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開闢のミーディアム ~人ならざる者が見える辰美の視点~  作者: 犬冠 雲映子
悪い魔法使いと越久夜町編《人ならざる者が見える辰美の視点》
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赤眼のカラス 1

また急いで投稿してしまいました……。

『私たちがなんとかしなきゃ、いけないの。私たちが創り上げた妄想をぶち壊すのは私たちしかいないの。』

 たゆたう意識の中で女性の声音がする。あきらめかけた感情の中に希望が見え隠れしていた。


 希望。


(妄想?誰の?)

 辰美(たつみ)は意識の中、思考をめぐらす。布団に入り覚醒と睡眠の境を行き来しながら。

『彼女の(けが)れを祓わなきゃ。』


(私は、どうなってしまったの?)


「辰美さん」

 はきはきとした声に我に返る。

 目を開けるとあの暗がりが広がっていた。地平線もない、無の世界。何も無くしてしまう視界の闇。…本当に何もなく全てを含むカオスを顕在させた闇。

 チカチカと煌めく光がある。蛍のようにまう光。


「辰美さん。起きたかい?」

 眼前にメイド服を着た異国の少女がいる。確かネーハという名前だったはずである。

「ネーハ、ちゃん?」

「この際なんとでも呼んで欲しい。…私が護法童子(ごほうどうじ)であるのは変わりはないのだから」

 彼女の、橙色の瞳が人ならざる者だと告げていた。

「その…護法童子ってなんなの?」

「上位の神々から遣わされた人間の味方だと思ってくれればよいさ。」

 現実世界にいた時よりもリラックスしている様子だ。ネーハはニコリと白い歯を見せた。

「私はあなたをとって食ったりはしないよ。」


「は、はあ。」

「本来護法童子は夢を介してしか人間の意識には侵入できないんだ。夢というのは魂と肉体、異界と人界の隔たりを曖昧にさせる。」

「アナタがきたって事は、何かあったんだ?」

 彼女の気色が真剣なものになり、固唾を呑んだ。


「あなたに危険な存在が迫ってきている。」


「それって私に似た干渉者?」

『アナタに似た何かによって、破壊されている。』

 麗羅の言葉を反芻する。ついにその干渉者なる存在が身近にやって来てしまったというのか?

「いいや、違う。だが彼女はとても危険だ。だから、気を抜かないで欲しい。」

 ネーハは続けて鬼気迫る様相で言った。

「とても危険って…どんな奴なわけよ?」


「彼女は越久夜町(おくやまち)の時空を破壊し続けてきた者。そして姿は変幻自在、加えて何かにとてつもない執着心を持っている。」

「……この町を破壊し続けるってやばくない?」

「ああ。それに彼女の力は大きすぎて、私には、神々にもどうすることもできないんだ。多分君を真っ先に殺めようとするだろう。」

 辰美は緊張する。脳裏に神社で遭遇した、おぞましい少女が過ぎったからだ。「前みたいに襲われるってこと?」

「いづれそうなる。」

 その言葉に深く息を呑み、身を固くした。

「食われぬように気をつけて欲しい。」

「どうしよう。」

「大丈夫。有屋(ありや)さまが辰美さんに魔法をかけておいた。何かあった時にいち早く感知できる魔法を。有屋さまの霊力はとても強い、かの干渉者に太刀打ちできるかもしれない。」

 有屋はどんな人物なのだろう?自らを魔法使いだと言っていた。

 霊力の強い魔法使いが町にいるだけではダメなのだろうか?


「君は我々にとって打開できるかもしれない希望なんだ。」


 希望。

「-有屋さまが呼んでいる。それじゃあ、また何かが進展したら夢に現れるよ。」そう言い残し、彼女は夢の世界から瞬時に、モヤのように去っていった。

「………。」

 残された辰美は独りごちる。

「希望、か。」

 -希望って言葉、薄っぺらくて嫌いだ。

『その力を使って、アナタの時空をハッピーエンドにして欲しい』

 -幸せな終わりなんて、この世に有り得るんだろうか?


―――

 初夏はあっという間に過ぎ去り夏が本番になった。地球温暖化が進んだ今日では、季節があべこべになってしまっている。梅雨が来る前の一時の夏。

 ひと足早い夏空の下、二人は気だるげに路地を歩いていた。山間部にある越久夜町にはあまり大通りがなく、あるのは細い路地ばかりである。ブロック塀の上を黒猫が呑気に歩いていく。

 二人は緑の骨董屋から帰っている最中だった。

 緑からアイスをもらい、たわいもない会話をして時間になったから帰る。見水(みみず)が女子高生みたいだね、と茶化した。

 辰美はそうか、これが学生生活なのかと自覚して複雑な気持ちになる。高校時代にあまり良い思い出がなかったからだ。


 ふいに空が騒がしいのに気づく。見上げるとたくさんのカラスが旋回したり、舞ったりしている。不気味に響く鳴き声が町中に響き渡っていた。

「ねえ、カラスひどくない?」

 見水に聞くと彼女は上を見上げ、首を傾げる。

「えっ?何もいないけど。」


 自らの眼球が"異界"を見ているのに気づき、少し俯いた。

(まただ。私は見水と違う世界を見てる。)


「またお得意の超能力ってやつ?」

「そうみたい。」苦笑すると再び空を眺める。あの異界のカラスたちは何に騒いでいるのだろう?

 気を効かせてくれたのか、見水は違う話題をふってきてくれる。二人はまた意味のないおちゃらけた会話をする。

「じゃあ、また。大学の課題がんばろうね。」

 分かれ道にさしかかった際、見水が手をヒラヒラさせて軽くふざけた態度をとった。

「は〜〜い。また大学で」


 そう言って別れた瞬間だった。眼前に黒い光が瞬く。鮮烈に光っているはずなのに黒い、不気味な光であった。

「隕石っ?!」

 光の玉が弾けると、ほかのカラスより一回り大きいハシボソガラスが現れた。

「な、なに?!」

「お願いだよ!山の神さまを探して欲しいんだ!」

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