魂呼ばいとあの世 2
『辰美さん。わたくしに体を貸してくださいませんか』
しんと静まり返っていたチー・ヌーがいきなり話しかけてきた。出現はしていないが、脳内に直接語りかけてくる。
「シンシアさんが何か話したいみたい」
「シンシア?干渉者のか?」
「まあ…」
それを聞いた有屋は悩みつつも「良いわ」と許可を出した。
「こんにちは。わたくしはアトラック・シンシア・チー・ヌーと申します。皆さんはわたくしの力を使って、何やら行動を起こそうとしていますけれども、アトラックでも白痴の霧瘴には一ミリたりとも近づけないでしてよ。周りに居る上位のアトラックたちが守っていますから」
(ううっ。私の体でその口調恥ずかしい〜)
チー・ヌーは大胆不敵な態度で足を組んだ。
「それにわたくしは辰美さんか月世弥にしか、事実を話したくありませんわ」
「困るよォ〜お嬢さん!ソコをナントカ!」
わざと下に出て頼み込む厳つい虎男に、彼はつっけんどんにそっぽを向いた。
「チー・ヌー。私たちは貴方と友だちになろうとしているの」
「露骨だなぁおい」
月世弥がやれやれと匙を投げる。「…で、作戦とはどのようなモノなのですか?」
「魂呼ばいをするわよ」
「えっ!辰美をこの世に呼ぶの!」あまりの驚きに、辰美は主導権を奪ってしまった。
「魂呼ばいというよりは、"魂呼ばれ"ね」
竹虎が"魂呼ばれ"という言葉を聞いた途端、僅かに焦った。
「ンだそれは?聞いた事ないぞ?魔法使いどもの邪術か?」
「魔法使いの界隈では現在、蘇生魔法や口寄せは禁止されているけれど、この時空は例外。あと、魂呼ばれは私が今思いついた造語よ」
滔々と語った彼女は古びた巻物をデスクから取り出した。
「ぜってえ〜やめた方がいいぜ。禁止されたヤツはリスキーってのが付き物だろ?」
「大丈夫よ。いい考えがあるから」
「その巻物…もしかして鬼神さんの」
星守一族の秘密を暴いた際に譲ってもらった巻物だった。いつの間になくなっていたのだろう?
「貴方が寝ている間にネーハに盗ませてもらったわ」
「最低じゃないすか…」
有屋は大仰に咳払いをし、仕切り直す。
「これには魂呼ばいについて書いてある。星守一族に施した西洋や近年の概念に通ずる魂呼ばいではなく、真性の、正規の処方よ」
「地主神の社殿に祀られるくらいだから、とんでもないモンなんだろうな」
竹虎がのたうつ文字を眺め、ううむと唸る。
「そうでもないわ。平安時代からある、普遍的なやり方ね」
「へえー」
「これを書いた人はこちらをやる予定だったのかもしれない」
巻物にのたうつ古文を辰美は解読できない。神文字でなければこの眼球は自動翻訳してくれないみたいだ。
「これより越久夜町UMAハンターズは魂呼ばいを実行する」
キメ顔をした有屋 鳥子にUMAハンターズは賛成の拍手をする。
(越久夜町レンジャーがなかった事になってる…)




