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イズナ使いの異聞奇譚「悪い魔法使い」

 三ノ宮(さんのみや)は釈然としないまま帰っていった。それも当然であろう。人は神域に見も触れもできないのだから。

 人と言うのは複雑な側面を持っているものだ。ひょうひょうとした態度が鼻に着く美男なイメージが崩れ去ってしまった。もし緑が性悪なら言いふらすだろう、がそこまで堕ちていない。


 町を脅かす悪い魔法使い。形容が掴みにくいが、まとめるにそのネズミに会うとボケてしまう、魂が抜けたようになってしまう…。

 最終的に命を落とすのなら、命を取られたのも同然だ。

 人を腑抜(ふぬ)けにさせ―悪い魔法使いは無差別に魂を奪う。

 魂を奪うことなど現代の魔法では出来やしない。禁忌と定められた魔法を行使したに違いはなかった。

 魔法、それはかつて呪術や妖術といわれた。


(忌々しい、魔法など。) 


 緑の代に魔法使いはいない。祖父と母は呪術に精通しており、イズナを使役できた。イズナ使いの家系でありながら緑はあえてイズナを飼い殺しにする。それが緑の信念だからだ。


 話は逸れたが現代、魔法使いの界隈では反魂や呪詛(じゅそ)蠱毒(こどく)は禁じられている。反対に呪詛返しや吉事(きちじ)に関する「(まじな)い」が奨励された。

 よって悪は存在しない。

 善が支配するこの世で「悪い」魔法使いは存在してしまった。


(あれは奴の仕業だったのか。) 

 ネズミ、悪い魔法使い…点と線が繋がった。緑は破損したステンドグラスを眺める。誰かが投石しなければこんな手間かからずにすんだ、とガムテープで塞いだ―小窓は薄埃がかかり始めている。


 そう投石があった。その因果は石を投げ込まれる数日前だ。


 布団に入っていると物音がした。俗に言う草木も眠る丑三つ時、だった。

 泥棒。恐怖がぼんやりした心地を吹き飛ばす。寝室にある護身用の木刀を手に、廊下に飛び出した。―仏間からだ。

 足音を立てずに仏間に忍び寄る。居直り強盗をされたらたまったものじゃないからである。

 緊張で手汗が木刀に染み込む。吐き出される息をなるべく押し殺し、仏間の(ふすま)を開けた。

 巨大なネズミがいると最初は思った。暗闇でぎらりと光る魔性の双眸にギョッとしたが、盗人が手にしているのは先祖代々伝わるイズナの法である。咄嗟に木刀を振り下ろしメッタメタに攻撃した。

 いたいとわずかに呻きを上げ、盗人は家宝を離しこちらにアタックをかましてきた。よろけそうになりつつも後を追う。どたばたと板の間を走る音が物を突き落とすものに変わり、アスファルトを蹴って遠のいていく。

「くそっ…」

 骨董品が棚から落ち割れたり破損していた。確かに人だった。


 ネズミに見間違えるなんて、寝ぼけていたのだろうか。

 警察に届けようとその日は思ったが、イズナの法である竹筒を外部に見せるのは躊躇(ためら)われた。知らない人が見たらただの小汚い土産物だと思うだろう。それに荒れ果てた部屋にイチャモンをつけられるのもめんどくさい。

 灯りをつけて物が盗まれていないか確かめた所、幸い被害はなかった。

(なら、警察に届けなくていいか。)


 我ながらにひどい判断である。懶惰(らんだ)な生活を送り続けた結果の思考停止だった。

 事件が起き辰美が現れなかったら、そのままだらだらと日常を過ごしていただろう。でなければ三ノ宮も訪れなかっただろうし、こうして物事に意味があるとも気づかなかった。

 今までの生活がなんと無意味で幸せだったことか。悪い魔法使いの強盗未遂が遠い過去の出来事に思えるほど、日常が非日常に傾きかけている。


(しかし…イズナの法を盗もうとする意図はなんだ?)

 神域を荒らすのは神への冒涜…神力を弱めんとする思惑の現れだ。イズナの法を手に入れ使役するのは飯綱権現(いいずなごんげん)の加護を得たいから?


 神を貶し神に縋るというのか?


 矛盾した思考回路である。その複雑な心境が悪い魔法使いが人であると、緑は確信する。魔人でも超人でもない、ただの人間。

 人に神域は破壊できない。ましてや神使の依代である狛犬を粉々にするなど…。

(光の線は神域に近しいものに違いない…。違かったら…。母さん、おじいさん、どうか…。)

書斎は絶対に渡さない―緑は静かに祈った。

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