虚ろを彷徨う者 3
「と、閉じるって。目を閉じればいいんですか?」
「ええ。今回も、というより今回はしょうがないけれど。太虚や異界に来たら目を閉じて、帰りたいと願って。眼の力が太虚から離れるから。」
紺色の瞳を歪ませて、彼女はふんわりと笑った。見た事のない瞳をしている。仄暗い紺色で、まるで底なしだと、辰美は思った。
「あ、ありがとうございます……。魔神さん?はなんでここに居るの?元は越久夜町のヒトなんでしょ?」
「確かに私がいたら進む分岐もあったわ。でも今はそれは叶わない。残念だけどね。なにより私は太虚に住む者。傍観者より無害な存在。それからね、堺の神なのよ。」
「傍観者…。」あの犬人間は自らを傍観者だと名乗っていた。傍観者は彼の他にいるのか。
「私たちのように好き好んで太虚に住む輩は、境界線に住む者とよばれているのよ。」
境界線。この場はあの世との境目なのだろうか?
パラレルワールドの倉庫だと彼女は言った。パラレルワールドは何故、この地に集まっているのだろう。
分からかない。辰美は壮大な世界を見てしまった気がして、隣にいる女性を眺めた。
「さ、帰りなさい。境界線に住む者は、私のように好意的な者ばかりじゃないから。」
「は、はい。」
「でもあなたの帰る場所はここだわ。ライラがいるからあなたは存在している。」
「えっ…ライラさんって」
「あの子が近づいている。」
「あの子?」
「アナタに似た、残骸よ。」
女性は太虚に広がる数多のしめ縄を見上げた。
「まだここは大丈夫みたいだけど、次期に壊されてしまう。それは私も嫌だわ。」
ライラは何者か--そう聞こうとしたがはぐらかされた。
(意地悪。)
「あの子に気をつけて。」と言われ、辰美はさらにむくれた。
「辰美さん、もしかしたらまた会うかもしれないわ。その時は私を見つけて。私はかつて、山伏姿の式神とも言われた存在だったのよ?」
今回も短めです。
本編の山伏式神が登場しました。




