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イズナ使いの異聞奇譚「立ち入ってはならない世界」

「ものは使いようですよ。毒物(どくぶつ)も正しい使い方をすれば薬になるように、その娘さんが眼を世の為に使えば、異形と円滑で平和な関係を結べるかもしれない。…という、私なりの見解ですけれどねえ。」

「ふうむ…。」あの娘が眼を世の為にとは考えないだろうな、と微妙な気持ちになる。 


「説明が長くなりましたね。で、見せたいものとは…?」

「ああ、これです。」 

 取り出したメモ帳を興味深い視線で追う。


「これになります。神域と思われる線に、この文字のようなものがびっしり描かれていたそうです。」

 指で文字らしき形をなぞってみる。そんな緑の仕草よりも、紙を凝視するなり

「その文字は…山の神の…」

 と、三ノ宮が震えた声音で呟いた。


「山の神?」

 原始から人々を見守る女神がヤマに居て、信仰されていたという。書斎に残されていた町の伝承の山に住まう女神は山神といえる。

 寺の跡取り息子はこの文字が何なのかを存じている。


「あ、ああ…なんでもないです。すいません、びっくりさせてしまって。」

「この文字は山の女神と何か関連が―」

「緑さん。」

 はっきりとした口調で三ノ宮は言葉を遮った。


「私たちにはね。お互い立ち入ってはならない世界があるんですよ。」


 神と人の関係は薄いものとなり、違う世界に住み始めた。違う世界。人ならざる者の領域―。

「あなたは、なんなのですか。人でしょう?」

「ええ、私もです。私も立ち入ってはならない立場です。なんにも特別な存在でもない。その娘とは違ってね。」

 何を言いたいのか、緑には理解できなかった。


「目を凝らせば凝らすほど、それはあちら側も見つめ返してくる。緑さん、あなたはあちらに立ち入り、あるいは見つめ返されたら一口で食べられてしまうでしょう。」

「まあ…。」

「あなたは今脆い状態なのだから、なおさら覗き込んではいけないのです。気をつけなさい、その子に引っ張られないように。」

 釈然としないが、頷いてみせた。

「…けれど行き止まりを彷徨(うろ)くことはできる。ヒントは与えられるんです。」


 これ、貰ってもよろしいですか?と彼は聞いてきた。とって置きたい所だけれど、書斎がかかっている。「いいですよ。」 

「これで神社の神域が破られていないことを実証できたんでしょうか?」

 メモ帳からちぎった紙を懐にしまうのを眺めながら、ポツリと呟いた。 

「ええ、この文字を父やタヌキたちに見せれば大丈夫です。ただし、異形がみえる娘の存在も教えてもよろしいでしょうか。これから役に立つかもしれない。」

 緑は渋る。実験台にされるのではないか?

「まさか魔法使いならともかく、タヌキたちには邪な考えはありませんよ。」

「あなたを信じられませんが、霊獣(たぬき)達を信じます。」


「ありがたいですね。…そろそろ帰らなければ、怪しまれますんで。じゃあ。」

 腕時計で時刻を確認するや三ノ宮は腰をあげる。脳裏に山の神域が蘇り、慌てながらも、平生を取り繕いながら問うてみた。  

「もし、町の神域が全て破られてしまったら、何が起こるのですか?」

 突然の質問に跡取り息子は不思議そうな表情をしたが、ニッコリと気兼ねなく答えてくれた。

「この町の守護神である山神が代わりに町を守ります。」

「そうですか…。」


 山神が関わる文字と町の神域は無関係ではないようだ。山に坐す女神は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() ()


「山…で思い出しましたが、そういえば隣町の僧侶から見つかった遺体のことを聞きましたよ。その様子はまるで獣に食い荒らされたみたいだったとか。」

「グチャグチャ、でしたか…。」

「ええ…もしあれが人の仕業なのなら、犯人は"バケモノ"ですよ。ああ、これ、秘密にしてくださいね。」

 情報の応酬のつもりだろうか。裏事情を零した彼は、最近の輩は物騒になったもんだ、と苦笑しながら玄関をあとにする。その背中を見送り、緑は肩の力を抜いた。 

感想待ってます。

ふりがな、私が読めない漢字にふってあるので邪魔だったら申し訳ないです。

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