表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/349

イズナ使いの異聞奇譚「おわり」

 願いを叶えるネズミ…その人(悪い魔法使い)と明朱は母の通院している総合病院で出会ったという。その人の姿をよく思い出せないのだ。例えば夢の中でありがちな見えているはずなのに、誰だかははっきりしない曖昧なイメージ。大人だった、それだけは確かだった。

 パチリと視線があった。薄気味悪い人である印象を受けた。

 その夜。家に大きなネズミがあらわれた。

 言葉を発し、あの時の者だという。自分はこの町と人類を救うために働いている、と。


「君に取り憑いている物をとってあげる。…遊ぼうじゃないか。ほら、これ、謎解きだ。これが解けたら君は救われる。」


 救われる、それしか考えられなかった。辛い生活から逃れられる。明朱は一生懸命、数字を解いた。最後は緑たちと同じくネットに頼り、あの家にたどり着いた。

 明朱は悪い魔法使いに犬神を預けた。

 あれから犬神はいなくなった。姿形でそれがわかった訳ではないけれど、母の精神状態が少しずつ快方に向かっているのだという。


 -ありがとう、ありがとう緑さん。あなたもいつか、憑き物と良い結果になりますように。

 衣舞からの手紙をたたみ、緑はイズナをみやる。

 イズナはこちらの気も知らずふよふよととんでいるだけである。イズナという生き物が自分の家に住み着いている。細長いイタチの如く異様に目が多い、不気味な生き物である。明確な記録はなく、何代に渡ってイズナを世話してきた。

 これからも、自分が息絶えるまで世話をしていくつもりである。


 再び怠惰に身を任し、堕落した日常に戻る。自分にはこの無変の生活が割にあっているのだ。その方が安心する。

 本来の時間が骨董店に流れている。穏やかな、埃臭い(こも)った時間が。

 ステンドグラスを塞いでいるガムテープが劣化してきている。また張り替えるのも考えものだ。いっそのこと修繕してもらうか、新たなガラスをはめるか…。


 つらつらと考えているとガラス戸が数回ノックされた。

 子供と母親と思わしき女性がこちらへ会釈する。肝っ玉母ちゃんといかにもいたずら坊主といった、元気そうな少年だ。客人だろうか?


「いらっしゃいませ。」

 ガラス戸をスライドさせると、親子は唐突に謝ってくる。深々と頭を下げた彼女らに戸惑っていると…。

「この子がお店の窓を割ってしまって…」

「ああ…この、ステンドグラスですね?」

「ごめんなさいっ!おねーさん!ホントにごめんなさいっ!」    

 今にも泣きそうな様子で少年は詫びた。親にたらふく怒られたのであろう。

「いいですよ。気にしていませんし…それに」

 解決策となってくれたのだから。


「俺っ…、あの、わざとじゃないんだっ!」

「コラッ!」 

「だ、だって、子供が見た事ない服を着てたから、それに窓にへばりついてて…」

 少年は言いずらそうに打ち明けた。親も顔色を変えて、微かに動揺する。「見た事のない服…。」

「す、すいません、もぉ~変なこと言って!」

 母親が慌てて否定する。それはそうだ。心霊体験がイタズラの言い訳だなんてシャレにならない。

「いえいえ、きっと蛾かコウモリか…何かがいたのでしょう。夕方は見間違えやすいですから、お気になさらずに。」

「本当にすいません!ほら、謝って!」

「ごめんなさい!」

「そんな…。」親子の必死な謝罪にどう対処していいか分からなくなる。許す、しか道はないのだが…さらに慰謝料を求める極悪人でもないのだし。

「頭をあげてください。起きたことはしょうがないですし、誰だってびっくりしますよ。人が窓にへばりついていたら」


 夕方は見間違えやすいですから―自らそう言ったように、夕方は何か人でない者が紛れやすいのだろう。少年は見間違えをしたのか、はたまた「見て」しまったのか。

 体験した出来事が夢でないのなら、後者の可能性を考えてしまう。


 親子から菓子折りを受け取り、見送りながら緑は内心苦笑する。被害妄想が過ぎた。

 悪い魔法使いが腹いせで割ったのかと、てっきり思っていたのだから。シャッターを閉めつつも自分の幼さを恥じる。

 夕暮れ時、田舎町にシャッターが立てる金属音が響いた。

感想待ってます。

長くなりましたが、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただきありがとうございます。

こちらもポチッとよろしくおねがいします♪


小説家になろう 勝手にランキング


ツギクルバナー


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ