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イズナ使いの異聞奇譚「あキらメナイで」

「…はやく、明朱さんを見つけましょう。式を操れる呪術師となると…どのような妖術を使ってくるか分かりません。」

 しびれた腕をさすり、緑は苦虫を噛み潰しめる。体のあちこちが痛みを発している。まやかしが現実に干渉するなど、非常事態である。

 …いや、逆に異界へ自分たちという現実が紛れ込んだのか。

 式を操れる魔法使いとなると状況が変わってくるのだ。そんじょそこらにいる低級魔法使いではない、マイナスの呪いを制御する力を兼ね備えている。


「じゅじつし?あの、漫画に出てくる?」

「ええ。町を騒がせているネズミもその呪術師の化身です。」

「ちょ、ちょっと待ってよ。話が急すぎて」

「明朱さんに化けていたのも呪術師が使役していた式、またの名を式神(しきがみ)というものです。」

「じゃあ、妹さんがどうなってるか保証がつかないってコト?!」

「ええ…。脅すつもりはありませんが…。」

 犬神を奪うだけではなく、命すら奪われてしまうかもしれない。最悪の想定だが、悪い魔法使いが何をしでかすか分からないのである。


「そもそもどうやったらここから出れるのよ…。」

「さあ…。」

「どうすれば-」弱音を零しかけた辰美の襟から、一匹のイズナが躍り出た。それはうねうねと身をくねらせながら彼女の目鼻の先に接近する。

「あの時にいなくなっちゃったかと思った…。」

 式との戦いの際に砲弾となってしまったかと緑も思っていた。一匹だけ隠れていたとは…。


「…!」

 蚊の鳴くような小さな、思念に似たコトバが降り注いだ。温かく希望に満ちた、疲れきった心のエネルギーを回復させるものであった。


 あキらメナイで。


「あきめないで、とイズナがあなたに言っています。」

「は?…緑さん、この子の言っていることがわかるの?」

「ええ。イズナ使いですから。」


 イズナは彼女を周回するとやがて前進し始めた。ついてこい、と無言ながらに豪語しているかの如く。

「案内してくれるの…?」

 返事はないがそうらしい。淡い眼光が離れていくのを、辰美は置いてかれまいと追っていった。


「辰美にはイズナが見えてるんですか?」

 可視ができない衣舞には摩訶不思議な光景に写っているみたいである。

「人ならざる者が見える眼というのは普段は厄介ですけれど、便利な能力でもありますね…。-彼女たちについていきますか。」


 視界は不自由だ。あっという間に見失ってしまう。

 無であるこの世界が辰美にはどんな風に映っているのだろう?

 本人のみぞ知る、なのだろう。


 人ならざる者に連れられて三人は宛もなく歩く。歩を進めていると上も下もない不確かな感覚に見舞われる。何も無いはずなのに無が密集しているような、威圧感さえ含んでいる。異界をここまでじっくりと堪能するのは人生で最初で最後になりそうだ。

 人ならざる者は寂しい場所に住んでいるものだ。


 力強く行進していたイズナがくるくると円を描き始めた。目的の物を発見した探知犬のようにしつこく知らせる。誰かがいる。

「ライト…照らしてみるね。」

 携帯のライトを再び起動させ、隅々まで照らしてみせる。範囲は狭いけれど靄めいた粒子がゆったりと流れているのが目視できた。

「あっ!」衣舞が目ざとく何かを見つける。-装飾だ。

 細かく彫り込まれた装飾、艶のある木製の物。玉座だ。玉座に誰かが座っている。

 彼女は走り寄り、玉座に座る人を確かめた。 


 事件の被害者が通っていた高校の、または道祖神の前にいた死体の如し少女が着ていた制服だった。

「明朱?明朱なの?」 

 二つ結びのおさげ髪とファンシーなピン留め。若い特権であるふっくらとした頬。衣舞に似た幼顔がライトに照らされ、明朱であると今度こそ確証させる。

 傷一つなく、窶れてもいない。その様はついさっき迷い込んだかのようだった。なのに-彼女は泣いていた。


「明朱っ-!辛かったね!帰ろう!」

 衣舞がきつく妹を抱きしめる。放心したように、無反応だった明朱が口を開いた。 

「お姉ちゃん、もう私たち苦しまなくていいんだ。犬神はもう…。」

「どういうこと?」

「私たち、犬神憑きじゃなくなったの…!」

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