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開闢のミーディアム ~人ならざる者が見える辰美の視点~  作者: 犬冠 雲映子
未確認思惑《パラレルワールド分岐点》
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未確認思惑「屋上」

 正午近くになれば人気も増えてくる。日本の都市の中でも栄えているこの都は忙しなく絶えずエネルギーを消費していくのだ。麗羅(らいら)たちはトボトボと人混みに紛れウィンドーショッピングをしたり、小さな史跡の観光をしたりしていた。


 内心これでいいかも…と魚子(ななこ)はホッと胸を撫で下ろす。ちゃっかり息抜きもできるし、麗羅さまのご機嫌とりもできる。一石二鳥である。

「やっぱり疲れるねえ、皆疲れた顔して歩かれるとさ。私はさあ、空気に敏感な方なんだよ。どんよりしてる空気とかあんまり好きじゃないんだ。」


「はあ…反対にニコニコしてたらおかしいですよ…。」


 麗羅は支離滅裂(しりめつれつ)な言動をする厄介な人だ。以前薬物乱用で病院に入院していたとか、カタギと付き合っているとか-変な噂ばかり(ささや)かれている。

 くわえて話の筋も動機もその場しのぎで情けない。また何故か周りからは魔女(ウィッチ)だと不気味がられていた。

 とはいえ魚子は本物の魔女を見たことがない。かなり昔、魔女や魔法使いは存在していたという。神代の時代──いや、それ以降人々が自然の摂理を紐解き始めた瞬間神秘的なまやかしは消え失せた。


 魔女。彼女の軽蔑句であるその言葉は西洋の印象から来ているのだろうか。日本では魔法使いという名称よりも「呪術師」というマイナスな雰囲気を有した存在がいたという。

 どちらでも意味は似ている。


 魚子は知らないのだ。麗羅のことなど何も。

(少し変わってる子なんだわ。)

 お互い触れられない領域がある。魔法や幻想とか、所属する者の社会規律や。

(もし魔法がこの腐った世界に存在するなら、わたしは…。)


(--あの子は何も語ってくれない。もうすこし心の内を明かしてくれればいいのに。)


()()()()()()()()()()()()()()U()M()A()()。」

「都合のいいUMAですね。」

「当たり前でしょ。被害がでたら、私達打首獄門(うちくびごくもん)だよ。」


 平和な国を(おびや)かす存在を生み出したら、確かに非国民として爪弾きにされてしまうだろう。あらゆる方面からおぞましい結末が待ち受けるのだ。魚子は一体全体人畜無害な生物が地球上に存在するのだろうかと思いを巡らせる。

 やはり人が創造しなければ生まれやしないか。


(……。うーん。)


 頭がこんがらがってしまいそうだ。

「やっぱり暇なんですか…?」

 さすがにイラッとこなくない。こっちだって暇じゃないのだ。

「ハンターに休みなどないのだ。」

「はあ…やっぱり私帰っていいですかっ!?」


 返事はない。むくれつらした魚子を他所に彼女はスタスタと先を行く。人混みをかき分け麗羅の背中を追った。



 廃れたビルがある。麗羅はこのビルに馴染みがあった。遥か昔妖獣人(ようじゅうじん)が教えてくれた夕日の絶景ポイントである。その妖獣人が()()()()()()()()()()だけれど、(ヒマ)になればここに出向き町並みを見つめる。暇つぶしの拠点であった。

 この場に来ると不思議と気持ちが凪いで、ぼんやりした頭が冷静になる。それと同時に悲しくて切ない、辛い過去を思い出しそうになる。けれども「ソレ」を思い出そうとは思わない。


 階段を登り屋上に行くと焼け付いたコンクリートと(さび)つく手すり、あとは汚れた貯水タンク。なんの変哲もない屋上である。


 霞んだ山のシルエットと遠巻(とおま)きに佇むビル群。晴れ渡った昼間の柔らかな風が誰もいない空間を漂っていく。麗羅(らいら)は暴れる髪を押さえつけ、無心にかえる。

 でまかせであんなことを提案したけれど。

 暇つぶしにはなれたろうか。


 怪獣映画とか、エイリアン襲来とか、終末ゾンビモノだとか、人類はへんてこな妄想が好きだ。きっとこの世が終わる恐怖に興味があるのだろう。或いは死に興味があるのだろう。


 もちろん麗羅だってへんてこりんな妄想はするし、大好物である。


(それに…きっと、ここを…多分、気にっているんだわ。)

 ──気に入っている?

 不意に出た言葉に麗羅は固まった。脳が忘れていたい記憶を思い起こそうとしている。ダメだ。

「もう満足したでしょう?今日ははねやすめだと思って明日から頑張りましょう!」

 バイヤーの声が思考を中断した。内心ホッとして、ニカッと笑みを作る。

「やだねーっ。」


 彼女何回信用を落とす気なんだろう?いや、信用など彼女にとって無意味なポイントなのだ。だから自分が不利になる仕事を押し付けられても否定せずのこのこと麗羅の元に来る。


「もしクビにされたら、どうする気なの?」

「バイトとか、もしくは実家に帰るとか…なんですか?私がクビになるとでも?!」

 お荷物なのはお互い承知の助である。

「いっそのことクビになっちゃおうよ。」

「は?本気で言ってるんですか?」


 信じ難いとバイヤーは眉をあからさまに潜めた。


「あたしたち、有りもしないものを探して、無意味だと思わない?」

「それはあなたが提案したのでしょう?」

「いや。私は提案してない。ずっと前から、この職を始めた瞬間から探してる。」淡々と話す彼女の意図が読めなかった。悪い冗談なのか、それとも。

「仕事だから、しょうがないです。それに」


 再び彼女につきまとう噂が過ぎる。―魔女。絶滅危惧種となった職業。現代の世知辛い夜の中でマジナイの影響力は薄れて、残骸だけが現存しているのだと言い聞かされていた。

 UMAが"生息"するのと同等に、ジャパニーズ魔法使いは表舞台から姿を消しつつある。得体の知れない生業を部外者が知り得ることすらお門違いなのかもしれないけれど。

(あなたには違う生活があるのでしょ?)


 そう言いかけて口をつぐんだ。

 有りもしないもののはずである彼女がなにを言わんとしているのか。…魚子は思考を停止した。


「もぅ。どうしたんですかぁ?アンニュイになったりして、具合悪いんですか〜?」

 わざとおちゃらけて、流れを変えようとした。


「ここ。()()()()()()()()()()なんだ。」

「へええ、初耳でした。」

「あれ。話したこと、なかったっけ?」きょとんとした魔女はうむむと記憶を振り返っているようだ。

 どうやら話の方向性は変えられたようである。


「ねえ。」蚊の鳴くような声が不意に屋上を制した。二人は顔を見合わせ、発信源をさがす。ゴースト?麗羅はわずかに息が苦しくなった。


 ゴーストなんてもう存在していない。いるのは狂って脳味噌の中で、本当にいるわけがないのだ。「UMA?始末しなきゃ…」


「えっこんな所にっ?早く捕まえちゃいましょう!」


 数少ない意見の一致。二人は仕事モードへ切り替える。"新種"のゴーストだったら一攫千金だ。五感をフル活用し、懐に携帯していた武器へ指をあてる。UMAらしきモノは―


「UMA?始末?なに?それ?」


 行きは誰もいなかったはずの階段に誰かが座っていた。


「おねぇさんたちなにしてんの?」

 女子高生(と思わしき)がひとり、ぽつんと階段に座っていた。そこいらの私立高校の子だろう。その制服の学生が何度か町を歩いているのを目撃している。いかにもお嬢様とまではいかないが、お家の良さそうな娘さんであった。


 しかし彼女の周りは殺伐としており、参考書らしき分厚い本だったものが足元で徹底的に破壊されていた。受験戦争に発狂しんだろうか?


 佐賀島(さがじま)。油性ペンでノートの端に書かれた文字を見ながら、わざとおちゃらけてみせた。

「サボってんのかあ?悪い子だなあ。悪い子には悪い仕事を任せちゃうよ?」


 ボーイッシュな女子高生は変なノリにドン引きしたが、なに?と興味を示した。


 麗羅は亡霊みたいだと場違いなことを想像した。亡霊なんて生きてこれ方目撃しやしなかったけれど、この子は世間から消え失せてしまいそうな、形容しがたい儚さ、いや、気薄さを感じた。きっと疲れてるんだろう。

 うなだれるサラリーマンやほうけた老人みたいに、生命力が欠けてしまっている。お若いのに目もどろんとして。


 なら尚更彼女へワクワクさせる気持ちをプレゼントしてあげよう。つまらないお勉強より、くだらない悪ふざけを。


「キャッチセールス?それとも宗教の勧誘?」

「ちがいま〜す。実のところ私たちはメン・イン・ブラックなので〜す。これを、探しているのです。」


 二人で考えたハリボテの怪物のレポートを彼女へ渡した。ハア?そんな顔をしている。

「あの…メンイン何とかって…」


「えっ?知らないの?」最近の若い子はご存知ない?いや、この子はSFが好みじゃないのかも。甘ったるい恋愛映画がお好き?まあいい。


「お断りします。わたし、これからやらなきゃいけないことがあるから。」

「お勉強かしら?」わかりやすい感情の移行がみてとれる。我々への好感度は地に落ちたようだ。


 よくよく彼女をみやれば滑らかな皮膚に痣やキズが出来ている。ボーイッシュだと決めつけた印象は無理やり引き裂かれた髪にあった。なるほど。なんと明確な説明である。


「今は…独りでいたい気分なの。変な人に話しかけちゃダメって…分かってたんだけど、つい。だから、独りにして。なかったことにして。」

「アララ~本が泣いてますよ、こんなことしちゃダメよ?」魚子が吹雪いていく紙切れをせっせとかき集めていく。

「うるさいな。用済みなんだからいいでしょ。」

 ため息混じりに少女は言う。どうやらこれは自分でやったようで。


「そこの…あなたはどこの学校?そっちだってサボってるくせに。大口叩かないでよ。」

「えっ?ああ、あたし?これはコスプレだよん。世の中女子高生なるものが大好評でしょ?このカッコしてるといろいろ得するのよ。」


「…もうやだ。」頭を抱えられ、麗羅は少し困惑した。

「言っておきますけどこれでも仕事中なんだ。で、あんたはなにをしておいでで?」


「飛ぶのよ。」


 きっぱりと言い放ち、少女はまたひねくれた態度をとった。若いというか、まだ何も知らないその様子に麗羅は既視感を覚えている。飛ぶ、なんて表現。幼稚じゃないか?それともなめられている?


「えっ?」


「あそこから飛ぶんだって。」

 気だるげに少女は再度宣言する。魚子が意図を察せず「だれが?」と聞き返した。

うひぃ……。生暖かい目で見てぇ〜


2020/05/22 後々に判明する事柄を最初に書いてみました。なぜなら現在そんじょそこらの使わしめの本編シリーズの漫画に集中しており、いつスピンオフ小説に着手できるか分からないので…。

加えて「未確認思惑」がかなり浮いている気がしたので、実は繋がっているんですとここで示しておいた方がいいかなと思ったらです。


誤字脱字ありましたら、教えてください( ´ㅁ` ;)

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