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開闢のミーディアム ~人ならざる者が見える辰美の視点~  作者: 犬冠 雲映子
悪い魔法使いと越久夜町編《人ならざる者が見える辰美の視点》
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辰美と稲荷神社の神使 2

 パチリと目を覚まして、辰美(たつみ)は雨の音に今日も雨が降っているのを知る。梅雨になっていないというのに、ここのところずっと雨だ。

 のそのそと布団から出ると、外の様子を見るためにカーテンを開けた。


「忘れていると思って、迎えに来てやったよ。」

 ベランダに金色の狐がちょこんと座っていた。それも二匹。

「あんた。この壊れようはなんだい?バケモノでも来たのかい?」

「な、な!?!」

「ばあさん、おどろかしてどうする。やあ、びっくりさせたな。昨日の神使だ。」

 昨日の狐と思わしき方がニタリと笑った気がした。


 窓ガラス越しに、まるで脳に直接語りかけているのか-鮮明に声が聞こえる。これが神使(しんし)パワーなのだろうか?


「じいさん、この娘で本当にいいのかい?間抜けな顔をしているよ。」

「この娘しかいないんだ。しょうがない」

「あのー、聞こえてるんですがあ。」

「これは失敬。」おじいさん狐が言うや「さっさと身支度しておくれ、日が暮れてしまうよ。」

「わ、分かったよ。」

 慌てて外着(といってもラフな格好だが)を引っ張り出して、布団を片付ける。


「では、私たちはアパートの近くにいるから来て欲しい。」

 そういうと狐たちは跡形もなく消えていた。

「なんなのよ、も〜〜!」



 携帯で時刻を確認すると八時ぐらいだった。休日-日曜日だったからよかったものの、大学がある日だったら大変だった。ただサボタージュの常習犯である辰美がいなくても、誰も気にしないとは思うが…。

 狐たちに導かれながら例の稲荷神社へ向かう。ウォーキングをする老人には神使といえど狐たちは見えていないのか、何食わぬ顔で通りすぎていく。

 よかった、と内心安堵する。二匹の狐についていく不思議な人だと不審がられてしまうに違いない。

 路地を歩き、こないだ歩いた道とは異なるが越久夜間山(おくやまさん)へたどり着いた。

 朝の空気を浴びて(生憎雨であるが)清々しい大鳥居を眺めると、狐たちは参道には行かずに山道へ歩き出した。

 そちらに稲荷神社があるらしい。


「なんで私に頼もうと思ったの?」

 人目を気にせずにすむようになったため、辰美は思いきって聞いてみた。

「腑抜けたタヌキどもから話を聞いてね。それに知り合いの隷属紋をつけているとみた。」

「れい…?なんて?」

「高位の呪術師や神々が眷属となる者につける印のようなものだ。」

「え?私にそんなものついてるの?!」

「存じていないのかい?右手についているじゃないか。」

 右手を見ても何もなっていない。

「隠してあるようだね。使わしめにはなんでもお見通しなのにねえ。」

 くすくす笑うおばあさん狐。困惑している辰美を見かねて

「大丈夫だよ。何も悪い事じゃない。お守り程度に思っておけばいいさ。」

「はあ…」

「悪いように考えると、色々また考えちゃうでしょう。それはよくないよ。」

「は、はい。」


 傘にボタボタと木々から落ちた雨粒が当たる。整備されていないけもの道を歩くのは至難の業で、雨に濡れた草がスニーカーを濡らす。

「君は私たちに会うまで越久夜間山に稲荷社があるのを知っていたかい?」

「ううん。私、引越してきたから越久夜町の事あまり知らなくて。」

「そうかい。ド田舎に引越してくるなんて、変人だねえ。」

 おばあさん狐の言葉に苦笑する。

「稲荷社はね、ずーっと昔からあったんだよ。」

「そうそう。稲荷社が勧請されたのは今の世とはかなり違う、どうだったか、歳をとるとボケてしまってなあ。人が今のように神々を信じなくなる、かなり前にやってきたのだよ。」


 ()()()になり、神や摩訶不思議な事柄やオカルトを信じる人はいなくなっている。化学がかなり躍進したのと日本が過剰にグローバル化したり、様々な現象が解明されたのが大きかった。

 神社などの建造物は歴史的価値があると捉えられ、信仰自体は後回しにされてしまっている。

 首都はこれ以上街並みが破壊されぬよう、建造物保護をしているので表面的にテクノロジーが発展していないように思えても、田舎町とはかなり差がついたデジタルな世界だ。

 ディストピア化が進むのではないかと、論争がなされている。


「昔は良かった。人々が神を信じている精神があったのだ。」

「はあ…そうなんですか。」

「それに我らは山の女神をお守りしていた誇り高き神の使わしめだったのだ。何より私らも女神様に尽くしてきたし、町の神々や使わしめからも一目置かれていたんだ。」

 どのくらい歩いたのだろうか、入口から随分(ずいぶん)離れた気がする。

「越久夜間山の稲荷社にはお参りするのが、夏祭りの恒例だった。今じゃあ、忘れらてこのザマさ。」

 おばあさん狐が跳ねるようにかけていく。


 その先に寂れ朽ちかけた赤鳥居と小さな稲荷社があった。屋根に降り積もる枯れ葉や()びついた鏡が虚しく放置されている。

「これが、山の女神をお守りする……?」

 規模の小さな様子に愕然とする。狛狐も所々破損しており、原型を留めていない。手水舎も、何もかも雨ざらしになり風化していた。

「昔はねえ、体も霊力も大きかったものだよ。今じゃこんなんだ。」

この話の時代は平成なのですが、気がついたらパラレルワールドの平成になってしまいました…。

科学が進歩して神様が信じられなくなってしまった世界、というのは頭の隅にあったのですが。

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