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イズナ使いの異聞奇譚「空っぽ」

「前のようにバケモノがたくさんいますか?」

「ううん。誰もいないわ。ミドリさんにくっついてるヤツもいないよ。」

 ハッと項当たりを触ってみる。たまに隠れているイヅナがいない。いつの間に消えてしまったのだろう。

「人ならざる者が通過できない…?」 


「ねえ、ほんとにこれなんの意味があるのよ。」

「…神域は壊れていない…となれば、悪い魔法使いの仕業とは考えにくいな…。」

「しんいき?これもしかして神さまの規制線なんだ?」

 首を傾げ辰美は神域があると思われる方向を凝視する。四方に張り巡らされているみたいだ。


 神域に人ならざる者は侵入できない。人ならざる存在はあの「バリケードテープ」により阻まれてしまう。

 やはり犯人は人なのか。

 緑にはどうしても犯人が人でないような気がした。その考えの原因は粉々になった狛犬だ。


「狛犬は…」

「あそこじゃない?」 

 狛犬が鎮座していた台座のみが左右対称に構えていた。あるはずの物がないというのは奇妙な感覚を起こさせる。

「ミドリさん、これって普通なの?」

「まさか。異常ですよ。」

 凛々しい狛犬が()端微塵(ぱみじん)になるとなると相当な圧力が必要になる。台座には削られた跡も砕けてもいなかった。


「なんか、もぬけの殻って感じ。」

 辰美がぺたぺたと触りながら言う。

「神社に行くと狛犬とか、そういう建物?とか…気配があるんだけど。シーンとしてるんだよね。」

「気配がない、と。」

「うん。無機質な、架空の世界にいるみたい。白い空間に映像当ててるみたいな。」

 抽象的な言葉選びにこちらも不思議に思う。緑にとって境内にある御神木の大樹も、手水舎(ちょうずや)の水面も常日頃と変わらない。香る自然の風が髪を撫ででいき、清々しいほどだ。


「あまり神社に行かないけど、鳥居(くぐ)ると空気変わるじゃない?それがなくて…なんて言えばいいの?―空っぽなのよ。いないの、誰も。」


「それは…」

 誰も―神使(しんし)も、神も?

 狛犬だけではなく、主祭神すら不在になってしまったなど有り得るのだろうか?神はどこへ行ってしまった?

 主祭神は土地を守る地主神だった。土地を守る神がいなくなってしまったら、町はどうなってしまう?

 山の神域が壊れていたのはこの出来事と関連している?


(手遅れなんじゃないか?)

 三ノ宮(さんのみや)たちは悪い魔法使いに気を取られている。やはり人の領域外に目を向けるべきではないのか。


「そういや神さまってどんな姿してるんだろ。見たことないなあ。」

 呑気に辰美が神を探す。

「私も見たことありませんよ。見てしまったら…」

 神ぐらいの上位の存在に好かれたら、普通の状態ではいられないだろう。辰巳の目が神をも可視してしまうのならあちらも「見返し」、認識してしまう。


「見てしまったら?なぁに?」 

「いえ…。それに神さまは我々になど姿を見せるほど暇ではないでしょうね。」

「そーだよね。」


―――

 あれから辰美と別れ、居間で、どうやってこのことを知らせればいいか悶々としていた。


 イズナどもがすいすいと空中を浮遊しているのを眺めながら、頭の中でシュミレーションをする。三ノ宮を呼び出し、地主神がいないのを話す―ダメだ。話が突破すぎて不審を買うだけだ。

 地主神の件は秘密にしておこう。たとえ地主神が行方知れずになっているとしても、人々は信じてくれないからだ。


 神使がいないのは事実なのだから、それを打ちあける。

 狛犬が粉砕されたのは明らかに人の仕業でない。台座もそれを物語っていた。―人ならざる者はあの空間へ立ち入りできないのに、何が起きたのだろう。

 全く想像ができない。もう一度書斎に(こも)って、神社について調べたほうがいいのかもしれないが…。


 ともかく辰美がかいた文字を三ノ宮に見せ、神域であるという実証を得られるのが一番なのではないか。


「こっちに来なさい。」

 漂い絡まり合っていたイズナへ招集をかける。餌でも貰えるのかと彼らはわんさかよってきた。 

 試しにメモ帳に書かれた文字を試しにイズナに突きつける。


 のんびりのろったかったイズナが文字を前にした途端、脱兎のごとく散り散りに逃げていった。


「なるほど。」

 一人になった緑は文字の威力に舌を巻く。御老公の紋所みたいである。半信半疑であったけれど、効力があるみたいだ。

 もし三ノ宮が信じなければ魔法使いの使い魔どもにこれを見せつけ、退散させれば奴らもびっくりして信じざるえなくなる。さぞかし面白い光景が見れそうだ。

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