辰美と稲荷神社の神使 3
くたびれた様相をしている神使たちを前に辰美は何て反応をしていいか戸惑う。
(あまり管理がされていないし…ケガレっていうのかな、澱んでいるし、神使の力も弱まっている様子だし…)
異界を可視できる目を使って境内を見遣れば、よどんだ空気がどろどろと煮詰まって漂っている。地主神が祀られていた神社とはかなり異なる。
「そなたを呼んだのは、最近町に流れている悪い噂とも関係しているのだ。人間が越久夜町の神域に悪さをしている。それに地主神の狛犬がやられてしまったろう。加えて神域が邪悪な何かに支配された。次は私たちだと、自衛しなければと思い至ったのだよ。」
「ああ…」
鬼神の存在が脳裏に浮かぶ。
「悪い魔法使い、ってヤツが居るって話だしねえ。」おばあさん狐がうんうん、と付け加えた。
「この状況を改善するには、そなたが適任なのだ。様々な視点から人ならざる者が見えるそなたでなければ--」
「そうそう、アタシたちを何とかしてくれるはずだってね。」
「は、はあ。でもなあ〜〜」
人ならざる者を視る力を持っているとして、祓える異能がある訳でもなし。世にいるというジャパニーズ魔法使いとやらでもなし。
ただのしがない女子大生なのだった。
(なんも手立てなくない?)
「私ができる事ってあまりないような気が……」
「そこをなんとか頼むよ。」
「えーっ」ううむ、とない脳みそをフル回転させて辰美は打開策を考える。
(やっぱそこは緑さん、かなぁ?)
魔女、と呼ばれている緑ならば何かしら策をねってくれそうだ。
「エキスパートがいるから、今すぐにはできないけど待ってくれる?」
狐たちは半信半疑といった顔で顔を見合せた。
「アタシたちにはあんたしかいないんだ。忘れらてしまった神使には頼る宛はもうないのさ。」
「わ、分かってるよっ…」
念を押され、辰美はたじろぐ。
(緑さんに断られたらどうしよう……。)
狐たちは困ったねえ、と辰美の頼りなさに辟易したようだがしょうがないと頷いてくれた。
「気長に、とはいかぬが待ってみよう。人間を信じるのも神使の務めだ。」
「人間に信仰されてアタシたちは力を発揮できるからねえ。アタシが信じなければね。ね、辰美さん、よろしく。」
「は、はい。」
言いくるめられたのか、信じられたのか分からないままこの日はいったん帰る事になった。
文字数少なくて話的に短めなのですが、場面として区切りがよいので投稿しました。




