可哀想 3
「可哀想だね」
「…憐れまないで」
「可哀想に」
「お前だってそうだろ!自分がないくせに!貧民で、せこくて、憧れてばかりなくせに!憐れむなよ!仙名 麗羅!」
「アナタに似ているけど、もう違う。佐賀島 辰美になって私は変容した」
「…は?お前が佐賀島 辰美?」
半笑いで唇から血を垂らした。赤い液体はとめどなく、制服を汚していく。彼女から人間と同じ血液が流れていくとは思いもしなかった。
──この娘はどこまでも人間なのだろう。
「無明に還ろう」
「いやだ…罪は償ったでしょ…光路さんに、佐賀島に、私…」
「…うん」
「私にはあの場所しかなかった…光路さんと、ナギさんと…私から全部奪わないで…」
声を震わせて彼女は懇願してきた。何も言わずに見つめていると深く俯き、髪を垂らし、謝る。
「光路さん…ごめんなさい…わたし…守れなかった…ああ…」
「人の命を奪ってしまったら、その道しかないの。私も見車を殺めてしまった。だから、無明に行かなきゃいけないんだ」
項垂れていた佳幸は静かに言う。
「…佐賀島はあっちにいる」
「そう」
教室の扉の外を指さした。小窓の向こうには岩肌が見えた。廊下ではなく、窟があった。
「麗羅。貴方は終わる事が悔しくないの?」
「…悔しくない。無明に行く事は決して終わるだけじゃないよ。あと、私は佐賀島 辰美」
「貴方が佐賀島 辰美だったら、学校で仲良くできていたかもね」
「アタシには友達がいないから」
「…そう」
剣を引き抜くと、鉄の塊は形を失い右手には何も無くなった。
(月世弥。ありがとう)




