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イズナ使いの異聞奇譚「打開」

「そうかなぁ~。」 

 履歴をクリックしてみると検索が一致しないとでてきてしまった。数字に間隔を入れてやってみても、膨大な量の情報がヒットしただけで願いを叶えるネズミなどについてはかすりもしない。

 どうやら明朱(あす)も同じような行動をしていたようで、繰り返し検索していた痕跡があった。

 三人は画面を前にして、再びふりだしに戻ったかのような気分になる。順調に進んだかと思った「捜索」が行き止まりになってしまった。


 諦めがこの場を支配しかけた時、衣舞が何かを閃いた。

「ねえ。この数字、座標じゃないかな?地図って座標から逆に場所を特定できるのよ。」


 大手地図サイトを開き、何回も見飽きた数字を検索ボックスにコピーペーストし、エンターキーを押した。

 すると日本を映していた衛星写真がブワッと拡大され-山奥の民家にたどり着く。


「やった~!」二人はハイタッチをし、歓喜に沸いた。その喜びの横で、緑は固まっていた。深緑に記載された山の名称。なんせこの山には見覚えがある。

 事件が起きた現場の近場であり、遺品整理を頼まれた家がある山でもあったからだ。


 衣舞たちの推測とは異なっていたものの、探していた場所と明朱が訪れたと思われる場所は同じだった。なのに何故、見つからない?

 灯台もと暗しとはこのことだ。

 緑は偶然であるのかと疑う。老人はネズミに噛まれ、死んでしまったのだ。

 多分これもネズミが絡んでいるのだ。悪い魔法使いがあやふやにして、真相を見えなくさせている。それは早計か?


(遺体になってしまっていたら…)

 嫌な想像を振り払い、じっと画像を見つめる。


「おや…。」

「どうしたの?」

「なぜ…ピン?は家ではなく、この…白いものをさしているのでしょうか?」

 赤いピンは家屋ではなく、草木が生い茂り形容しがたくなっている方を刺していた。ぼやけて滲んでいる写真にわずかな白が浮かんでいた。


「…なんだろう?井戸かな?」

「やめてよっ!怖い!」辰美が奇っ怪な動きをして怖がった。イズナを初めて見た時も過剰に怖がっていた。まさか怖がりなのだろうか。


「行ってみなければ分からない、ですよね。」

「そ、そうよね!ただのゴミ袋かもしんないしっ!」

 日が傾くまでにはまだまだ時間がある。最近は特に。

 もうここまできたら、探してみるのも手だ。ここまでヒントを与えられ、見つけてみせろと言われているようなものだ。

 もし明朱に出会えなかったら仕方がない。これが最後のチャンスなのだろう。二人もあきらめ、警察に期待するしかなくなる。

 そうこうしている内に素早くシャットダウンさせ、衣舞がチェアを立つ。


「行こう。」

「行こう!ほら、ミドリさんも!」

 がっしりと辰美に引っ張られ、部屋を飛び出される。


―――

 衣舞は車庫にあった軽自動車を運転すると言い出した。免許も持っているのだそうだ。

 母と共用だけれど今日は通院日でいないのですぐに山まで行ける、と。車のキーを工具箱から取り出し、二人に乗れと催促する。

 ありがたい、と辰美が早々と助手席に座った。


「ありがとうございます。…私があそこまで案内します。以前仕事で向かったことがありますから。」

 後部座席からになりますが、と付け足して緑も乗り込む。芳香剤であるココナッツの匂いが鼻を着く。車に乗るのは久しぶりだ。

「ミドリさん、確か骨董屋さんだよね。」

「遺品整理もしています。あの家は…おじいさんが亡くなったとかで、遺品整理を承りましてね。丁度衣舞さんに出会った日です。」

「うわっ…なんか不気味じゃない。」

 顔をしかめ、辰美が身震いする。


「ええ。偶然であるのかと疑うぐらい。」

「多分偶然じゃない…と思います。明朱も必然で、あの家に向かわされたんだわ…。分からないけれど、そう感じる。」

 エンジンをかけながら、真剣な顔をして言う。今まで心許ない弱々しい印象を受けたが、本来はしゃんとした人なのだ。


 車で道を走り、山へ向かう。当たり前だが自転車や徒歩で進むより断然早い。通り過ぎる町並みを眺めつつ、これからどうなるのかと予測不可能故の不安が過ぎる。吉と出るか凶と出るか-神さまだけが知っている。

 神さまがいるか否かなんて、この歳まで気にしもしなかった。なのに辰美という女性の眼が、あちら側の世界を映しているのを信じてしまった。


 山道に入りこみ道案内をする。自然に溶け込みそうな私道の突き当たりにある古民家だった。

 ガタガタとタイヤが補修工事が久しくされていないアスファルトに悲鳴をあげる。セイタカアワダチソウが車体にあたり、自然の凄まじさを思い知らされた。

「ついたぁ~…。」ハンドルに突っ伏し、体の力を抜いた。 


 老人の家はあの日よりくたびれた印象を与えた。家主が消え、さらに生気を失ったみたいだ。

 生い茂った雑草が砂利をやがて覆い隠す。生命力が痕跡を消してしまうのだろう。

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