イズナ使いの異聞奇譚「人の形してるのに、中身が人じゃないやつ」
(人ならざる者の恰好の餌食だ…。)
隠された世界を見つめてしまう眼は、反対に向こう側の住人に見つめ返されてしまう―。
見つかってしまえばどうなるかは分からない。なにせ人でない思考回路をしているのだ。
「他に念力の力もあるかも、テレパシーだって―」
「…はあ」どうやら彼女は自分を過大評価しているみたいだ。
「宝の持ち腐れ、か…。」
「なんですと!私の有り余る超能力を消費するには大学生活だけじゃ足りないのっ!な、なんなのよあんた!」
「私は緑。町で骨董屋を営んでいます。」
「へえ、ふーん。みどり、ね。辰美っていうから、あたし」
自称超能力者はぶっきらぼうに自己紹介をした。辰美。最近の若者にしては古風な名前だ、と緑は思う。
「これだけは言っておくけど!ふざけて占い師やってるわけじゃないから。この世には超能力だけで解決できないこともある。だから占い師をしながら、町の様子を知らなきゃいけないと思って…。」
「ほう。真面目な取り組みですね。」
「うん…でしょ。―はあ、なんかやる気なくなっちゃったから帰るわ!」
コロコロと喜怒哀楽の忙しい人である。少し羨ましく感じて内心自嘲した。
「あ、良かったら占ってく?」
―――
急速な変化は長く続きはせず、再びぼんやりとした日常が戻ってきた。田舎町を揺るがせたニュースはあれから進展を見せず、世間の意識はすぐさま新たな問題に移っていった。バタバタとうるさかった上空もかなり静まり、山間の寂れた町は再度静寂を取り戻す。
こちらの方が割にあっている、と思う。
たまに舞い込む遺品整理を手伝い、閑古鳥が鳴く店内を一瞥し、居間でうたた寝をする。
それが自らのルーティンなのだ。
あの衣舞という女性は無事に妹を見つけたのだろうか?
うとうとしながらはるか遠くになった記憶を呼び起こし、無責任な問いを投げかけた。衣舞は何も言わない―当たり前だ。
カタン、と何か物音がした。
来客か野生動物か…。もしかすると盗難かもしれぬ。心当たりがあるので、眠たい頭を叱咤して店頭に向かった。
「あ…」
店先に見慣れない来客がいる。
西洋の人形をじっと眺め、髪をくるくるといじっている。物思いに耽る様相ではるか上にある商品を見あげていた。
やけに青白い肌が暗がりに浮かび上がる。虚ろな目がこちらをとらえた。死者の顏が過ぎりゾッとしたけれど、瞬きすればどこにでもいる年頃の生者であった。
「ん、…。」
道祖神の前で佇んでいた少女である。
「やっぱりいたぁ、こんにちわ!」
ハイトーンボイスを弾ませて彼女は近づいてくる。否が応でも制服に目がいくも当の本人は気にしてさえいなかった。
「えっと、あなたは」
「挨拶してくれたから嬉しくて。」
無邪気の化身でにっこりと笑う。どうしていいか、まごまごしていると新たな来客がやってくる。
「うわ、なんか変な匂いするけど死体遺棄とかじゃないよね?」
金髪の「自称超能力者」、辰美である。
「…。」満面の笑みがフッと消え、虚ろな目が彼女をとらえる。視点の定まらない死者の眼。冷や汗がでてきた―やはり、この子は。
「あれ?それ、どっかでみたことある制服じゃ~ん?」
わざとらしくおどけてみせる。対して少女は興味を失ったのか、スタスタと暖簾をくぐっていった。
「あ、あの」
何かを言いかけたのであったのでは?緑は彼女の後を追おうとする。
「やめときなよ。なんかヤバいわ、アレ。」
ふざけたテンションから一転。辰美が腕を取り、凄んだ気色で阻止してきた。
「いるのよ。人の形してるのに、中身が人じゃないやつ。」
―人の形してるのに、中身が人じゃないやつ。
人ならざる者とはまた違う存在なのだろうか?ただ、あの子は人間にみえた。
「関わるとろくなことにならないし、とにかくヤバいの!」
「…よく分かりませんが、そうなのですね。」
必死な形相に思考を停止する。赤の他人にここまでするのは彼女なりの経験があるのだろう。
「…よくもまあ。住所も教えてないのに。」
「あんたについてるその変な生き物が教えてくれたんだ。」
どうやらイズナが教えてしまったらしい。天井付近にわらわらと固まっているイズナらを睨めつけると、知ってか知らずか散り散りに逃げていった。
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