イズナ使いの異聞奇譚「辰美」
「ご主人はおっかないのにコイツらはかわい子ちゃんだね。最初はキモかったけどさ。」
さんざんな言い草で骨董をいじくりだす。
「ゴミ屋敷じゃん。」
「勝手に入ってきて散々ないいようですね。」
さすがに怒りの感情が湧いてきた。グツグツと煮だったお湯に脳みそが浸かって、温められている―変な想像が脳裏に浮かぶ。
(私が…怒っている…。)
何かに怒り、感情を露にするのは久しぶりな気がした。それほど心が死んでいたのだ。(…今まで、何を感じてきたのだろう。)
「でさ…あのー、ミドリさん?マジで怒ってる?」
「お気になさらずに。」
平生を取り繕い、辰美の話に耳をかた向ける。
「それよりここに見水って人来なかった?オンナで、清楚系の。」
確かに大学生がわざわざ尋ねてきた。女子で、清楚系の。妹を探していたけれど、あれから音沙汰がなく気にはなっていた、かといって心配して探し回りはしない。結局は他人事なのだ。
「ええ。来ましたけど。」
「何か言ってた?」
「妹を探していると言っていました。それと」憑き物筋であると。
「妹かぁ……ったく、なんであたしに言わないんだか。」
「ミミズさんとあなたはどんな関係で?あらかた予想はつきますが。」
「友人だよ。最近様子がおかしかったから心配してたんだ。」
「それはそれは。」見水 衣舞と名乗った女子大生の様子はひどく憔悴していた。私生活にも支障をきたしていたとなると、今頃…。最悪な事態になっていないと良いけれど。
「さっきの子と同じ学校だったんだよね、見水の妹。あ、あの子、犯人かも。あの子。だって山道にいたんでしょ?」
「…また絵空事を。…なんで知ってるのですか?」
「今の状況も随分絵空だけどね~。なんと、コイツが教えてくれたのです!」
寄ってきたイズナをつついて楽しそうだ。この不届き者の態度や言葉遣いを注意するのも面倒になり、話を戻すことにした。
「だからあなたも占い師をしながら見水さんの行方を探っていたのですね。」
「うん、これっぽっちも集まらなかったけど。」
ニヤニヤ顔に悲愴感が混じる。おちゃらけてはいるけれども、根は仲間思いの素直な娘なのだろう。(仲間、か。)
緑には仲間と言える人物はいない、それにもう辰美ほど若くはない。心から他人を信じるのは危険に繋がる。いつからかこうなってしまった。
いつから?分かりきっているくせに。
「だけど驚いたわ~。ミドリさんがこんなにすごい人なんてさあ~。」
「私はただの店主なんですがね。」
「いやいや、噂は聞いたよ!なんでも魔女なんだって?この町で一番物知りな魔女さん!」
目をキラキラさせて(ふざけているのか)おだててくる。子供らから聞いたに違いない、それか迷信深い老人から。
「はあ…それは周りの人たちが勝手に言いふらしているだけで…。」
「お見知り置きを!これ、名刺。」
ちっとも話を聞かずにやつは「名刺」をポケットから取り出した。手書きのよれた紙切れである。
「超能力者があなたを占います…」とお世辞にも綺麗とは言えない文字の下に電話番号とメールアドレスが羅列していた。
「名刺の作り方知らなくて。なはは」
「子供のごっこ遊びですね。」
「ひどぉ!じゃあミドリさんの電話番号教えてよ。」
ため息が漏れ、しょうがないとレジの棚からメモ用紙を取り出すと辰美はニカッと笑ってみせた。
これは叶わない曲者だ。
カンソウマッテマス……




