イズナ使いの異聞奇譚「現実」
「脇田さん…?ありがとうございます。」
礼を言うと警察官は苦笑した。捜索隊は彼しかいないみたいだ。
「○○町の交番勤務の脇田です。あなたたちが捜索願いを届けた時にはいませんでしたが。」
「ああ、そうなのですね。」
「あたしが引っ張ってきたんだ!」ニカッと歯を見せて笑う辰美に呆れた。馬鹿というか、行動力の塊というか…。
「ひとまず良かった。さ、降りましょう。熊やイノシシに出くわしたら危ないですから。」
警察官に連れられ、山を下る。警察が何度も往復し、道ができているおかげでいくらか歩きやすい。歩き疲れている衣舞はよろけながらもついてくる。
「良かったよ。緑さんもいなくなっちゃうから、本格的にヤバいって思ってさ。」
「そんなに時間はたってないと思いますよ。」
「ええっ!三時間も経ってんだけどっ!」
三時間?少女に行き先を聞いてから歩いている間に三時間もたったというのか?
体感時間と合わず、衣舞と顔を顔を見交わす。
「見水なんて何週間も経ってるのに。」
「嘘よ、だって山に入って二回しか夜が来てなかったのに…。」
「たまにあるんですよ。そういうの。」
脇田が三人の会話に割り込んだ。
「昔から神隠しって言うのがあるでしょう?天狗に連れ去られたとか、音につられて迷ってしまったとか。この町にもそういう言い伝えがあってね。俺のばあちゃんも、若い頃山菜採りで山に迷いこんで彷徨ったらしいですよ。したら、一週間も経ってたって。この町の山ん中にいる女神さまに遊ばれたんじゃないかってね。」
山の女神は他界に迷い込んだ人を助ける。衣舞を助けた女性が山の女神だとしたら、あのライラは何なのだろう。
(山の女神は私の前になんかには現れないか。)
「へえ、なんだか怖いや。二人も山の女神さまに遊ばれたのかな?」
「さあ。言い伝えだからねえ。お二人さん無事でなりよりですよ、ホント。」
「ええ。」
山に降りると軽く人だかりが出来ていた。珍しくパトカーが停車しているせいか、野良仕事をしていた人や散歩をしていた老人などが集まっている。
「衣舞さんを保護という形で、一旦交番に連れていきますが…あなた達も乗りますか?捜索願いを出していたでしょ。」
「そうなの?辰美。」
「うん。…じゃあ乗ろうかなあ。緑さんも迷ったことだし。」
パトカーに乗り込み、交番に向かう。交番で衣舞の親に連絡するという。ここからは衣舞と親の、家庭での手続きと対話になる。部外者である緑は何もしてやれることは無い。
「山にみだりに立ち入らないこと、ココの生まれならわかるよね?」
「東京生まれなもんで、すいませんした。」
辰美が軽い説教をくらい、ヘラヘラと言い逃れをする始末。
「衣舞さんは一時保護という形になるけれど。…それと妹さんの大規模な捜索はまだ難しいんだ。まず迷い人として防災無線で呼びかけることになるけど、良いかな?」
連日防災無線で呼びかけ、数日だったら町外へも協力してもらう流れになるという。そしてデータベースに登録される。
衣舞は驚きと失望が混じった表情を浮かべて俯いた。
(私たちでしてやれることは、もうこれでしまいだ…。)
手を尽くしたのだ。結果彼女を見つけることができた。それでもう、限界なのだ。
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