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イズナ使いの異聞奇譚「イズナ使いの緑」

「苦しめ。」

 隙を取られた!しめ縄が意志を持ったかのごとくうねり、ギリギリと体をきつく束縛し、くい込んでいく。


「ミドリさん!本当に魔女なんでしょ?!魔法を使って!」

 辰美が網目の隙間をこじ開けようと奮闘している。どんなに力をかけてもアレは開かない。魔の術でないと─。

「…魔女なんかじゃないって言っているでしょう。」

 このままでは物理的に千切(ちぎ)れてしまうかもしれない。手は血が行かず痺れを起こしている。肢体を封じられては魔法は行使できないのだ。


 ふわりとイズナが呑気に舞う。イズナに自我はない、緑への忠義も仲間意識ない虚ろな存在。そう思ってきた。

(でも…何十年も共に生きてきた。)

 生まれた頃から彼らはそばにいて、衣食住を共にしてきた。差別される対象でも彼らは緑の代まで絶滅せず、生きてきた。

「イズナ…!言うことを聞くんだ…」

 首を傾げイズナは耳を傾ける仕草をする。本当に聴いているかは分からないけれど―。

「私の代でお前たちは滅びる。それは一族も同じ…これで最後だ。」

 理解できないと再度首を傾げる。


「私に─従え。」


 ボッと毛並みが広がり、赤い目が眩いばかりに光を発する。

 赤い閃光が暗闇を鮮烈に照らした。視界が血の色に染まり、耐えられずに瞼を閉じる。チカチカする瞼の裏で何か囁き声がする。たくさんの言葉が、静かに染み込んでくる。

 異界での、言葉のなさないざわめきは-四方から投げかけられた声は、イズナから発せられたものだったのだ。

 目を開けると何十匹ものイズナがピタリと軍隊のごとく宙に浮いていた。皆、爛々と眼球を滾らせている。


「な、なにをした!呪術師!」

 式が予想だにしない展開に狼狽する。緑は首を横に振った。


「私は魔法使いじゃない!イズナ使いだ!」

 何匹ものイズナが刃の如く尖り、宙で待機する。「いけ!」

 空気を鳴らしながら緑を拘束するしめ縄ごと切り裂いた。バッサリと切れた繊維めいたものが気化し、消滅する。ハチャメチャに飛翔したイズナが張り巡らされたしめ縄を次々と壊し、台無しにしていく。


 子供は驚き、次のマジカルステップを繰り出そうとした。

「させるか!」


「…!」くるぶしにイズナが突き刺さり、声にならない悲鳴をあげる。ひゅん、と腕や方に追撃され、式は苦しみに歯を食いしばった。


「い、ずな使いなど、町では滅んだはずだ…!」

「今、復活しました。」

 臨戦態勢のイズナが緑の合図を待っている。イズナ使いとして、使役者に従属しているのだ。

「ふざけた真似を!」

「さあ、明朱さんがどこにいるのか教えてもらいますよ。式。」

「明朱…?吾輩はそなたたちに教える命など受けていない。残念じゃな。すぐさま帰れ。」

「いやです。さあ、教えなさい。」

 式は屈辱だったのだろう、心底嫌そうな気色を浮かべた。

「人間の分際で、吾輩に指図するなど…。帰れ、二度と我々の領域に干渉してはならぬ。」

 緑は何も言わない。

「そなたらがこちら側に干渉するのなら、吾輩らもそなたらに干渉するだろう。それでも良いのか。人ならざる者は-」


 ぶわりと長髪が逆立ち、あどけない子供の口が般若の如く釣り上がる。幼い体のシルエットが曖昧になり、荒々しい怪物が現れた。

 獅子に似た頭部を持つ闘犬。馬めいた尾を大きな鈴と紐がひとまとめに結いていた。白銀のたてがみをざわめかせ、全身に力を込める。

 キメラだ。いや、悪魔か。─式は何にでも変じられる。森羅万象の生命に擬態する厄介な存在なのだ。

 赤色の双眸を細め、唸りを発する。


「執念深いでな。」

 全身に深く刺さったイズナを武者震いで振り払い、成人より数倍大型の獣は鋭い牙が生えた口を開けた。丸々喰うぞ、と宣告された気がした。


 式が飛びかかろうと筋肉を僅かに動かしたのを察知して、あるイメージを抱いた。無数に待機していたイズナがわっと一箇所に集まり、思い描いた物に変化していく-。


 砲弾である。


 心の奥底に抑え込んだ様々な感情を鋭利でいて、残虐な兵器に変える。ポップなイズナのイラストが描かれた、ふざけた武器は緑の精神エネルギーを元に発射された。


 襲いかかってきた式の口内に砲弾が吸い込まれていく。

 肉を、骨を、鈴を、全てを破壊し凶器は闇を突き破っていく。爆風が異界に吹き荒れ、衣舞が悲鳴をあげた。


 張り巡らされた残りの網目を引っ掻き回し、縄の繊維が融解していく。隔離されていた二人がドッと押し寄せてきた。

「今の何っ?!ヤバいんですけどっ!」

「大丈夫ですか?!」


(…生き残れた。)

 上位の使い魔と対峙し、生き残れる自信はなかった。ましてや大技をかますことさえ想像もつかなかった。後になって震えがやってくる。無意識だけれど恐怖を感じていたのだ。


「魔女じゃなくてイズナ使いだったんだね」

 ニカッと笑い、辰美が白々しい言葉を吐いた。緑はイズナ使いであると自認する。


「ええ、私はイズナ使いです。」

感想待ってます。


追記

加筆修正しました。本編のキャラクターが登場しました。

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