんて食べたら、人でなくなってしまうんじゃ…。」
「黙れ。ならばお前を食べてやる!」
「ま、待って!アナタは何のために越久夜町を破壊しているの?!」
食ってかかられそうになり、慌てて口を開いた。
「オレは人へ干渉する神の存在を確信した。」
触手をざわめかせながら、唸りを転がしながらも悪い魔法使いは言う。
「神?…全知全能の神?」
「さあ?神だけというよりは数多の、上位の存在だ。我々地球にいる生命を弄ぶ、タチの悪い遊び人だろうな。」
「それが人ならざる者なんでしょ。アナタのなりたい者じゃないの。」
「神は人に近い。他者を除き自らを正当化させ、聖なる存在だと自惚れ穢れているのだ。干渉を拒み、魔や人だけで"運命"を左右する楽園を作る。人も魔も同じ位置についていたはずの、言わば原始の頃のような楽園へ。」
「……。」
「原始を満たしていた虚ろこそが真実だ。いつだか誰かが森羅万象を決めたように、自分がルールを定めれば」
まるでそれこそが正しいのだと、魔法使いは自惚れた様相で語った。
「分からなかったか?」
「理解したくない。」
「…。神々とやらが作ったルールを一新する。それがオレのしたい事だ。このままでは越久夜町は滅ぶ。」




