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受容 2

 麗羅は…ハンターとして働く時間に満足を覚えていたのは事実である。しかし学生時代のない、親も友達もいない、"可哀想"な身分でいるのが耐えられなかった。


 金のために身売りした事もあった。だが、店にしつこく言われてセーラー服を着させられ、身分を偽った際に、他人になれた気がした。

 セーラー服を着て、居るはずのない家族を想像し、所属した気になっていた。

 佐賀島 辰美はクラスメイトにいじめられ、泣きながら耐え忍ぶために、あの屋上にいた。

 あわよくば死のうとしていた。しかし麗羅には贅沢に見えた。彼女に破壊衝動を覚えた。無意識の内に──



「ごめんなさい。人生を壊して」

 大嫌いな見車 スミルノフと同じ事をしていた。あんなに大嫌いで、殺害してしまった見車の真似事をしてしまうなんて。


「…さ、行こう。現実の世界に」

 ──私たちがなんとかしなきゃ、いけないの。私たちが創り上げた妄想をぶち壊すのは私たちしかいないの。

 自ら築き上げた世界への──他力本願で押し付けてしまった破滅願望を否定するなんてお笑い草だと、麗羅は思う。今だってこの非常事態を望んでいる、楽しんでいる非道な部分がある。

 神なんて、いない。

 辰美は改めて思い、立ち上がる。佐賀島 辰美の手をきつく握り、瓦礫を登り出す。


(生きたい。まだ生きていたい)


 ──地上に上がろう。


「う、うん…」

 覚束無い彼女の手を引いて瓦礫にのぼり始める。人ひとりの重みを感じ、瓦礫がわずかに崩れた。硬い無慈悲な破片が足を傷つける。亀裂の隙間から平生の宵ではお目にかかれないファンタジックな薄暗い空が広がっている。紫色のようなファンシーな空、淡いピンク色の雲。UMAは空まで改変してしまったらしい。

「くそったれ…!」

 外へ一心不乱に手を伸ばした。光が瞬く。


 暑い夏の日差しに焼かれたコンクリートの床に掌が触れる。

 気がつけば、二人は倒壊する前の屋上に佇んでいた。


「ここは…」

 遠くに高層ビル群がある。たくさんの住宅がある。入道雲が生まれていき、空を旅客機が飛んでいる。

 町の喧騒が聞こえる。電車、車のクラクション。自転車のベル。空気がビュウビュウとなびく音。


「あなた、何て名前なの?あの時、聞きそびれちゃったけどさ」

「あたしは…。…。佐賀島 辰美」

 佐賀島 辰美は目を見開き、こちらを凝視してクスリと微笑した。

「ご、ごめんなさい。アナタの真似をしてしまった。偽物なのに」

「ううん。辰美、私は…偽物だとは思わないよ」

「えっ、だ、だって」

「あなたと私、全然違うもん。佳幸さんは誤解してたけど、あたしだって幸せな人じゃない。必ずみんな、どっか不幸なの」


 風に吹かれながら、彼女は吹っ切れた様子で伸びをした。

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