虚ろを彷徨う者 5
車は隣町のファミリーレストランに向かう。トンネルを潜り、隣町に来ると山は開け住宅街が見えてくる。都市部よりは田舎だが、山間部にある越久夜町に比べたら都会だった。
学園都市として謳っているのだから、当然か。
有屋は行き慣れているのか、スイスイと駐車場に停車すると「ついたわよ。」と言った。中型の建物である。どこでもあるチェーン店の、気取らないファミリーレストランだ。
「あなたもたまに来てるんじゃない?」
「まあ、本当たまに。早く帰らないと帰り道が真っ暗になっちゃうから。」
あのトンネルを潜るのは少し度胸がいる。
「そう。免許でも取ると楽になるのにね。」
「はは…」
二人は来店し、ウェイトレスに案内される。午前中という事もあり人はまばらで、店内はまったりとしていた。
「好きな物を頼んで。奢るわ。」
「えっいいですよぉ。」
「いいから。」有屋は仏頂面をさらに厳しくした。
「じゃ、じゃあ、ドリンクバーで…。」
「そんなのでいいの?…まあ、いいわ。私もそうする。」
パネルにカツカツと記入している様子を眺めていると、彼女も一端の人間なのだと実感する。神使の狐と話していた時よりも実体しているのだと。
「悪い魔法使いとはいつ出会ったの。」
「…占い師として店を構えていたんだ。そしたら、浮浪者がやってきて手相を見てほしいって。」
当然辰美は手相占いのやり手ではない、それにそのナリだと金さえ持っていないかもしれないのである。丁重にお断りしようと思索していると浮浪者が銭を出してきた。
おまけに自らを大悪党の魔法使いだと名乗った。困った客だと思いつつ、同時にこれが夢であると悟った。
有屋にかつて悪い魔法使いと出会った事を打ち明ける。その過程にデジャブを覚える。
(いつか、同じ事を誰かに話したっけ?)
「間一髪だったわね。」
「…。」
「奴は魂を食べる。夜出歩いていた者や魂と体のつながりが弱っている老人や病人、なんでも食べるとされている。…辰美さん、あなた。そんな得体の知れない者と話すなんて。」
「まあ、そうですよね。ははは…」
「エネルギーを吸い取られて腑抜けにされるわよ。」
町を脅かす悪い魔法使い。形容が掴みにくいが、まとめるにそのネズミに会うとボケてしまう、魂が抜けたようになってしまう…。
最終的に命を落とすのなら、命を取られたのも同然だ。
人を腑抜けにさせ―悪い魔法使いは無差別に魂を奪う。
「魂やエネルギーを奪う、んですか。狙っている、と行った方がいいのかな。」
「食べる、とも奪うとも言われているけれど。その行動が腑に落ちないわ。魔法使いとてどうなっても人間。人が魂を、他人のエネルギーを内に宿してしまえば崩壊するかもしれない。これまでそんな行いをした者は長く生きられなかった。」
「自殺行為じゃないですか。」
「何か、人を超越してまでも行いたい事があるのかもしれないわね。」
「なにをしたいんだろう……。」
何故、自分を食べなかったのだろう。と辰美はヒヤリとする。
「そうね…悪い魔法使いは遺棄された神域を手中に収め、領地を広げようとしている。神の真似事をしたいのかしらね。」
有屋は椅子によりかかり、腕を組んだ。
「な、なんのためなんだろう?」
「町を支配したいのでしょう。」
「はあ」
「主導権を握り、何かしでかそうとしている。それは間違いないわ。」
辰美はウェイトレスがもってきた水をすする。
「世直しとか?」
「そう思える?」
「信仰を得られず消滅してしまった神の跡地。それを再建しようとしてるとか。」
「そうかしら?ソイツにそんな思考があるのかしら…」
「うーん…分かりません。」
「悪い魔法使いは町が嫌いで破壊したいのだと私は思っていたわ。」
「まあ、普通はそう思います。」
「わずかに残った神域、そして神使がはった結界。そいつは二つを破壊した。その行動からは町への敵意を感じる。」
神使らが守る結界を破壊し初めて…。神使たちの気を逸らすためだろうか?それとも本当に破壊したいのだろうか?
「神々は何故何もしてこないんですか?」
辰美の問いに
「神々はとても弱っているのよ。稲荷の狐も、そうだったでしょう?もう道を外れた人を正す力も危うい。この世界は神を否定したのだから。」
「有屋さんってまるで…。」
すると有屋はそれを遮った。「本題に入ろうと思う。」
「えっ」
「麗羅には会った?」
「いいえ、太虚という場所では会いませんでした。なぜ、そこまで麗羅さんを」




