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開闢のミーディアム 1

 月の子が支配する宇宙で、ゆがみ、よどむ気が満ちる原初─混沌とした空間に突如、摩訶不思議な"巨人"が生まれ天を押し上げた。

 辰美は必死に天井を押し上げた。閉じていく時空をこじ開ける。


「開いてよ!」

 このままでは太虚は自壊していく。幾万、いや、世界の全てを記録したデータが消えてしまう。

 帰さないと言われた気がした。太虚に住まうという全知全能の神より、更に深い場所にいる深淵の主から。


「開けええ!」

 ふんばり、体全体の力を腕にかける。重圧に負けてしまいそうだ。

「アタシを帰してよ!」

 最後の力を振り絞り、叫びを上げ、空を押し上げた。

「アタシは佐賀島 辰美だ!アタシが帰るべき所に帰るんだからあああ!」

 崩れて潰そうとしてきた天井が軽くなる。込めていた力のあまり、辰美は跳ね上がる。


 ──開闢を巻き起こした。


 跳ね上がり宙を舞う身体が重力に負け、再び降下する。やがて落下速度は音速を超え、脆い肢体がバラバラになり、四散していく。目を失い、カオスに飲まれる。底なしの海に落ちていくように沈殿していく。

 やがて辰美は"体を伏して"、終わりだと悟る。役割はおわったのか。

 深淵の、奈落に落ちた。もう逃げられはしない。誰かが笑っている。性別不明の高笑いだけが辰美を嘲笑う。お前は終わりだと。


「辰美。辰美、こっちだ」

 悔しいと泣きたい気持ちを垂れ流していると声がする。


「誰?」

 喉がないのに問いかけができる。

「私だ。鬼神であった者、一度出会っただろう」

「…鬼神さん?」

「手をとれ。私を、認識しろ」

 頭の中にいた鬼神を必死に思い浮かべた。子供。民族衣装。黄緑色の瞳──光が集まり、深潭を照らした。煌々と、キラキラと太陽のような──安心する光が爆発した。

「鬼神さん。アタシ…怖かったよ!死んじゃうかと思った」

「大丈夫だ。君は生きているよ」


 眼球に蟠っていたカオスが浄化され、淡い光をまといながら涙となって"下へ"、昇っていく。

 伏したと思っていた"奈落"は天井だった。神々より上位の存在が住まう、いや、俯瞰して遊んでいる悪趣味な眼球──レンズの上にいたのだ。


「帰ろう。山の女神のいる時空へ」

「帰る…二度と、深淵には落ちたくない」

「落ちたんじゃない、昇ったんだよ」

 遠くから見なければ、いや、こうやってたどり着かなければ自らが逆さまで暮らしているなんて気づかなかっただろう。誰かの目玉に、カゴの中に入れられ観察しながら一生を終えるなんて、誰も思わないだろう。


「散々だよ、こーいうの」

「確かにね。笑っちゃうよ」

「これ、誰の目玉なのよ」

「月の子の目玉だ」

「でっかいんだね…」

 先程、高笑いしていたのも月の子だろうか?月の子とは一体全体何者だろうか?


(疲れたから、いいや…分からなくても)


 疲労感に任せて寝そべっていると、眼下にたくさんの光の粒が見えた。個々の魂が発している光なのか、数多の時空が持つ光なのか…まるで天体観測衛星で撮られた美しい銀河みたいだ。

 月の子はこの景色を見ていたのだ。


「辰美。そろそろ目玉から降りてくれないかな?」

 ユートゥー・ノーモースター・スアヲルシィがいつの間にか横にいた。びっくりしたが、彼女はそれどころじゃないらしい。

「ど、どうすれば」

「私に掴まって」

 上質なコートを羽織った体に抱きつくと、どういう原理か宙に浮いた。足元も安定し、透明な地面があるが如く足を下ろせる。

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