イズナ使いの異聞奇譚「怪しい占い師」
なんとなく眠れず、夜の散歩をする。さして珍しいことではなく心がざわついた日や不眠なら夜中でも朝方でも外に出向き、徘徊する。田舎町は都会より電灯が少なく、夜闇も濃い。けれども緑は臆せず歩く。
夜の風や匂いを浴びると思考が整頓される気がするのだ。
歩きながら衣舞と世間を騒がせているニュースを思い出していた。
被害者は私立の生徒だと報道機関は告げていた。半年前から行方不明になっていた、その学校の生徒ではないかとメディアは推測していた。
林道でみかけた少女が脳裏に浮かぶ。猫に餌をやり、こちらに気づいた。不自然な光景だった。なにより少女はニュースで取り沙汰されている生徒ではない、顔立ちも雰囲気も違っていたように思う。
不気味なのは少女のきていた制服。
彼女はあの学校の制服をきて、遺体が見つかった林道の近くにいた。
まさか遺体から衣服を剥ぎ取り、それを着ているのではないか?
(そんな馬鹿な…)我ながらに現実離れした想像をする。いいや、現実離れした存在が隣にいる。一匹のイズナが夜の散歩に同伴するのは珍しい。
「お前がいるのだから、世の中なにが起こっても不思議はない。」
意志があるのかないのか、イズナは鳥類めいた仕草で首を傾げる。言葉は分からぬが聴いているぞと言わんばかりに。
魔はイズナのように人界に紛れ込んだり、異なる領域に住んでいる。人には山を境に異界とする―他界信仰があり、事実山は人智を超えた存在が「居る」のだから。
(あれは人でないナニカだったのかもしれないな。)
「そこのお姉さん。占いやらない?安いよ。」
「…。」
突如横矢をいれられた。-占い師がいる。
こんなド田舎で占いをしている猛者がいるとは…。いかにもな怪しいいでたちの女性はにやにやと不敵な笑みを浮かべている。
「安いから、ねえ。」
ジジババには可哀想な若者として恵んでもらえるかもしれぬ、が世間はそう甘くない。都会に行ってやればいいのに。
「……占いなんて、あんまり信じたくないんです。」
「まあ、分からなくないですよ。あなた、ちょっと変わってますね。なにかこう、得体の知れないものを連れている。」
「見えるんですか。」
水晶をわざとらしく撫で回していた手がすっと止まる。
「自覚なさっているんですね。」
「ええ。あなたこそ、これがみえるなんて。よっぽど異質な目を持っているみたいですね。」
回虫のように長いその体を鷲掴み、彼女の眼前に突きつけた。
「それとも苗床にされたいのですか?」
「な、なえ?!ちょっとやめてよっ!あたしはソレに付き纏われてると思って助言してあげようと思ったのにっ!」
ぎょっと後ずさり、占い師はブロック塀にへばりつく。妖しげに微笑んだ化けの皮が剥れ無様なものだ。
「それはそれは。とんだお節介です。」
「ちぇっ…な、なんなのよ、これ。」へたり込むように彼女は椅子に腰掛けた。
「妖精のようなものですよ。取り憑かれたくなければ忘れることですね。」束縛をとかれイイズナは呑気に宙を漂い始める。いつもの定位置である項の後ろへのんびりと進んで行った。
「妖精なの?―ま、まあ、お金はとらないから、一つ助言してあげる。人前でみせびらかすのはよした方がいいと思うわ、それ。」
街灯が落ちかけた金髪を照らす。怪しげな占い師の正体はまだ幼顔の「こども」にみえた。
部屋着さながらのラフな格好と見合わない占い道具。学芸会でもしているのかと突っ込みたくなる有り様だが、本人は本気みたいである。
「悩み事があるなら聞きますよ。」
「いやいや!むしゃくしゃして占い師やってるわけじゃないしっ!」
「若い娘がこんな夜遅くに店を構えて…強姦や強盗に遭ったらどうするんですか。」
「おねーさんだって若いでしょ。それにこんな田舎町、犯罪者もいないわよ。」
「占い師」はぶうたれる。まだ営業するつもりでいる。
「…どうなっても知りませんよ。」
「大丈夫。私、超能力者だから。」超能力者。とんでもない言葉に緑は固まった。
「ほら、その妖精?普通なら見えないんでしょ?妖精だけじゃない、私にはなんだって見える。きっとオーラだって読めるし。」
確かに己はイズナを可視できても幽霊や他の怪異を見定める力を持ちえていない。
それが普通なのだ。
この娘はすべての「人ならざる者」を可視できるというのか。
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2019/12/04 内容が矛盾している箇所があったので修正しました。




