正義なる誤診 2
「無理にジャッジメントしなくていいんじゃないかな」
「ありがとう。気遣ってくれて」
憂いの混じる声音でネーハは礼を言う。
「私はルール違反を起こそうと思う」
「…ネーハちゃん…」
「ジャッジメントを放棄する。私の答えはそれだ」
橙色の瞳を陰らせ、密やかに宣言した。頷いて辰美は肯定してあげる。
彼の判断を野次る権利は無いのだから。
「これだけは伝えとこうと思っていたんだ。カオスに近いこの町なら、集合的無意識へたどり着けるはず。そこから佐賀島 辰美に会いに行けば、彼女と話せるよ」
ネーハ・プラカーシュが、いつになく真剣な様子で言う。
「君が正義であり続けるならば蕃神の光者は味方であり続ける。彼らはどこにでも現れる。きっと助けてくれるさ」
「ね、ネーハ──」
「ぐあ!」
いきなりハイヒールに似た靴がネーハの頭を蹴り飛ばした。
前置きなく現れた部外者に、彼は器用に猫のごとく体勢を取り着地した。
「貴様は!」
「やあ、蕃神の光者。寝言をのたまっていたから、起こしてやったぞ。モーニングコールはどうだ?」
尊大な態度で降臨したのは坐視者の最高司令官、マハスティだった。
「マハスティさん、びっくりしましたよぉ!」
「辰美。大丈夫だったか?洗脳されそうになりおって」
「い、いや、ここ仮眠室ですよ?!」
仮にも神霊が張った結界の中にいるはずだ。壁も天井も傷一つなく、どこから現れたのかも分からない。彼女は床に着地すると服のシワを直した。
「どこだこのホコリ臭い場所は?」
「ええっ、あの、仮眠室です…」
「監禁されているようだな」
「ま、まあ」
やれやれとため息をつくと、ネーハを睨みつけた。
「何を企んでいる?」
「ネーハちゃんは何もっ!ただ話してただけです!」
誤解を晴らすために必死に訴えるが、マハスティはやれやれと肩をすくめてみせただけだった。
「蕃神の光者には気を許さぬ事だな」
「それはそっくりお前らへの言葉だろう!」
両者はいがみ合うも、最高司令官はこちらに用紙を渡してきた。
『☆坐視者は何のために座視しているのか?☆
・宇宙の平和調停員
・時空の内容を記録する要員
・中立要因
坐視者はこんなにも安心!なぜなら──』
(怪しいパンフレットみたいなレジュメだ…)
「蕃神どもなどに、我々の座を奪われてたまるか」
マハスティが怒りをにじませ、近未来的な構造をした銃を蕃神の光者へ向けた。
「け、けどそれじゃぁ独裁になっちゃうんじゃ…」
「まさに!マハスティ・アチャ!貴様らはいつもそうだ」
「黙れ」
近未来的な銃のトリガーが引かれ、銃口から飛び出したのはネットだった。絡みつき、動きを封じられたネーハが唸った。しかし最高司令官は鼻で笑ってみせる。




