イズナ使いの異聞奇譚「線」
「最初は切れた…規制線かガードレールかと思った。近づいてみたら光ってるし、なにか文字が書いてあったけど読めないし。」
光る(電飾ではあるが)ガードレールは高速道路にある、だが話を聞くに自ら発光している「線」だ。
線。境界を区切り、「線」引きする役割がある―やはり何かを分けて隔てていたのだろうか。
「文字とは…」
「英語でもないし、漢字でもなかったわ。見たことのない、象形文字みたいなのだった。」
「なるほど、興味深いですね。人ならざる者の文字…。」
神代文字など現代文字が確立される前にあったとされる文字や宗教関連のものなど、象形めいた文字は人界にも存在している。人ならざる者のものであるか、宗教的なものかはこの目で確かめないと判断できない。
それは叶わない、なにせ緑には線を可視できないのだ。
「みたら死ぬとかじゃないわよね?!」
「大丈夫ですよ、千切れていたのでしょう?何かのマジナイなら効力が切れているはずです。」
「良かったぁ…。」
ホッと胸をなでおろして、辰美はテーブルに突っ伏した。
「二度とあんな体験したくない…。」
「見水さんがますます心配になってきますね。」魑魅魍魎がウヨウヨしている異界でか弱い人間が生き延びられる保証はない。気が狂うか、最悪命を落とすか…。
「家族はどうしているんですか。捜索願いを出すとか、何かアクションを」
「お母さん錯乱しててさ。…シングルマザーだし、自分が何とかしなきゃって矢先に…。元々精神的に弱ってるみたいで、見水まで居なくなちゃってなんかもう正気じゃなかった…。」
―警察は家出だって!
衣舞は一人で妹のために動いていたわけだ。
「捜索願いを出しましょう。」
「うん。交番でいいかな、私捜索願いだすの初めてで。」
家出ではない明らかな動機がある。それに町の交番なら親身になってくれるかもしれない。…ただ犯人確保が優先であり、家出扱いになるかもしれなかった。
ともかく異常事態になっているのは間違いないのだ。
「ご家族に連絡をとりましたか?あなたも家出だと思われてしまいますよ。」
「大丈夫。わたし一人暮らしだから。東京に実家があるんだ。」
わざわざこんな辺鄙な田舎に引っ越してくるとは。隣町なら寮もたくさんあるのに。
「ねえ、泊まっていい?怖くなっちゃって…。」
バツが悪そうに辰美が言った。
「は?…寝る所なんてありませんけど。」
初対面に近い人物に何を言うのだろう、この娘は。
「人生初めてだよあんな怖い体験っ!これから寂しいマイホームに帰るって思ったら足が震えてきちゃった~!」
「あーもう、夜中に騒がない。…。…分かりました、毛布は貸してあげるのでそこら辺で寝てください。」
「ありがとう~助かる~。」
拝まれてどう反応していいか戸惑う。緑は他人にベタベタされた経験があまりない。家族でも辰美のようなスキンシップやコミュニケーションをとらなかった。
困ったものだ。
(寝酒でもしよう…。)
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