開闢のミーディアム 3
「私は幸せにやっているから」
「相変わらず、ずるいヤツ──」
エベルムの輪郭が溶け、小柄な人型になった。
「ユートゥー、あんたを尊敬していたよ」
まぶたを開けるとユートゥーはこちらの手を離し、自らの掌を握りしめていた。
「…はあ、こんな身分になってさあ。こんな出来事があるなんて思わないよ」
ユートゥーはあるはずのない段差に腰掛け、ため息をついた。
「彼は越久夜町で死ぬ間際までアナタに会いたがっていました。でも、だからってエベルムがした事は許されないと思います」
すると彼女は表情をさらに曇らせた。
「ああ、分かる。アイツは許されないだろう。輪廻も回らずに無明で消える…それは重々承知だったろうね。エベルムは私の最初を知っていた。私が、アイツに願いを叶える手段を叩き込んだ。その顧兎と再び会えるのを、それだけを望んでいたのだろう。それはこっちもそうだったよ」
「えっ…」
「アイツはどこまでも馬鹿な子だった。救いようがないくらいね」と小さく呟いた。
「けどお互いそれまでだっただけさ。それしかないんだ、残ったものは」
その陰鬱とした気色を前に何も言えなくなり、ふがいなく俯いた。
「あーあ、身の上話は嫌いなんだ。辰美、願いを叶えるってのはさあ、酷いモンなんだよ。やめといた方がいいよ」
すると別れの時間がやってくる。
「…じゃあ、もう二度とは会えないが…元気でやってよ」
「は、はい」
月光が増し、視界が白さに埋め尽くされた。




