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イズナ使いと異聞奇譚「来客」

 シャッターを開け、埃っぽい室内を換気する。暗がりが蟠る廊下を見つめると自分が独りなのだと実感させられるけれど、それを嘆く気持ちすらなくなってしまった。

 しんと心は凪いで喜怒哀楽は薄れてしまっていた。ひとりぼっちになってしまった苦痛から逃げるため、心がとった防御なのだろう。楽といえば楽だった。


「よいしょと…」 

 流れ作業で部屋着に着替え、テレビをつけると何やら物騒な事件が起きたと大げさな音楽と共に報じられた。これは連日同じ内容になるなと不謹慎な考えをした矢先、現場が町の近くだと知る。隣町と中間地点の山中だった。

 さっきのヘリコプターは報道陣だったのだ。


 衣服は見当たらず、惨殺された少女は雑木林の中で発見されたという。身分証は近くにばらまかれ、学生鞄が幹にひっかけられていた。

 無惨な事件にメディアはひっきりなしに現場を撮影する。近所の人にインタビューをする。閑静(かんせい)な、のどかで平和な、ごく普通な田舎の町。テレビのアナウンサーが常套句を使う。騒然としている町を存分に映す。


 テレビを眺めながらスナックを頬張る。昨日食べたカップ麺の容器がテーブルに転がって、新聞をおくスペースがない。だるさが台所まで持っていく気力を奪う。部屋は俗に言う汚部屋(おべや)と化していた。


いつからかそんな風になってしまった。きっとこれからもそうなのだろう。

 怠惰に身を任せ店番すらしなくなったのも、部屋の掃除をしなくなったのも、身だしなみに気を使わなくなってしまったのも…。


 田舎町の衰退していく空気がそれを許す。気だるい午後の雰囲気が街を充たしている。若者は都会に出て老人ばかりだ。

(片付けは明日しよう…。) 


―――

 なにかしらの夢を見ていた気がする。意識を睡魔に持っていかれたのを気づくのに時間がかかった。

 すいません、と女性の声がした。滅多にこない来客に、緑はわずかに驚き身なりを整えた。

 眠っていたことを隠し、店先に出る。


 暖簾の前で清楚ないでたちをした若い女性が立っている。最近流行りのメイクをした、20代始めぐらいだろうか。どこにでもいる若者。-若者だ。

 物珍しい視線を向けてしまったのか、女性は微かに息を飲んだ。


「あ、あの。」 

「何をお探しでしょう?」

「えっと、そのことでなくて。-あなたしかいないんです!」

「…。はあ。」いきなりの告白にどうしたものかと頭を掻く。多分何か違う意味で言っているのは分かるけれども。

 彼女は堰を切ったように迫ってきた。


「あなたが町で魔女と呼ばれているのを知っています。なんでも魔法使いだとか、予言が出来るとか」

「落ち着いてください。それは単なる噂で、私は…」


 -おっかないモノはイズナだけで十分だ。

 イズナという生き物が自分の家に住み着いている。細長いイタチの如く異様に目が多い、不気味な生き物である。明確な記録はなく、何代に渡ってイズナを世話してきた。


「魔女…ですか。」

 イズナは自分の家族にしか見えず、人に憑き、障り、勝手に繁殖していく厄介な「人ならざる者」だった。

 普段は物陰に隠れ、たまに緑へ餌をねだりに来るぐらいだが-周囲からは憑き物を飼っていると怯えられた時代もある。「イヅナ使い」は魔女と呼ばれるには相応しいのかもしれない。


「妹を探して欲しいんです!」

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