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受容 1

 (いわや)がある。ガサツな岩肌。ひんやりとした空気。どこからか聞こえる潮騒。

 窟の奥は漆黒の闇だった。

 あの先に道はあるのか、あるいは無なのか。それすらも予想がつかない。みちすじ。窟は道を開いてくれるはずだ。


「辰美さん、いるんでしょ」


 麗羅の記憶を呼び覚ます。彼女の記憶から、佐賀島 辰美へたどり着くしかないからだ。

 悪い噂も変な生物も邪な思念も思考する生命がいる限り、増え続けていくだろう。人類とはそう設計されている。神が、そう作ってしまった。

 神。

 脳裏に揺らめく記憶がある。生まれた時からある、自らに似た神がいて死者の顔をして笑っている。──誇大妄想。


(神なんていない。何故ならば、…私は今こんな事をしていないわ。柔らかくて暖かい場所で吾妻と話している。ああ、幸せな気持ちになる。薬物や現実から逃げなくていい──)


 思考は周囲へ向けられる。天井から瓦礫やらがなだれ込み、運良くトイレへ収納されたようだった。

 ──地上の建物が破壊された。それだけは理解できた。我に返るや雪崩込んだコンクリの破片とすすぼこりが空気を汚染する。咳き込んで顔面に吹きかけられた埃を払い、新鮮な空気を求めて喘ぐ。

 そうだ。

 砂埃を吐きながら窟の答えを悟る。あの時間に戻れというのか。


 トイレから出ると瓦礫の中、壊れてしまった屋上にあった簡素な階段に誰かが座り込んでいる。



 佐賀島 辰美だ。

 佐賀島 辰美はぼんやりと座り込んでいた。ただ空を見つめる、マネキンみたいだった。



「辰美さん、起きて」

 駆け寄り揺り起こそうとするが、反応がない。

「…私だよ。ライラ、迎えに来たよ」

 そう言った途端、ガラス玉だった眼球に意思が宿った。


「ライラさん…?私は…?」

 挙動不審に周囲を確認すると、彼女はこちらを見た。「貴方は本当にライラさん?」

「今は違う姿になっているんだ」

「そっか…あの、ここはどこ?瓦礫だらけで…私は誘拐されたの?」

「ううん。大丈夫、あの──」

 来た道を辿ろうとしたが、窟は消え失せ、瓦礫だらけの空間に閉じ込められていた。


「不思議な夢を見てた。知らない人になって、ハッピーエンドを目指すんだ」

「それって…」

 自分の事ではないか?思わず眼球が収まるまぶたに触れる。


「貴方にそっくり。貴方はライラさんだったんだ」

「…うん」

 すると佐賀島 辰美は頭を深々と下げた。

「ごめんなさい。私、噂を広める気なんてなかった。お金もらえてラッキーぐらいにしか思ってなかった…なのに、こんなコトになって…!」

「い、良いんだよ!麗羅があのUMAを思いつかなきゃ、ここまで辰美さんを巻き込まなかったはずだし!」

 謝る女子高生を宥め、辰美は自嘲した。

「私も佳幸みたいに、憧れていたのかも。アナタみたいに学校に通う、女の子に」


 羨ましかった。可哀想な自分が憎らしかったのだ。

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