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イズナ使いの異聞奇譚「百鬼夜行?」

「離れなさい、なるべく音を立てずに。呼吸も気をつけて」

「わ、わかった…」深呼吸をしたのちゆっくりと歩き出す音がする。カタカタと控えめに自転車のホイールが回転するのが後ろから聞こえた。


「お守りか何か持っていますか、それを握りしめなさい。知っている限りで良いので…経を唱えるとか、助けを求めるのでもいいですから。」

「お守り、あった…。う、う神さま助けて」

 息を殺し呟く。彼女が目撃したものが百鬼夜行なら、唱えるべき呪文がある。けれども違かったのなら逆効果になりうる。

 百鬼夜行が都に現れるのは有名だが、この田舎町に出現するのは心外だった。光の線が気がかりだけれど今は辰美(たつみ)を避難させるのが第一である。


「ここまで来ればいいかな?」

 しばらく通話を続けていると辰美(たつみ)が口を開いた。

「百鬼夜行、見えなくなりました?」

「うん。」  

「どこにいるんです。」

「今…山ん中。隣町との境らへん、多分そうだと思う。」


 馬鹿なヤツだ。こんな夜中に山の中に出向くなんて。

 百鬼夜行に出くわしても不思議はないほどに山中は異界だ。それに…

「犯人がうろついていたらどうするおつもりで?もし出くわしてしまったら」

「わかってるよ、だけど…見水(みみず)がいるかと思って!電話があったのよ。ミドリさんと話してる時に」

 声を荒らげ辰美は食ってかかってくる。


「ああ…」あれは見水からだったのか。

「死体が見つかった現場に向かうって、もしかしたら妹がいるかもって!止めたけど聞いてくれなかったんだ!あれから大学にも来てなかったみたいで、家からふらりと出てったきり…」

「それは…」また身の危険を無視した行為だ。

「あいつ、馬鹿だから。こうなると後先考えなくなるの。あたしは馬鹿だけど分かる。こんなとこに妹なんていない。」

 息を吐き彼女は身動きした。ガサガサと雑音が入る。


「とにかく下山しなさい。無理だったら警察に助けを求めなさい。」

「うん…。大丈夫。道路にいるし、自転車だし。」

 弱気になっているのか、そんなことを言われた。この汚い部屋に人を上げるのは抵抗がある。けれども恐怖体験をした乙女の願いを断るのも引けた。


「しょうがないですね。」

「やったっ!じゃあ向かうね。」電話が切れ、気が抜ける。

 寝付けなかったとはいえ神経を逆立てる出来事で更に睡魔が遠ざかってしまった。いっそのこと朝まで起きていようかと思う。


(不気味なことが起きている…いつもの町ではなくなってきている。)


 水面下で何かが(うごめ)いている。平和という日常の下で。

(人間の生活圏ではない場所で。…異界が膨張し限界に達した時…人は混乱に陥る、なんて…馬鹿な。)

 「絵空事」がもんもんと渦巻く。(考えにたどり着いたとしても私には何も出来やしない。)

 シャッターを開けておかないと辰美が入れない。廊下に佇んでいないで、体を動かさなければ。


「ミドリさん、きたよ。」

 やることをやり居間でテレビを見ていると、ガララと戸が開く音がする。店内におもむくと辰美が髪を乱したまま立っていた。

「自転車は店の中に置いて結構ですから。」


「ありがとう。」辰美の声を聞いたイズナがふよふよと暗がりから現れる。赤い目が淡く光を灯し、常夜灯(じょうやとう)のようだ。

 魔の目を見つめ続けてはいけない、魅入られてしまう。


「どうぞ。もてなしはできませんが。」 

「うん。あのさ、前々から思ってたんだけど、このニオイなに?」

 鼻をつまみながら辰美はいう。

「ああ…台所にある果物、ですかね。腐ってしまったのでしょう。」

 近所のおばさんが箱詰めのリンゴを持ってきた。のをすっかり忘れていた。

「まじ最低~。換気した方がいいよ。」

 換気扇に辿り着くまでが大変である。「明日らへんにやって起きます。」

「本当ぉ?うわっ独居老人みたいな部屋じゃん…。大丈夫?こーゆうのセルフネグレクトっていうんだよ?」


「あなたって人はこっちが親切にしているのに…。」

「ごめん。思ったことが口から出ちゃう質でさ。」

 ごめんごめんと悪びれる様子もなく、足元のゴミを避けながらついてくる。独居老人みたいな部屋…否定はできないかもしれない。遺品整理で度々目にする光景に瓜二つである。


「うわぁ…ちょっとキツイ。」

 居間に到着するなり彼女はげんなりした顔をする。もう何も言うまい。 

「空きスペースに座ってください。」

「う、うん。」


 ぎこちなく空いた空間に座ると握りしめていたお守りをテーブルに置いた。

「ひゃっ!お守り裂けてるっ!怪談話みたい!」

「ほう。」パステルカラーのお守りがパックリと縦に避けている。握力の強さでこうは避けないだろう。鋭い刃物で引き裂かれたかの如く、生地が破損していた。


「本当に百鬼夜行だったのですね…。」

「えー。怖すぎ…。」


 身震いして腕をさすっている。彼女がこうして怖がっていられるのも運の良さと神仏の加護のおかげだ。きっとそうなのであろう。

  

「そういえば線とは、どのようなものなのですか?」

 光の線と百鬼夜行。気になるのは光の線である。

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