可哀想 2
「何でお前がここに来れるの!」
荒れに荒れた教室の中央に独り、女子高生が立っていた。彼女は突如現れた部外者に容赦なく罵声を浴びせた。
見水 佳幸。
死体の山が築かれた教室の支配者。
「アナタが佳幸」
「そうだよ。だから何?」
「佐賀島 辰美はどこ?」
部外者は虚勢をはっているみたいだ。不愉快だ。
「出ていって。ここは私の空間なの」
不愉快そうに言い放った佳幸に、辰美は冷静な素振りで首を横に振った。
「アナタに聞かなきゃいけない事があるんだ。佐賀島 辰美の居場所を教えて」
「嫌だ!」
拒絶され、そこら辺にあった椅子を投げられる。
「私の邪魔をするな!消えろ!」
「教えて」
近寄るも、いきなり平手打ちされ、どつかれる。今まででどれよりも弱々しく、人間らしい攻撃だった。
「出てけ!出てってよ!」
「嫌だよ!」
反対に平手打ちをすると、ぶたれた頬を抑え、おぞましい目付きで睥睨してきた。
「勝手に入ってきたのはお前の方だろ。しんじゃえ」
床に転がっている遺体の塊からタコの足が大量に生えてくる。粘膜をまとい、辰美の肢体に絡みついた。
「お前もコイツらの仲間になれ」
「ぐえっ…や、やめて!」
剛力で締め付けられ、息が苦しくなる。このままでは骨や臓器が潰れてしまう。
「死ぬのは嫌だ…!」
(ここで終わるの?)
──私は…町に尽くしたのに!!何故?!
悔しい気持ちが湧き上がる。
──どうして!
手を伸ばす先には──幸せだった頃の光景が見えた。朗らかな昼の日差しの中に見水 衣舞がいた。緑と、三人で小林骨董店の店先で他愛ない会話で暇つぶしをしている。
二度と戻らない幸せな時間だった。
もう、二度と。返ってはこない。
──どうして?どうして?ワタシはナニカ悪いことをしたノカ?
「死んでたまるかっ!」
刀にしてはずんぐりした重厚な剣の柄の冷たい感触が手のひらに現れた。右手を見やると、月世弥が気にしてやまなかった剣が握られていた。星の瞬きが刻まれた剣はどこか血で汚れているように見えた。
剣の表面は鈍く怪しい光を発し、鋭い刃先が際立っている。辰美はタコの足を切り裂いた。
「お前なんなのよ!なんで、そんな物持ってんのよ!」
佳幸が地団駄を踏み、癇癪を起こした子供みたいに泣き叫ぶ。いや、子供だ。
女子高生などまだまだ子供だ。
子供にしては重たい現実を背負わされて、苦しんだ。可哀想。
(そうか)
しっかりと地面に降り立ち、歩み寄ると佳幸の心臓を剣で刺した。泣きわめいていた彼女が目を見開き、歯を食いしばった。
「う、…いた…い…なんで、あの子じゃなくて…私なんだよ」
「アナタが干渉者の親玉だから」
「いつも、いっつも私ばかり!アイツは──!」
干渉者の親玉にしては予想外に弱弱しく、幼稚で可哀想だった。ないものねだりで、受け容れて欲しいと指を咥えている。




