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イズナ使いの異聞奇譚「霊獣狸の若大将」

 気温差により発生した濃霧が町を覆い隠す。決して珍しいことではなく、むしろ見慣れた現象だった。

 シャッターを開けながら霧の湿った空気を吸い込む。土やアスファルトの濡れた匂いは嫌いじゃない。


「おはようございます。」

 白い視界から男の声がした。ふわりと(こう)が漂ってきて意表をつかれる。この匂いを苦々しく思う。


三ノ宮(さんのみや)です。緑さん、お久しぶりです。」

 町一の美男だと(ささや)かれる―寺の跡取り息子。近所の主婦たちは彼に会うと黄色い声をかける。いわゆるアイドル状態だ。

 緑は反対に彼の胡散臭い笑みが嫌いだった。 


「三ノ宮さん、いつぶりでしょうか。」

「そうイヤそうな顔をしないでくださいな。―少しお時間頂けないでしょうか?」

 整った顔をニタリと歪ませる。その仕草がまた狐狸を連想させるのだ。いや、実際に三ノ宮の寺院は化け狸の伝承が残っている。間違ってはいないのかもしれない。

 正体が狸だったらどんなにいいことか。


「店内でよろしいですか?部屋を掃除していなくて。」

(…する気もないけど。)

「ダイジョーブですとも!心配していたんですよ、町の呪術師集会にも来なくなって。わたくしの親父と姉さんあなたがもどうなっているのか気にかけていましてね!」

 空元気さに嫌気がさしながらも店内に誘導する。


「私は…もう魔法を使うのを辞めようと思います。」


「なにをおっしゃいますか!黄炉さんと青さんの(こころざ)しを踏みにじる気ですか?」

 祖父と母の名を出され心がぶわりと殺気立った。志し?踏みにじる?(冗談じゃない!)


「禁忌でない魔法を使った所で現実が変わるものか!…何も変わらない…ただの気休めですよ。私は、占いとか、魔法とか信じないんです。」

 ―あなたが町で魔女と呼ばれているのを知っています。なんでも魔法使いだとか、予言が出来るとか!

(私は魔女じゃ、魔法使いじゃない。ただの、無意味な…)


「あ、え、っとぉ、知り合いにセラピストやってる魔法使いがいましてね。良かったら紹介しますよ。」

 狼狽する三ノ宮に我に返る。危険な思想だと「魔法使い」たちの監視対象になるかもしれない。


「すいません。取り乱しました。で、用件はなんでしょう。」

 感情を切り離し、なるべく平生を保つ。声を荒らげて怒ったり、悲観的になるのはエネルギーを消費する。それに蓋をした悲しみが溢れだしてしまう。

 臭いものには蓋をする。そうしないと気が狂ってしまいそうだ。


「町の神域(しんいき)が壊されているのはご存知でしょうか?」

「神域…、それはまた。」


 突破な言葉に眉をひそめる。寺院や神社には俗世とは聖なる領域が存在する。異界ではあるが限りなく神の住まう世界に近い。ただ神域がどのような形容をしているのかは、人間達にも分からないのだ。

 人がいる領域より上位にあるのだから。


「なぜ壊された、と分かったのですか?」

「それは…私の使役している…タヌキどもが…ですね。」


 歯切れが悪くなった三ノ宮。先のように彼の寺院には狸塚という―それはそれは化けるのが上手く霊験あらたかな狸の大将がいたらい―霊獣を祀っている。霊獣の末裔とされている三ノ宮家は眷属の狸を使役していると、祖父が教えてくれた。

「タヌキたちが教えてくれたのですね。」

「はい…恥ずかしながら、異形からことの次第を…。」


「あなたの使役霊は自我があるのですか、意外でした。」

 イズナは自我などなく(と代々思われてきた)命令に従うだけの不確かな存在だ。狸たちが個々の自我を持ち、活動しているのは本当に霊位の高い人ならざる者なのだろう。

(母がいたら喜んでメモしていたろうに…。)


「これは内密に…奴らに怒られますから。」

 引きつった笑みを張りつけ三ノ宮は取り繕う。

「話を戻しますと町の神域を壊している魔法使いがいましてね。この前は狛犬が壊され、粉々にされてしまったんです。…我々は非常事態だと判断しまして、悪い魔法使いを早急に捕獲しなければと。」

感想待ってます。

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