太陽と金星 6
「そうかよ」
二人に距離はあるが、ペンションに来た時よりも穏やかな空気が流れていた。
「ああ…先輩…」
嬉し涙をハンカチで拭いながら、有屋は安心している。お嬢様のばぁやみたいだ。
「さてと!オイトマするか。じゃあな」
「…ええ」
ペンションから出るや彼は立ち止まり、こちらに言った。
「オレな、そろそろ時空から去るよ」
「うん。さよなら…」
「さようならを言う前に、辰美ちゃんに会おうと思ってさぁ」
「えっ、何で?アタシに?」
「それは──」
突如として空が割れて眩い太陽光が降り注いだ。熱いほどの光に目をしばたかせていると、何かが翼を広げて降りてくる。その姿に見覚えがあった。
青い美しい羽を煌めかせ、少年が現れる。あの衛星眷属だ。
「こんにちはぁ♡月の宇宙のみなさぁん」
突如別の宇宙の存在である衛星眷属が降臨し、入口に居た春木たち神々は驚く。
「ボクは太陽の子のお使いであるイツッヤカハラ・アアハマワラタシーでぇす」
「何しに来たの?」
春木の問いかけに彼は爽やかな笑顔を向けた。
「迷子を迎えに来ましたぁ」
「まさか…私を?」
「ブップー!違います!アナタの双子、そちらのヒトで〜す」
悪神を指さすと、彼は唖然とする辰美を頬にある瞳で見やった。ギョロリ、と瞳には意思があった。
「辰美ちゃんのおかげで迷子さんを感知できたようなもんだしぃ。感謝しないとぉ」
「アタシ何もしてないよ」
「もぉ〜謙虚なんだからぁ。さ、行きましょう!金星の分身!」
芝居がかった動作で両手を広げると、空が歪み、変哲のないエレベーターが現れた。よくあるデパートのエレベーターに類似したソレがチンと一階にたどり着き、扉を開ける。
(エレベーターで帰るんだ…)
「あ、貴方…」
「太陽の子の分身さん。アナタは月の世界で生きた方が幸せだよぉ。ワケは話せないけど、多分ね、世界一幸せになれると思うよ!」
明るく言い放ち、イツッヤカハラは拍手した。
「おめでと〜!月の世界に受け入れられた分身さん!」
「先輩は帰らなくて住むのね?!」
「そーそー」
「ありがとう!」
柄になく大喜びした秘書に春木は素で目を丸くしている。
「なあ、地球の神の分身。ラア・ライオアドー。それがオレの真名だ。覚えておいてくれよ?」
夜空と同じ色をした髪をなびかせ、彼は言う。握手を求められ、戸惑いながらも異形の手を握った。酷く冷たい肌だった。
「じゃあな」
「うん。またね」
「アハハ!またね、だってよ!ウケるわ!」
エレベーターに乗り込んだ二人を見送り、空を見上げる。煌めきが失せ、彼らは消えていった。
(アマツミカボシもいなくなっちゃった…)




